久しぶりの「レコードでジャズを聴こう!」という集まり。
いつもの神保町アディロンダックカフェは、ママさんの体調不良で店を一時的に閉めたり開けたりの状況で、今回は新たに会場を原宿に移しての開催となりました。
お店は、bar dAZE。竹下通り口からちょっといったウラ原宿の横丁のビルの4階にあります。
このお店の「顔」は、いかにもジャズバーらしい、ALTECのA7。
ところが、窓際のテーブル席に座ってくつろいで聴くと、お店の空間にゆったりと拡がる中低域を感じて、そのなかに左右のリズムセクションとホーン、ピアノがふっと空間に浮かび上がります。ここからではA7は真横を向いていて鳴っているとは思えません。なにしろ1本ですから、この左右のステレオ感覚は不思議です。
マスターに伺うと、ちょっと笑って教えてくれました。
ステレオであっても、左右をミックスして1本のA7で再生しているとのこと。
ただ、それでは中高域がくっきりしないので、お店の左右の壁の天井近くに左右一対ずつのスピーカーを設置して、これで左右のステレオで鳴らしている。クロスは1KHz辺りなのだそうです。
中高域のスピーカーはボーズ。
「BOSEというとコアなジャズファンはすぐに見下してしまいますからね」とマスターはにやりとします。普通に聴いているとちょっと気づかない位置に小さなスピーカーがセッティングしてあります。お店の「顔」はあくまでもA7というわけです。
そのサウンドはお店のなかにふんわりとした音場を作りだし、その音場にぽかりと鮮明なプレーヤーたちのインプロビゼーションを浮かび上がらせる絶妙なバランスです。左右のインタープレーも中央のピアノの熱気も見事。
それでいて、会話を邪魔しない。
この会は、毎回、演奏者などのテーマを決めて主宰兼司会のNさんからちょっとディープな話しをお聞きしながら進めます。音源はLPレコード限定というこだわり。ところが集まった紳士淑女の皆さんは、私と同様にそれほどジャズに詳しいわけではなく、お目当ては楽しいお酒と会話だったりします。
この日のテーマは、マッコイ・タイナー。
会話に夢中でなんだか集中力に欠けた皆さんに、主宰のNさんはちょっぴり不満そうでしたが、このお店の音場的サウンドは会話が溶け込んでしまうので音楽と会話がバッティングしないのです。会話に夢中のようでいて、私はけっこうマッコイ・タイナーの、コルトレーンとのトリオ時代、それと袂を分けてからの彼のスタイルの変遷を楽しんでいました。
これで、ちょっと思い出したのがエムズシステムの円筒形スピーカー。
直径20センチ、長さ40センチぐらいの円筒の両端にスピーカーを取り付けただけのシステムで、実際に聴いてみると豊かな音色で彩られた音場がふわっと正面を中心にして部屋全体に拡がります。その音場の広さ、深み、豊かさは、実際に体験してみないとちょっと信じがたい。何よりも部屋の空気がしっとりと感じさせるくつろぎを感じさせる優しさと癒やしのサウンド。どこからともなくモーツァルトが聞こえてくる。…確かな実体をもって。そんな感覚です。
小さくてインテリアにも馴染み、値段もさして高くない。だから、高級ホテルなどで客室に採用するところが増えてきているそうです。最近では、病院なども採用するところが出てきたとか。
「音場」とか「音場型スピーカー」というのは一般的にはそのようなイメージではないでしょうか。
バー dAZEもそうですが、そのサウンドは、私のように真っ向から向き合って音楽を聴くというスタイルとは違います。私のような聴き方をすると「音場」というのはもっと違う意味合いで、ひと言で言えば「リアルな演奏会場へワープする」感覚といえるでしょうか。自分のリスニング環境を、コンサートホールという立体空間に丸ごと変えてしまうという感じ。その感覚はずいぶんと違います。
だから「音場」とか「音場型スピーカー」という言葉は誤解とすれ違いを招きやすい。でもこっちが「ニセの音場」でこっちこそ「真の音場」だなんてそんなに息張ることはない。
Nさんのお話しによれば、フリー・ジャズという難解な世界に傾倒していくコルトレーンに反発し袂を分かったマッコイも、自身、けっこうテクニカルに複雑な新しい様式に取り組んでいた時期があったとか。でもそれはあくまでも若手を啓発し鼓舞するためであって、70年代半ばからロン・カーターやエルビン・ジョーンズと三者対等に組んだトリオなど、深みのあるバラードを聴かせています。
若手や後進を鼓舞するのはいいが、でも敷居は高くしない方がいい。音場型サウンドで聴くマッコイのように。
いつもとても楽しい“レコードでジャズを聴く会”でした。
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