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2017年11月25日21:42

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《気を晴らす》音楽 (田部京子 ピアノ・リサイタル)

田部京子さんが、浜離宮朝日ホールで続けているドイツ・ロマン派のリサイタルシリーズ。『シューベルト・プラス」の第三回。

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その後半に据えられるのは、シューベルト晩年のソナタで第18番「幻想」、第19番と続き、今回は第20番イ長調のソナタとなります。前回のリサイタルについて、私はそれを「《心境》の音楽」だと書きました。そしてそのプログラムに、ベートヴェンとシューベルトの《晩年》の重なりとそれが落とす影を感じたのです。

今回は、久々にモーツァルトでの口開け。

ハ長調のソナタは、私の大好きな曲。この曲を聴くと思い出すのが、NHK朝ドラ「純情きらり」の宮崎あおい。

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「純情きらり」の原作は、太宰治の娘・津島佑子の『火の山―山猿記』など津島のいわば家族史小説。主役の桜子(宮崎あおい)は周囲の反対を押し切って東京音楽学校に進学。そこで幼なじみの達彦( 福士誠治)と再会し結婚するが達彦は徴集され戦地に赴く。八丁味噌蔵元という婚家の姑にうとまれ辛い日々を送りながら夫の帰還を祈る桜子が繰り返し弾いていたのがこのモーツァルトのソナタでした。

「気晴らし」というといささかそぐわないと思われてしまうかもしれません。広辞苑によると『《気晴らし》:ふさいだ気分をさっぱりとはらいのけること。気散じ。憂さ晴らし。」とあります。でもモーツァルトはそういう音楽を、しかも飛び切り上等の音楽をたくさん書いています。

そもそも《ディベルティメント》とは、イタリア語の“divertire”(気晴らし)から来ています。英語で言えば“diversion”ということになります。貴族の食卓や社交、祝賀の場のために書かれたいわばBGMですが、モーツァルトの室内合奏曲の傑作が並んでいます。田部さんのハ長調のソナタを聴いていると、心が軽やかに跳躍して本当に気持ちが晴れやかになるのです。

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ベートーヴェンの27番のソナタにもそういうところがあります。

中期の傑作群からも晩年の深淵なソナタ群からもちょっと孤立したところにぽつんとあるソナタですが、この時期、ベートーヴェンはスランプに陥っていたと言われています。戦争や難聴の進行、貧窮に加え決定的に婚期を逃したベートーヴェンの作曲は停滞していました。それだけにこのソナタには気持ちを晴れやかに保とうというベートーヴェンの意志を感じます。

二つの楽章だけからなる小ソナタですが、その両楽章ともにドイツ語で長々とした発想表記がされています。『…感情と表情を持って』『…そして十分に歌うように』と。旋律線を重視したとても歌謡的な音楽構成はシューベルトにも影響を与えたと言われています。モーツァルトのハ長調にもそういうところがありますが、鼻歌を歌いながら気を散じ、憂さを忘れてしまうようなひとときを求めているような音楽。この日は開演前にちょっとしたことがあって、私もそういう気持ちでこのソナタを聴いていました。

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そして、シューベルトのD959。

晩年の3つのソナタのなかでも私の一番好きなソナタ。4年前のルプーや昨年のツィメルマンの演奏のイメージがいまでも鮮烈に残っています。田部京子さんは、その二人よりもポリーニに近い。隠棲者の音楽というイメージのルプーや瞑想の美音とでも言うべきツィメルマンに対して、ポリーニもいまここで聴いている田部さんも、明るく透明度が高く、それでいて柔らかく肉声に近い音調で、何よりもよく歌うのです。明るい色調と透明な抒情と、それとは対照的な仄暗い憂鬱と妖しく燃える情熱が交錯するシューベルトには、どうしても不可欠な資質なのです。

さながら歌曲のピアノ編曲でも聞かされているように、恋歌なのか、祈りの歌なのか、別れの歌なのか、常に何らかの歌が歌われているようなソナタ。隠棲者の回顧的な心情が滲み出る第二楽章でも、田部さんはあくまでも歌い続けます。ポツリポツリと左手で爪弾くように刻むリズムが孤独な影を伴うのですが、歌そのものはとても無心無我。

決して厳しい音楽ではないのに、とても深い。寂しいひとりぽっちなのに、とても満ち足りた気持ちへとどんどんと包まれるように取り込まれて、現実の憂さでかさついていた心が潤うように洗われていきます。そういう暖かさに満ちたシューベルトでした。








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田部京子 シューベルト・プラス 第3回
田部京子ピアノ・リサイタル
2017年11月19日(日) 14:30
東京・築地 浜離宮朝日ホール


モーツァルト: ピアノ・ソナタ第10番 ハ長調 K.330
ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ第27番 ホ短調 op.90

ブラームス:4つの小品 op.119
シューベルト:ピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D959

(アンコール)
シューベルト:アヴェ・マリア(吉松隆 編)
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