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2016年04月09日11:38

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ブラームスの室内楽 〜川本嘉子、向山佳絵子、ミヒャエル・ゲース

二日続けての石橋メモリアルホールです。

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この日は、オールブラームス。しかも、ヴィオラ、チェロ、ピアノという渋い組み合わせのプログラムです。

前半にふたつのチェロ・ソナタ。その第1番はヴィオラ版で川本嘉子さん、第2番を向山佳絵子さんのチェロで聴きます。休憩後に、ミヒャエル・ゲースさんのピアノソロで「間奏曲」。そして最後に三人そろってクラリネット三重奏曲(ヴィオラ版)と、ちょっとユニークなプログラムとなっているのです。

最初の第一番は、ブラームスの32歳の作品で、「ドイツ・レクイエム」の成功によって作曲家としての地歩を固めた自信あふれる充実期の作品。いかにもブラームスらしい仄暗い情熱を内に秘めたような旋律で始まりますが、オリジナルのチェロで聴くとその暗い情熱が支配するようなところがあります。ところが川本さんのヴィオラでは、もっと熱い情熱が水面上に沸き上がるように上昇してきて噴き出して歌い上げる。
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川本さんは、ここのところブラームスに積極的に取り組んでいて、おそらく今日のこの公演もその一環なのでしょうか。もともと川本さんはブラームスがとてもお似合いです。そのことは6年前、樫本大進さんのベルリン・フィルへの門出を祝うかのようなピアノ四重奏のアンサンブルで強く感じたことです。樫本さんに加えて、チェロの趙静さん、ピアノの小菅優さんという錚々たる若手スターのアンサンブルだったのですが、あの駆け抜けるようなブラームスのパッションが今でも忘れられません。そういう《勢い》のようなものに乗っていけるようなヴィオラ弾きというのは存外稀少な存在だと思うのです。

第2番は、その21年後の作品。成熟した作曲技法に加えてチェロとピアノには奏法上、高度に技巧的なものが求められています。規模も4楽章と正統な古典交響曲にも負けない大きなもの。向山さんのチェロは、ブラームスの生真面目なまでの情感の格調を描いていてとても充実していました。
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長年、ソリストとして、あるいは自らがプロデュースしリーダーとなっての室内楽のアンサンブルプレーヤーとして活躍されてきたチェリスト。それが3年前にNHK交響楽団の首席奏者に就任。ソリストからオーケストラへの突然の転向は、夫の藤森さんがもともと同じN響の首席だったこともあって、周囲を驚かせました。ご自身も「まさかこの年齢になってオーケストラで弾くことになるとは…」と語っていて自分が一番驚いたとか。「今までの人生の中でこんなに長い時間チェロを弾くことはなかった」「勉強、勉強、の日々…」だとか。大勢を率いるという立場の違いや、ソロとオーケストラとのレパートリーの違いということを率直に語っておられます。とても真面目なかた。

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ピアニストのゲースさんは、私は初めてですが、作曲家でもありリート・ピアニストとして定評のある音楽家だそうです。短いソロでしたが、ブラームス晩年の名作「間奏曲」の1曲は、枯淡の境地とか沈潜する熱情とかそういうものというよりは、無常感というのでしょうか、ちょうど今の朝ドラで心打つエピソードでもあった『世の中は常にもがもな』という、明日も知れぬ世だからこそ一日、一日の何でもないような日常を大切にていねいに生きていたいと願う心のあり方ということだったような気がします。


最後の三重奏曲。晩年のブラームスは、いったんは筆を折る決意をするのですが、名クラリネット奏者のリヒャルト・ミュールフェルトの演奏に触発されて、立て続けにクラリネット曲を書いて創作意欲を取り戻し晩年の傑作の数々を生み出します。不思議なことに作曲者自身によってその全てにおいてクラリネットをヴィオラでも演奏するように指示されているのです。最も有名なクラリネット五重奏曲も、2つのソナタも、いずれもヴィオラ版(ヴィオラ:今井信子)を持っていますが、三重奏曲を聴くのは実はこれが初めてでした。

ここでも、哀感のようなものが色濃く漂うクラリネットを川本さんのヴィオラが置き換えることによって熱い恋慕のような張りのある歌心あふれる音楽になっていくのです。川本さんが参加すると本来は男性的なブラームスの音楽ですが、そのなかに埋め込まれた女性的な歌が浮かび上がってくるような気がします。それは川本さんのヴィオラの音色が明るく運動性に富んでいるということもあるかもしれません。

向山さんは、もともとこの曲のクラリネットオリジナル版の録音に参加されています。今回の企画プロデュースの経緯は知りませんが、おそらくその向山さんの経験と実績が買われてこの公演が組まれたのではないでしょうか。その意味で、オーケストラのお仕事で多忙を極めている日々のなかで久々にソロや室内アンサンブルの楽しさを取り戻されたのではないでしょうか。ピアノのゲースさんの充実した内声の綾と響きもあいまって滋味深いブラームスに仕上げれていて、向山さんの生真面目なお顔にようやくほっとしたような笑みが浮かんだのをみて嬉しかったのです。








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東京・春・音楽祭
ブラームスの室内楽 〜川本嘉子、向山佳絵子、ミヒャエル・ゲース

2016年4月2日(土) 14:00
東京・上野 上野学園 石橋メモリアルホール

ヴィオラ:川本嘉子
チェロ:向山佳絵子
ピアノ:ミヒャエル・ゲース

ブラームス:
 チェロ・ソナタ 第1番 ホ短調 op.38(ヴィオラ版)
 チェロ・ソナタ 第2番 ヘ長調 op.99

 間奏曲 イ長調 (《6つの小品》op.118 より)
 クラリネット三重奏曲 イ短調 op.114(ヴィオラ版)
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