フランス資本傘下の美しい蒸留所の次に向かったのは、ハイランド・ウィスキーのメッカとも言うべきスペイサイド。
今度は逆向きに南下し、インヴァネスの街を通り抜けてエルギンの街から山の中を入っていきます。その道すじこそスペイ川にそった緩やかな登り道なのですが、今まで走ってきた海岸沿いの平野からゆっくりと丘陵地帯へと変化し、やがてそれがいつのまにか緑の濃い山道となるのです。そしてそこかしこに蒸留所があって、まさにここは蒸留所の銀座通り。
街並が美しいロセス(Rothes)の街から脇道に入ったところにグレン・グラント蒸留所があります。
建物は、いずれも立派なたたずまいでちょっと古風な父権的な威厳をたたえています。グラント家は、この地の名家のひとつであってウィスキー事業というのはそういう名家の証しであり、土地の人々への温情をもたらす徳行のシンボルでもあったようです。蒸留所の裏手の奥には立派な庭園もあるそうです。
そのグレン・グラントはイタリア資本のカンパリ・グループ傘下にあります。
グレン・グラントは実は、イタリアで最も人気のあるシングルモルトで、スコッチのシングルモルトと言えばグレン・グラントというほどに高い人気なのだとか。フランス資本のグレンモーレンジといい、こちらのイタリア資本といい、自由貿易とグローバリズムへの反感情とブレクジットに揺れるイギリスの実像とその矛盾が透けて見えてきます。ちなみに案内してくれたお姉さんの英語がとてもわかりやすかったので出身地を尋ねてみたらポーランドとのこと。
いかにも山あいの蒸留所らしく、そのこだわりは水。水源は、沢と井戸のふたつを持っているとか。マウンティング・プロセスといって大麦を水に浸して19日間たっぷりと水を吸わせ山積み(マウント)を作るという独特の麦芽づくりを自慢にしていました。
醸造建屋は清潔で近代的でマッシュタンこそステンレスですが、発酵槽はオレゴン松を使用した木樽にこだわっているとのこと。ウォッシュ(Wash)と呼ばれる麦汁を発酵させた雑ビールは8%のアルコール度があるそうです。
スチルハウスはとても大きくて、8対の大小様々なポット・スチルが並んでいます。
ここのもうひとつの特徴がポット・スチルの上管に設けられたピュアリファイヤー・ボックスで、クリーンでドライなモルトを造っています。色合いも美しい黄金色でその味わいも、さながらリリコのテノールのように香りが高らかでよく唄います。こういうところがいかにもイタリア人好みというわけでしょうか。
ポットスチルの底部には、石炭炊き時代の炉があって昔の名残をとどめています。いまは、ほとんどの蒸留所が別棟のボイラーから引いたスチームで加熱しています。
ちょっと珍しかったのは、自前のボトリング工場を持っていること。見学時もガラス瓶が列をなして軽やかに踊るように流れていきます。見学者もスカイ島やハイランド北部と違ってヨーロッパ人も多くて、やはり税金に対する関心が高いのです。税と酒は切っても切れぬ仲(?)です。
ホットスチルの後のコンデンサで冷却されからそこからほとばしり出るスピリッツを選り分けるスピリット・セーフで、その徴税や税官吏とのエピソードが語られるのですが、そこで課税に関する技術的な質問が出ると案内士はニヤリとしてそれは後でボトリングの時にお話ししましょうという具合でした。
帰り道にもう少し上流にあるマッカラン蒸留所にも寄ってみました。見学ツアーは予約がいっぱいでかないませんでしたのでショップだけでもと立ち寄ったのですが、スコッチのキャデラックと称されるマッカランの工場の外観は意外にも素っ気ないものでした。
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