この日の東京は、ひどい雨。池袋駅前のバス停からほんのすぐの劇場までなのに傘はぐっしょり濡れてしまう。
この日も、前半にショパンの第一番のコンチェルトと、後半はベートーヴェンの英雄交響曲とプログラムはいたってシンプル。
ソリストのケイト・リウは、2015年のショパンコンクール第3位。1994年シンガポール生まれのアメリカ人で、シカゴ音楽院に学び、現在はカーティス音楽院の学士課程に在学中とのこと。真っ白な飾り気のないロングドレンスに身を包んだスラリとした長身で、その面持ちには純朴といってよいほどのあどけなさを残す。
そのショパンは、安定したテクニカルで、その姿そのものを映したようにとても清潔。
オーケストラが、ちょっと過大。管楽器こそスコア通りの2管編成だけれど14−12−10−8−6と、この曲にしては大編成。指揮のレナルトは、若いソリストを見守るということなのかもしれないが、積極性は皆無であまりに無為無策。
この日の読響は、前回と違って、ほとんどが正規メンバーで充実していたけれど、ほとんどピアノを聴いていない。何も若手を相手にウィーン・フィルなみの「対話」の妙技を期待するわけではないけれど、もっとピアノに語りかけて、ピアノの話しをを聴いてあげてもよいのではないか。アンサンブルが乱れるというわけではないが、微妙に無機的なズレが生じるし、リウのピアノもつじつまを合わせるようにフレージングの最後で待つようなところがある。それでも、クリーンで清々しいショパンは楽しかった。
秀逸だったのは、アンコール。
何度ものコールに、はにかむように答えて弾き出したのが、ショパンの前奏曲の中でも一番に長い「雨だれ」。必ずしもアンコールを予定していなかったのだろうか。雨模様にかけたとっさの選曲だろうが、その十分に水気を含んだソステヌートの沈み込むような響きは、本番でのオーケストラの重みがうっとうしく感じるほどに淡泊でさえあったショパンとはまるで違う。中盤の低弦を十分に響かせたダイナミックスの大きさは、やはりさすがショパンコンクール上位入賞者だと思わせるものだった。
後半の指揮者とオーケストラは見違えるような見事な演奏だった。
オンドレイ・レナルトという指揮者は初めて聴いたが、スロヴァキア出身で1974年のブダペスト指揮者コンクールで第3位入賞。優勝者の小林研一郎とは対照的な職人気質の指揮者だが、けれん味のない中欧正統のベートーヴェンを聴かせてくれる。聴衆やオーケストラを感情的に扇動するわけではないけれど、それとはまた違った高揚感へと導いてくれるベートーヴェン。
読響も驚くほどよく鳴った。
何と言っても弦楽の充実。前回に続いてコンミスは今シーズンから参加した萩原尚子。そのリーダーシップを肌で感じるような充実した響きで、密度の高いアンサンブルを聴かせてくれる。第�軍攵呂離肇螢�でのホルンも見事。日橋のホルンは、ショパンではもう少し柔らかな透明感が欲しいと思ったがここでは本当に英雄的な濃厚さ。ティンパニの岡田も曲想に合わせてマレットを持ち替えながらの大奮闘。
レナルトの指揮は、こういう古典でこそ示されるその良識のようなものが持ち味なのだろう。ヨーロッパ中枢で歴史をかけて懇切丁寧に磨き上げられた音楽なのだ。編成は前半に1プルトずつ加えた大編成だが管楽器はスコア通りの2管。それでも音色の鮮明さ、敏捷な運動量と、厚みを両立させているのは見事。第�騎攵呂旅睛箸�ら、最後の終楽章の変奏曲の乱舞疾走まで久しぶりに胸のすく思いがした。
第197回土曜マチネーシリーズ
2017年5月13日(土) 14:00
指揮=オンドレイ・レナルト
ショパン:ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 作品11
(アンコール)
第15番 変ニ長調ソステヌート「雨だれ」
ベートーヴェン:交響曲 第3番 変ホ長調 作品55「英雄」
指揮=オンドレイ・レナルト
読売日本交響楽団
ピアノ=ケイト・リウ
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