106回目を数える定期演奏会だが、これまで「紀尾井シンフォニエッタ東京」として活動してきた紀尾井ホールのレジデント・オーケストラの新たな再出発となる公演。
そういう記念すべき公演だけれども、プログラムはいたって渋い。多少なりとも慶祝気分があったのは、新たに首席指揮者に就任するウィーン・フィルのコンサートマスターであるライナー・ホーネックがソロのひとりとして弾き振りしたバッハのドッペルコンチェルトぐらい。
けれども内容は、新生というにふさわしい充実ぶり。何かが変わった。
リニューアルにともない、4月に始まる年度シーズン制となった。その移行期間は、主要メンバーによる室内楽コンサートがあっただけで、オーケストラとしての活動は休止していた。その間に何かあったのだろうか。メンバーの顔ぶれなど、そのしつらえは何一つ変わっていない。でも変わったのだ。それも、とても良い方向に。
何がどう変わったのか?
それは体幹が強くなった。鍛えられたということだと思う。
体幹を鍛えるということは、近年、スポーツの世界でよく言われている。体幹とは、言ってみれば骨盤から横隔膜にかけての「胴体」の深層部の筋肉のこと。いわゆるインナーマッスル。外からは見えないし、普段からも運動するときであっても意識されることのほとんどない筋肉。けれども身体を支える根幹部であって、上体も腕もこれに乗っかるように支えられて動く。
オーケストラにとって「体幹」とは何だろうか。それは、ハーモニーでありリズムのことだと思う。それが鍛えられるということは、どんなに曲の様式や時代が多岐にわたっても音楽の基本が揺らがず、自由・闊達に音楽が動くということ。
この日のプログラムは3曲のみだが、それぞれにずいぶんと違う。
一曲目はストラヴィンスキーの、いわゆる新古典主義スタイル。協奏曲とあるが、厳密には合奏協奏曲というべきで、しかも、ソロ(コンチェルタント)はごく限られているので弦楽オーケストラとあまり変わらない。20世紀音楽の難渋さは皆無。軽快でわかりやすい。
ストラヴィンスキー独特のインテンポが小気味よく小刻みなリズムのステップとなって、その上に明るいモダンな輝きのハーモニーが軽快にかつ切れの良い軽妙さでコラージュしていく。軽快な曲なのに、最低域を支えるコントラバスの響きと表情がとても豊か。聴いているとそういうボトムの土台が決して重くならず軽快に動きながら、トップの姿勢は真っ直ぐで両腕が華麗に動く。そういうストラヴィンスキーのモダニズムを堪能させられる。
コントラバスの強さと豊かさにあらためて気づいたのは二曲目のバッハ。
編成は、この曲だけ縮小されて6−6−4−1−1の弦楽4部(チェロとコントラバスはユニゾン)とチェンバロとチェロの通奏低音という編成。和声音色のコラージュともいうべき1曲目とは対照的に、バッハのカノン的な対位法の技法が冴え渡る。第一楽章では、リトルネロ形式の合奏協奏曲で、二組のコンチェルタントがしばしばそれぞれが従えるトゥッティから抜け出し、ツー・バイ・ツーの二重の絡み合いを展開する。第三楽章ではそれが、テンポを上げていっそうエキサイティングなカノンとなるのだが、バスの動きがノリにのっている。それがユニゾンのチェロ本隊をぶいぶいと闊達にさせている。
休憩をはさんでの後半のハイドンの大曲。
その序奏の第一撃で目が醒めた。この響きはまさにシンフォニックな古典派の骨太の響き。しかも、厳粛なカトリック教会音楽の重厚で深々とした響きは、ずっと後のブルックナーに確実に連なっている。なかなかこんな響きを出せるオーケストラは日本にはない。ストラヴィンスキー、バッハ、ハイドンと、三者三様のハーモニーを出すことは、弦楽群を中心にオーケストラが一体となったハーモニー感覚を持たないと出て来ないと思う。
それをどうやって半年の空白期間に身につけたのかはわからない。ホーネック効果が早くも現れたということなのか。長らく常任指揮者を置かなかった紀尾井だが、ひんぱんに客演を重ね良好な関係を築いてきたウィーン・フィルのコンマスを首席指揮者に迎えたことは自然な流れだったのだろう。このホール音響をよく知り、しかもオーケストラの統率にかけては超一級の経験を持つホーネックを迎えたことを大いに喜びたい。そう思わせるに十分過ぎるほどの素晴らしいリニューアル・オープニングだった。
紀尾井ホール室内管弦楽団 第106回定期演奏会
リニューアル・オープニング
2017年4月22日(土) 14:00
座席:2階センター2列目13番
ストラヴィンスキー:ニ調の協奏曲(バーゼル協奏曲)
バッハ:二本のヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調BWV1043
(アンコール)
アンコール:ヨーゼフ・ヘルメスベルガー父:
バッハ/2本のヴァイオリンのための協奏曲のカデンツァ
ハイドン:十字架上のイエス・キリストの最後の七つの言葉 Hob.XX/1A
紀尾井ホール室内管弦楽団
コンサートマスター:玉井菜採(前半)、千々岩英一(ハイドン)
ソロ(バッハ);ライナー・ホーネック、千々岩英一
指揮:ライナー・ホーネック
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