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2018年03月07日14:17

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「中国はなぜ軍拡を続けるのか」(阿南友亮 著)読了

中国の軍隊、すなわち「人民解放軍」は中国共産党の私軍である…ということをどれだけの日本人がご存知だろうか。先進主要国の軍隊は、制度的に国家に所属する「国軍」であり政治的に中立だが、解放軍は共産党という特定政党に忠誠を誓う世界最大の「私設軍隊」なのだ。

こういうことは日本人の想像力を超えている。次元の違う話だが、このことは米国にとっての銃規制問題(合衆国憲法修正第1条)に酷似している。しかも、同じように近代民主国家のあり方をゆがめ、社会に対する宿痾でありながら、国家成立の根幹にかかわるためにここから脱却できないでいる。

かつて毛沢東は、「政権は銃口から生まれる」と言った。解放軍はなぜ政権成立の根幹なのか。本書に拠ってその歴史経緯をたどると…

1.国共内戦と中華人民共和国の建国
 共産党は国共分裂後、国民党と二次にわたる熾烈な内戦を戦ってきた。共産党とはすなわち軍組織そのものであった。しかも経済的に閉塞された状況のなかでの自給自足だったから自ずと統治行政機構を備える組織となった。建国後の地方統治はこうした統治能力に長けた軍内の実務者が担っていった。中国(共産党)の行政機構は解放軍の統治組織の分裂増殖を通じて確立してきたのだ。
 
2.文化大革命
 大躍進の失政でいったんは失脚した毛沢東の奪権は、林彪麾下の解放軍の支援を受け、その強権・独裁の復活が実現した。劉少奇ら実権派は軍組織への浸透が弱く脆くも失権した。廬山会議で毛批判の先頭に立った彭徳懐は、朝鮮戦争の経験から解放軍の近代化を図ったが失脚、後任に林彪をすえた毛の復権の足がかりを与えた。ここでいう「近代化」とは、解放軍から統治支配機能を分離剥奪し装備近代化へ専念させることを意味する。そうした軍の民主化、政治的中立化の動きは毛沢東らによって完全に挫折させられる。

3.��小平の「改革開放」
 毛・四人組時代の不安定と停滞を脱却し、共産党一党支配への不信と不満を払拭するために��小平は国力増強と国民生活向上を大胆に推し進める。その改革のひとつの命題は、内戦・建国時の「野戦軍」を継承した「軍区」として地方分権化し肥大を続ける解放軍の近代化も含まれていたが、��は自らの権力の支持基盤として解放軍に依存するという矛盾から脱却できず軍改革は手つかずに終わる。

4.天安門事件と江沢民の時代
 民主化運動は、共産党の一党支配を揺るがすことになり、��小平はついに党の私軍を発動させ解放軍の民衆弾圧体質を露わにする。改革開放路線を引き継いだ江沢民は、経済振興と解放軍の商工活動という既得権益、軍事予算拡大とを結びつけ自らの上海閥権益との共存共栄を図る。解放軍は、内部機構としてあらゆる経済活動を保持してきたから、こうした軍ビジネスは利権や汚職の温床として膨張を続けた。

5.習近平の登場
 国家権力の頂点として登場した習近平は、江政権時に始まった共産党のレジティマシーの書き換えである「中華民族」ナショナリズムをさらに進展させ「中華民族の偉大な復興」を唱える。江沢民とその取り巻きの権力弱体化を推し進めながらも、一方で、同じ上海閥の拝金主義を基盤とする習近平は、軍産一体化した上海経済圏とは抜き差しならぬ関係にあって軍拡の強力な推進者となっている。中華ナショナリズムのイデオロギーに覆い隠された、貧富の格差拡大、特権層と貧困層の分断、すなわち官民分断という社会不安のマグマはますます膨張深層化している。

この間、日本や米欧先進国が描いた「中国をグローバル経済圏に受け入れ取り込んで発展させていけば、その民主化が進展し共通の価値観が生まれる」という《安定共存》の幻想は完全に裏切られてしまっている。こうした海外からの経済支援と投資は既得権層を肥やし軍事費の源泉となるだけで、この間、中国の軍拡は、陸から海へと変質し日本をはじめとする近隣各国との軍事的緊張を高め、地域の安定化をますます脅かすことになっているからだ。著者は、中国の軍事力を冷静に分析し、過大評価によって世論を刺激し危機感を煽るようなことはいさめつつ、現実の対中政策の見直しを迫る。

では、これからの日本が描くべき対中政策はどのようなものだろうか。

著者は、日本の借款や投資策のようなこれまで西側が維持してきた経済的関与による中国「民主化」の希望的観測を捨て、むしろそうした「関与策」が中国国内と国際社会における緊張増大をもたらしているという現実と正面から向き合う必要があると説いている。日本の対中政策は、オーバーホールの時期を迎えていると警鐘を鳴らす。具体的なものは示されていないが、そのひとつとして尖閣問題のみならず台湾の民主主義と国際的地位にも目を向けるべきだと示唆しているが同感である。

なお、著者の阿南は、元中国大使・阿南惟茂の子息。すなわち終戦時に自決した阿南惟幾陸軍大臣の孫ということになる。阿南惟茂元中国大使は、2002年瀋陽総領事館に北朝鮮人亡命者が駆け込んだ際に中国武装警察が敷地内に侵入し亡命者を連れ去るのを傍観していたという事件当時の大使。日中間の外交問題が頻出した時期にあって、中国に偏り過ぎとの批判を一身に浴びた。しかし、著者はそういうDNAを継承している様子はなく、むしろ、小中高時代を家族とともに中国で生活し奥地にまで踏み込んだ経験によって培われたフィールド感覚を持つ稀少な若手中国研究者といえる。

本書は、中国と関わりを持ち強い関心を持つ人はもちろんのこと、この厄介な隣人と接することを宿命とする日本国民のできるだけ多くの人に読んでいただきたいと思う。今の日本における傑出した現代中国論だといえる。



中国はなぜ軍拡を続けるのか
阿南 友亮 著
新潮選書
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