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2018年11月23日15:58

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川口聖加ソプラノリサイタル2018

川口聖加さんは、山梨県甲府市出身、新潟大学教育学部音楽科(大学院)を卒業後、オランダ王立音楽院に留学。古楽やエリー・アメリンクの系譜なのか、澄んだ美しい声とノンビブラートの発声がとてもナチュラル。とても発音がはっきりとしていて言葉をとても大切にするひとです。

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聖加さんが活動の拠点とされている山梨地元での公演に久々に足を運びました。というのもやはり地元での公演というのは独特の親しさと暖かみのある雰囲気があって、東京などの大消費地では味わえないものがあって、しかも、今回は八ヶ岳山麓に近い北杜市での公演ということでそのホール音響にも興味を覚えたからでした。

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改めてコンサート会場に足を踏み入れてみると、ステージにはピアノがあってすっかり音楽会という面持ちを整えています。400席ほどの緩い傾斜のついた客席は、さすがに満席というわけにはいきませんが、中央ブロックはぎっしり満員。何か決まりごとがあるかのように通路より前の数列が空席が多かったのですが、私はためらわずに6列目の中央に席を構えます。

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私の決まりごとは、ほどよい距離は取りつつも前であれば前であるほどよいということです。この場合は、ピアノの白っぽい腹が見えない辺り、ちょうど歌い手の胸の辺りが正面になるような席。ホールの響きの感じもよさそうです。難を言えば、ステージの響きが硬いこと。多目的ホールなので、ステージはあまり響かないように硬い材質の木材と塗料が使われているようです。

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そのピアノにふと目をやると、何とそれはベーゼンドルファーのインペリアル。最低域の鍵盤が黒く塗られた97鍵のモデル290インペリアル。東京のコンサートでも滅多に聴いたことがありません。完璧に整音されていてピアニストのファンニューケルケンさんの腕前もあって素晴らしい音でした。ウィーンのホテル・ザッハ―かデメルのチョコレートケーキのように大人の甘さと滑らかさと光沢のある最上のぜいたくな音色。低音はどこまでも深く滑らかで少しも濁ることがありません。ああ、これこそがベーゼンなんだと改めて思わず生唾を飲み込んでしまったほど。

聖加さんは、地域の催しで活発に活動されていて忙しい毎日を送られていますが、ご自身のソロ・リサイタルはほぼ2年に一度のペースでじっくりと取り組んでおられるようです。今回のプログラムも、いかにも周到な準備を重ねられたということが伝わる、とても充実した内容です。

「子供ための…」と題されていますが、フォーレに始まりセヴラック、女流作曲家のシャミナードと洒脱で愛らしいフランス歌曲があって、後半は自然と浪漫の陰影を含んだシューマンとマーラー。その間にロシアのムソルグスキーの歌曲集《子供部屋》をどっしりと据えるというとても凝ったプログラムです。

歌の合間に、2曲だけファンニューケルケンさんのソロが披露されました。これがまた素晴らしい演奏で、ソロピアニストとしても大変な音楽家だと気づかされます。

聖加さんは、とても言葉を大事にされるひと。言葉の響きを感じ取ることは歌詞の意味を理解できずには難しいこと。歌曲においては歌詞と音楽を切り離すことはできません。以前、聖加さんの頭上に音楽と同時進行に歌詞の一句一句をプロジェクターで浮かび上がらせるという試みもされていました。

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今回は、プログラムとは別に対訳のリーフレットが配られ、また、プログラムの曲題には詞を要約した短句が添えられていて、それを一瞥すれば歌曲のテーマが理解できるというように配慮されていました。聖加さんの並々ならぬ歌曲への思いが込められています。

ムソルグスキーは聖加さん自身による訳で日本語で歌われました。

それは、前後の独仏語のによるある種の成熟した伝統と様式を踏まえた国民言語の詩文と音楽の結合というよりは、子供の純真な心から発する振る舞いとか、発語とか、会話の言葉にそのままに音を配したというような音楽。ロマン主義の決まりごとに一石を投じるような日常的な子供の振る舞いと話し言葉の斬新さに改めて心が開かされるような音楽。

