長い間、やってみたかったことにようやく挑戦してみました。
それはカートリッジDL-103を削るということ。
金田式アンプの金田明彦氏が提唱していたことで、本体のシェル取付面を中の磁気回路が見えるまで削るということ。取付面の板が共鳴して、エネルギーがロスしているというのです。
実行できなかったのは、YAMAHA GT-2000の純正アームがユニバーサル型ではなくアーム部にネジ締めで止める準一体型のシェルだったから。今のリジッドフロートアームに換えてユニバーサル型になりましたが、附属のシェル(ViV Labo NELSON HOLD)が細身でシェル背面がはみ出してしまいます。このはみ出した取付面の板を羽交い締めのように締め付けるのがこのシェルの特徴になっているのです。そういう構造のために取付面を削ることは躊躇していました。
そこで、シェルそのものを新たに物色してみました。
すると目にとまったのが、FIDELIXの“MITCHAKU”というヘッドシェル。何だか人を食ったようなネーミングですが、要するに取付ピンに工夫してアーム取付部と密着させるというもの。上ピンと下ピンの中間に配置した横ピンを上下ピンが等しい力で引き込むシーソー構造によりシェルとアームの密着性を高めたというもの。メーカーによれば、ヘッドシェル一体型アームと同等の剛性を得ることで、しっかりした音質を得たといいます。
シェルそのもののデザインもかつての名器オーディオクラフトAS-4PLを思わせるシンプルなもの。このデザインはオルトフォンやオーディオテクニカなど良心的なメーカーのものとも共通ですが、FIDELIXのシェル本体はかなり厚手でよりしっかりしています。本体重量も16gとかなり重めです。
カートリッジは、厚ガラス板に耐水ペーパーを貼り付け、粗めの300番から削り順次細かい目のものへと慎重に研いでいきます。取付面のシリアルナンバーのシールも剥がしてしまいます。もう後には戻れません。取付面が透けて内部の義気回路が薄らと見えてきたあたりでで仕上げ研ぎでピカピカの鏡面に近い平面に磨き上げます。
さっそくこれをヘッドシェルに取り付けて聴いてみました。
まず一聴して、高域の伸びがよくなり少しの曇りもなくなったことに驚きました。ピアノの右手の高域などピーンと伸びてしかもダイヤモンドのように美しい輝きです。ぐっと靜かになったこと、低域の沈み込みが増したことはヘッドシェルの効果なのでしょう。
大成功と思って聴き進めていると、どうも中域がぼけてしまっています。弦楽器のアンサンブルはある意味で気持ちがよい面もあるのですが、ピアノでは打弦の頭が取れてしまって筐体の響きだけになってしまい安物の緩めのオルガンのような響きになってしまいます。
思い悩んでいると、思い当たることがありました。
自分の悪い癖で、こういう何かを変更して検証試聴する段階で、ついでに他のことも一緒にやってしまいます。あるアクセサリーを、ちょうどよい機会だと何気なくついでに試してみて初印象がよかったので使い続けていました。それを使っていることさえ忘れていましたが、それが良くなかったのです。あえてそれが何かは伏せますが、それを元に戻すとしっかりとした音になりました。
ところが、まだ、いけない。内周部に来るとどうも変です。
これはオーバーハング調整をちゃんとやらなかったせいでした。リジッドフロートアームはピュアストレートアームですので、実際は、アンダーハングになりますが、これを附属のシェルと“MITCHAKU”シェルと共通になるようにできていなかったのです。共通にしようとするとカートリッジの取付面が前にはみ出してしまいます。それを嫌ってぎりぎりの取り付け位置にしていたのですが、それでは有効長が5mm程度短くなってしまいます。これではやはり内周部ではトラッキングエラーの限界を超えてしまうようです。
あえてはみ出し気味に調整しました。これで聴いてみると素晴らしく音が良くなりました。中低域と高域のバランスもよくなり、特にピアノでは低域、中域、高域のそれぞれの音色のコントラストが活かされながらも全体の響きと打音の分離が良くなります。オーケストラも古い録音ではアナログらしいエネルギッシュさが全面に出て、新しい録音ではさらにSNと分解能の良さが出て立体的ステージが前後と左右に拡がります。
素晴らしいと感じたのは、ミルシテインのバッハ無伴奏。
造形の正確さと厳粛なまでの音楽性が持ち味のミルシテインの演奏でしたが、高域の伸びの美しい音色が素晴らしく、ミルシテインの純真無垢な美意識がぐっと浮かび上がってきたのです。DL-103は超ロングセラーの名器中の名器ですが、ややもすると値段にとらわれがちなマニアからは高域側への帯域の伸びが不足するなどといった揶揄する声があがります。実はそんなことはない。こうやって鳴らし込んでいけば、倍音豊かなヴァイオリン・ソロの音色が実に自然に伸びやかに響く。十分過ぎるほどの帯域です。
大昔は放送規格にとらわれて16KHz以上をすとんと落とすような特性にあえてしていたようでしたが、70年代後半からは20KHzまで完璧なまでにフラットな測定値を示すようになりました。4チャンネルなどとともにラインコンタクト針が登場し、ハイコンプライアンス、超高域特性を争う帯域ウォーのような時代がありましたが、アナログ再生には無用な特性です。
大成功でした。あらためてDL-103の名器たるゆえんを思い知らされた気がします。
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