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2017年10月04日22:06

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『「音楽の捧げもの」が生まれた晩』(ジェイムズ・R・ゲインズ著)読了

マイミクのロベルトさんが紹介された本を私も読んでみました。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1962486900&owner_id=7240609

バッハの生涯に新しい視点から挑んだ評伝でなかなか読み応えがありました。

バッハが自らの作曲人生とその技法の集大成として書かれた労作である「音楽の捧げもの」は、「フーガの技法」とともに最晩年の傑作というにとどまらず、西洋音楽の対位法の頂点を成す孤高の名作と高く評価されています。

その「音楽の捧げもの」が生まれたいきさつは広く知られています。1747年の春、バッハは、ポツダムの宮殿にフリードリヒ大王を訪ねます。当時、バッハの次男カール・フィリップ・エマニュエルが大王に仕えており、たびたび来訪を乞われていました。

バッハはそこで大王から与えられたテーマをもとにカノンを即興で演奏するという座興を演じることになるのですが、与えられたテーマはあらかじめ大王がカノンという様式に最も馴染みにくいように準備されていたものだったのです。バッハは要求通り三声のカノンをその場で弾いて周囲を驚かせますが、大王の悪意に満ちた要求は留まるところを知らず、さらに六声によるカノンを求めるのです。さすがのバッハもこれを辞退することになります。けれども即興は無理でも、必ず作曲して献呈すると宣言します。二ヶ月後に見事にその約束を果たすことになりますが、同時に作曲された凝りに凝った複雑な技法を極めた他の曲とともに、合わせて9セット16作品の曲集として献呈されます。それがこの「音楽の捧げもの」。

本書は、その出会いに至るまでのバッハの生涯を、一方のフリードリヒ大王を対峙させて、あたかも二声のカノンのように絡ませながら描いていきます。

プロシア王リードリヒ2世は、音楽史的には、生来芸術家気質で自らもフルートを奏し、カール・フィリップやクヴァンツを始めとする音楽家を宮廷に擁する啓蒙王として名を残しますが、一方では父王との激しい確執を経てやがて王位を継承するとその父王以上に軍備拡張にまい進し、七年戦争の荒廃を乗り越えながらプロイセンの領土拡張に狂奔し戦争に明け暮れ、晩年は精神と肉体の荒廃に苛まれながら孤独の中で崩じた王として歴史にその名を刻んでいます。

大王は音楽に造詣の深い啓蒙主義者として、当時の主流となっていた親しみやすいファッショナブルな音楽語法を奉じていて、バッハの音楽は古めかしく時代遅れなものとして見下していました。老バッハは、その地位や音楽的な名声にもかかわらず、そうした守旧派の代表のようなレッテルを貼られ絶えず攻撃されていたというのです。底意地の悪い王のテーマはそのような挑戦そのもので、一説には実の息子カール・フィリップの作だとも言われ、息子はその片棒をかついでいたというのです。バッハはその挑戦にみごとに応えたのですが、中央ヨーロッパの戦乱に明け暮れる大王からは報償ひとつ与えられることもなくそれは忘れ去られていきます。バッハは、決して聖人のような誰もが崇める大作曲家ではなく、頑固で癇癪持ちで雇い主の宮廷や教会、市議会などと絶えず衝突を繰り返す俗人でもあったのです。

クライマックスを成すのは、もちろん最終章となる「音楽が捧げられた夜」。

本書の圧巻となるのは、やはり、「音楽の捧げもの」や「ロ短調ミサ」などの晩年の傑作の楽曲分析の部分です。その分析をバッハの苦難に満ちた生涯をたどりながらその意志や意図の類推とともに描き出しています。バッハと大王のテーマが交互に追うように対位して描かれてきた物語がついにひとつの壮大な響きとなって鳴り渡ります。

その後に迎えた「エピローグ−歴史の評価」はさらに著者の筆致は冴え渡り、読むものの心に染み渡るような余韻を残します。

バッハの傑作「マタイ受難曲」は、言うまでもなくキリストの受難を描く音楽劇ですが、磔刑の終幕は何とも残酷で未決着な終末です。その決着はあくまでも復活祭まで待たなければなりません。この「受難曲」は、当時の人々からは酷評もされていたといいます。それが百年後に復演されてから二十世紀に至って盛んに演奏されて現代人の思想や宗教観に深く浸透します。それこそ、復活のドラマそのもの。18世紀のパリサイ人たちと偽善の祭司、裏切りの息子と王によって忘却に追いやられたバッハの生涯と作品が、100年後に復活するという感動の復活劇が、本書のエピローグで語られるというわけです。

ロベルトさん とてもよい本をご紹介いただきありがとうございました。


フォト
「音楽の捧げもの」が生まれた晩
バッハとフリードリヒ大王
ジェイムズ・R・ゲインズ著 松村哲哉訳
白水社

原書: Evening in ghe Palace of Reason
Bach Meets Frederick the Great in the Age of Enlightenmnet


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