聖加さんのナチュラルな澄んだ発声がとても活かされた時間でした。その声質は、男女の性別が未分化で両性的なところがあって子供の気持ちによく寄り添っていて、微笑ましくもその率直さが胸を打つのです。

この日の聖加さんの声は万全ではなかったようです。

最初のフォーレの4曲を聴いていて、おや?と思いました。いずれは本調子になるとは思いつつも、音高が飛躍するようなところに不安定さが続いて、聴いていていつもとは違うというような不安が拭えなかったのです。

歌手というのは、自分の生身の身体が楽器ですから、常に万全の調子であるというわけにもいかずとても大変です。名だたる名歌手が、突然、大役をキャンセルしたりすることは日常茶飯事で、それが人格的なわがままだというような非難めいたレジェンドになったりさえします。

そういう体調を乗り越えての歌唱だったことが、かえってあのムソルグスキーの男の子とも女の子ともつかぬ天真爛漫な訴えかけが胸を打ったのだと思います。マーラーだって、少し人を喰ったようなおどけと照れ隠しのような愛の歌が、虚勢を張りがちなリート歌唱とは一線を画して、ごくごく人間的な言葉としてよく発語されていました。そのことが川口聖加という歌手の美質なのだと思ったのです。

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そういうことに気づかされたのは、最後のアンコールを紹介する短いスピーチでした。その後に歌われた「落葉松」は、聖加さんのもう名刺代わりのようになった歌。私も、聖加さんに教えられ何度聴いても感動をいただく歌。この日も、それまでの屈託を振り払うように渾身の声量で歌われたこの歌に、またしてもちょっとやられてしまいました。





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川口聖加ソプラノリサイタル2018
「子供のための歌のアルバム」

2018年11月10日(土) 16:00
山梨県北杜市 八ヶ岳やまびこホール

川口聖加(ソプラノ)
マリーン・ファンニューケルケン(ピアノ)

ガブリエル・フォーレ
1.蝶と花 Op.1-1 (詞:ヴィクトル・ユゴー)
2.リディア Op.4-2 (詞:ルコント・ド=リル)
3.愛の歌 Op.27-1 (詞:アルマン・シルヴェストル)
4. 歌を教える妖精 Op.27-2 (詞:アルマン・シルヴェストル)

デオダ・ド・セヴラック
5.私の可愛いお人形  (詞:デオダ・ド・セヴラック)

セシル・シャミナード
6.アレルヤ (詞:ポール・マリエトン)
7. 宝石箱 (詞:ルネ・ニヴェール)
8.怠け者の月 (詞:シャルル・ド・ビュシー)


セシル・シャミナード  Automne 秋(ピアノ・ソロ)


モデスト・ムソルグスキー
歌曲集<子供部屋> (ムソルグスキーによるロシア語原詞からの日本語訳詞:川口聖加) 
9. 乳母といっしょに 
10.すみっこ 
11.かぶとむし 
12.人形遊び   
13.おやすみ前のお祈り  
14.子猫マトロス  
15.木馬

・・・・・・ 休 憩 ・・・・・・

ロベルト・シューマン
<子供のための歌のアルバム>より 
16.眠りの精  Op.79-12 (詞:ヘルマン・クレトケ)
17.蝶々  Op.79-2 (詞:ホフマン・フォン・ファラースレーベン)
18.てんとうむし  Op.79-13 (詞:民衆歌謡詩集<子供の不思議な角笛>より)
19.雪の鈴 Op.79-26 (詞:フリードリヒ・リュッケルト)
20.春だ  Op.79-23 (詞:エドゥアルト・メーリケ)

シューマン/リスト 献呈 (ピアノ・ソロ)

グスタフ・マーラー
<子供の不思議な角笛>より 
21.誰がこの小唄を思いついたの?
22.ラインの伝説

日本の歌
中田喜直
23.風の子供  (詞:竹久夢二)
24. 小さい秋見つけた (詞:サトウハチロー)
25.おやすみ (詞:三木露風)

山本正美
26.ねむの木の子守唄 (詞:皇太后妃美智子殿下)

(アンコール)
小林秀雄
27. 落葉松(からまつ) (詞:野上彰)

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