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2024年07月09日11:02

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プッチーニ「トスカ」(新国立劇場)

堪能した。これぞプッチーニ。

冒頭に短い序奏。スカルピアの動機がどす黒く響く。その分厚い響きの何と雄渾なこと。

この日のベニーニと東フィルが素晴らしかった。音量が厚く雄大。バストロンボーンが加わった金管群とティンパニが最右手、コントラバスが最左手と低音楽器がピットを挟み撃ちにして終始厚く響く。中央正面を木管、その左手にホルン4台。こうした配置が、プッチーニの管弦楽法をものの見事に鳴らしきる。

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張り詰めたテンションが終始緩むことなく、いつもは退屈しがちな最初の教会と礼拝場の場面から小気味よくストーリーが進む。それは何と言っても、歌手陣の素晴らしい歌唱と演技があるから。声と演技とオーケストラが緊密で絶妙に絡み合う。

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トスカのエル=コーリーは、姿も歌唱も素晴らしく圧倒的。とにかく形がよい。さながら歌舞伎や人形浄瑠璃といった伝統古典のように所作と形が決まる。カヴァラドッシのイリンカイの声量と甘い艶やかな声は、これこそイタリア歌劇の魅力ともいうべきものが満開。二人とも、オーケストラに埋もれることなく劇場空間に響きわたる渾身の歌唱。アンジェロッティの妻屋、堂守の志村など日本人脇役陣もいつも以上に演技が冴えている。

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マダウ=ディアツ演出のこのプロダクションは、2000年の初演以来、もう8回目の再演なのだそうだ。新国立劇場屈指の人気レパートリー。古典的な舞台は、美しく豪華。台本に極めて忠実、繰り返し上演されてきて演出の細やかさが隅々にまで行き届いている。それだけに話題になりにくいのかもしれない。個人的にも、久しぶりに観てみるかと足を運んだけれど、その期待が的中。これほど素晴らしい「トスカ」だったのかと大感激。

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残念と言えば残念なのが、この劇で肝心要のスカルピアが急遽代役となったこと。代役・青山は凡演だが、決して舞台を壊したわけではない。第一幕最後のテデウム。“行け、トスカよ!(Va, Tosca!...)”の邪悪な野心の独白も全体の中に埋没してしまうが、かえってこのオペラ最大の見せ場の絢爛豪華な舞台の陶酔に呑み込まれてしまって気にならない。

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第二幕の“歌に生き、愛に生き(Vissi d'arte, vissi d'amore,...)”のトスカ絶対の歌唱でも、スカルピアはていよくベランダに出て舞台から姿を消しているという演出なので邪魔にならない。もちろんエル=コーリーの歌の感激はひとしお。姿と形も見事。ここから「トスカのキス」までのやり取りには、スカルピアの情欲があっさりと演じられるから、かえってトスカの演技に目が集中できる。机上の書類をあさり、スカルピアの死体の手から通行証をつかみ取るまでのエル=コーリーの演技と、真紅のドレスに身を包んだその若い輝くような地中海的容姿が素晴らしかった。

第三幕の、カヴァラドッシの“星は光輝き(E lucevan le stelle…)”を導く、ヴィオリンソロとチェロ4台の合奏、クラリネットも素晴らしかった。閉幕後に、ベニーニが何度もチェロとクラリネットを立たせて喝采したのも大いにうなずける。ソリストをピットで立たせて讃えるのは異例のこと。とにかくベニーニは、終始、上機嫌。情のこもった自身の指揮振りにも、それに応えたオーケストラにも会心の思いがあったのだとわかる。

再演を重ねてきた新国立劇場の定番だけに話題としては盛り上がらないのかもしれないけれど、その舞台の豪華で美しいこと、台本に忠実で非の打ち所のない演出、トスカ本来の若々しくドラマチックな容姿と歌唱のエル=コーリー。見逃すにはあまりにもったいない。



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新国立劇場
プッチーニ 「トスカ」(初日)
2024年7月6日(土) 14:00
東京・初台 新国立劇場 オペラハウス
(1階9列24番)

【指 揮】マウリツィオ・ベニーニ
【演 出】アントネッロ・マダウ=ディアツ
【美 術】川口直次
【衣 裳】ピエール・ルチアーノ・カヴァッロッティ
【照 明】奥畑康夫
【再演演出】田口道子
【舞台監督】菅原多敢弘

【トスカ】ジョイス・エル=コーリー
【カヴァラドッシ】テオドール・イリンカイ
【スカルピア】青山 貴
【アンジェロッティ】妻屋秀和
【スポレッタ】糸賀修平
【シャルローネ】大塚博章
【堂守】志村文彦
【看守】龍進一郎
【羊飼い】前川依子
【合 唱】新国立劇場合唱団
【合唱指揮】三澤洋史
【児童合唱】TOKYO FM少年合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

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