優れたホールは、優れたオーケストラを育てる。
この当たり前のようなことが、実は難しい。その原理がそのままに歴史となっている希有のケースがコンセルトヘボウとそのオーケストラ。ともに世界最高と讃えられるだけに、単に本拠地で聴くということ以上に、どうしても現地で聴きたかったのです。
市中心地から少し離れた南郊地区にあって、それは東京でいえば上野のようなところで、周辺には国立美術館やゴッホ美術館と大きな緑地が広がっています。
ホテルももちろんそこにとりました。ちょうど裏手を一路行けばゴッホ美術館の正面、反対側の一路隣はアムステルダムの高級ブランド街という好位置ながら、とても静かで瀟洒な住宅街のただなかにあります。コンセルトヘボウに歩いて5分。まさに絶好の拠点。
ホールは1888年にオープン。設計は、A.L.ファン・ヘント。アムステルダム中央駅も、そのヘントの設計です。その堂々たる構えと美しい姿は、東京駅丸の内駅舎のモデルともなったと言われています。
建物自体が文化遺産ともいうべき古い建物ですが、なかに入ってみると四角四面の直方体で昨今の現代的な意匠を見慣れた目には実に素朴であっけないほど。
客席数は、2037席ですから東京のサントリーホールと同じかやや大きい程度。平土間の1階席とほんのわずかな2階バルコニー席だけの学校の講堂のようなホールなので、むしろ小さく感じます。
一方でステージは後方の客席と一体となった急傾斜となっていて、指揮者がこの後方席の入口から階段を降りて登場するというのがこのホール特有の風物となっていることはよく知られています。
残響時間が長いことで有名で、空席時で2.8秒とのことですが、実際に体験してみるとこだまのようなつきまとい感はまったくなく暖かく豊かな響きがします。開演前は聴衆の話し声でわんわんと響きますが、いざ開演となると非常に静かに感じますし、最強の総奏であっても個々の楽器の艶や輝きのある音色が鮮やかです。ステージが高いので1階席の前方は好ましいバランスは得られないと思いました。幸い、私たちはほぼ2/3ほどの13列目中央右寄りの席と絶好の位置で聴くことができました。
指揮は、次々シーズン(2016-2017)からシェフに就任予定のダニエレ・ガッティ。プログラムは、マーラーの交響曲第6番。マーラーは、このホールとオーケストラがことのほかお気に入りで何度も訪問し自作を演奏しています。
ステージ後方のホワイエには胸像があって、ここではマーラーが格別の存在であり重要なレパートリーになっています。
オーケストラの音は、都会的で東欧のスラブ色の濃いウィーンとも、機能主義的な国際都市ベルリンやロンドンのどちらとも一線を画していて、真にヨーロッパ的な栄華の芳醇を湛え、あるいはドイツ音楽正統にふさわしい密度の高い音がします。弦は、まさにベルベットのように柔らかな手触りと深い光沢があって、金管は文字通り黄金のように燦然と冴えわたり、木管は透明で豊かな色彩のパレットを持っています。特に傾斜したステージの後方上段に構えるコントラバスの押し寄せるような低音の重厚さと威圧、最上段中央の打楽器群の先鋭さは、このオーケストラの個性を彩る最大の特色というだけではなく、マーラーの交響曲を聴くには最高の資質だと思います。
その最上のお膳立てで聴くマーラー。これはもう至高の体験ともいうべきものでした。
(続く)
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