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2016年10月15日11:54

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ブラームスの愛したピアノ

名古屋の広小路伏見の洋食屋さんで名物の味噌カツを食べて、付近をほろ酔い気分で散歩していたら、ふいに電気文化会館をのぞいてみたくなった。こちらは去年、GRFさんとメジェーエワを聴きにきたところ。演奏も素晴らしかったのですが、このホールの密度の高い響きにも魅了されたのです。

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地下の入り口に行くと公演中でした。受付の方にプログラムを見せていただくと、仲道郁代さんのレクチャーコンサートで現代ピアノ(ヤマハCFX)と古典ピアノ(J.B.シュトライヒャー)の弾き比べだという。「もし興味があれば今からでもどうぞ」というお誘いに乗せられて、そのまま当日チケットを買い求めてしまいました。

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最初のシューマンは聴きそびれてしまいましたが、さっそく仲道さんがステージにヤマハとシュトライヒャーのそれぞれの調律師の方を招き入れてのトークが始まりました。

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シュトライヒャーは、ウィーンのピアノで、当時すでにイギリス式のダブル・エスケープメントのアクションが普及していたのに、頑なにシングル・エスケープメントを守っていた。音が大きく連打が容易なダブルアクションは時代の流れでしたが、ハンマーと鍵盤のタッチとの一体感がより直接的で表現力に富んだウィーン式アクションにブラームスは終生こだわり続けたという。いかにも時代遅れの頑固オヤジのブラームスらしい。

ステージ上にヤマハCFXと並べられているものは、そのブラームスが愛用していたものと同型のピアノだということです。実物は第二次世界大戦で消失したそうですが、この全く同型の1871年製のピアノが代わってブラームス博物館に展示されていたとのこと。

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仲道さんが実際に弾いてみると、始めは懐かしいような古めかしい音色で鳴りますが、次第にその古さが気にならなくなりふーっと音楽の深いところに引きこまれていきます。同じ曲をヤマハCFXで弾かれるのを聴くと、音色が美しく流れが滑らかで先ずはほっとしますが、聴いていると一音一音の意味合いがシュトライヒャーに較べると薄くて、次第に倦いてしまう。聴き較べはそういうことの繰り返し。

ハンマーヘッドはフェルトですが、ピアノの歴史のなかでは初期は鹿革が使われたそうです。仲道さんによると鹿革のハンマーはぱきぱきとした歯切れのよい音がするとか。ピアノは鋼鉄製のフレームが導入されて、飛躍的に弦の張力が増大し音が大きくなり表現力が増します。フェルトも鹿革もそういうことと無関係ではないのでしょう。現代ピアノのフレームが支える張力は40t以上。シュトライヒャーはその半分もないそうです。

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後半の始まりは、休憩中に寄せられた質問に対して仲道さんや調律師の方が答えてくれました。さすがに調律師協会の主催だけあって質問はとても専門的。

音律:
調律師の方は、この話しを始めると1時間でも済まないと笑っていましたが、答えはズバリ平均律とのこと。シュトライヒャーのような古典ピアノであっても、結局はいろいろ詰めていけば種々の古典音律ではなくて、平均律に収斂してしまうというご説明でした。

ピッチ:
ウィーンのピッチも上下様々に変転しましたが、この時代の本来の標準ピッチは現代よりもやや低く437Hzぐらいだったそうです。ステージ上のシュトライヒャーは442Hzに調律されたCFXとの違和感がないように441Hzに調律されているとのこと。シュトライヒャーはこのくらいのピッチにも十分適合できるそうです。

ペダル:
CFXの3つに対して、シュトライヒャーは2つのペダルを備えます。一つ目のペダルはもちろんダンパーペダルですが、機構はワイヤーで直接引っ張るもので少し重めなのだそうです。もう一方のペダルは、シフトペダル。シュトライヒャーは、現代の3本弦ではなくまだ2本弦だそうですが、ハンマーが横にシフトして打弦する本数を減らして音を小さくしながら音色を微妙に変えることは同じ。


シュトライヒャーで弾かれたブラームスの「3つの間奏曲」は、ほんとうに素晴らしかった。一途に敬愛し続けた、クララ・シューマンがひとりの子供を亡くしたときにそれを慰めるために書いたともいわれる曲ですが、音数は簡素に突き詰められていてひとつひとつの純度が高くて、意味合いが濃い。行き場のない悲しみとか、子守歌のように遠く優しく、老いてなお切なく胸焦がす恋心に揺れ動くようでもある…。

一方で、仲道さんが「ショパンは楽器とともにあってそれと密接な音楽を書いたが、ベートーヴェンは常に楽器を超えて楽器を未来へと促すような曲を書きました。だから、当時の鍵盤数の限られた小さなピアノのために書いた曲であっても現代のピアノで弾かれるのを聴いたらきっと喜んだことでしょう。」と言って、今度はヤマハCFXで「月光ソナタ」を弾いた。それもまたほんとうに素晴らしい演奏で、夢見るような美しい第一楽章から、ダイナミックで突き進むような終楽章まで、大変に大きな表現の振幅に胸躍る思いがしました。

出先の名古屋の街で、とんだ拾いものでした。





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ピアノの魅力
〜今と昔〜
仲道郁代 ピアノ&レクチャーコンサート

2016年10月12日(水) 19:00
名古屋市 電気文化会館 ザ・コンサートホール

(第一部)
シューマン:幻想小曲集作品12より、第1曲変ニ長調「夕べに」(ヤマハ)
シューマン:幻想小曲集作品12より、第1曲変ニ長調「夕べに」(シュトライヒャー)

ブラームス:3つの間奏曲作品117より、第2番変ロ短調(シュトライヒャー)
ブラームス:3つの間奏曲作品117より、第2番変ロ短調(ヤマハ)

シューマン:子供の情景作品15より、トロイメライ(シュトライヒャー)


(第二部)
ブラームス:3つの間奏曲117より
第一番変ホ長調、第2番変ロ短調、第3番嬰ハ短調(シュトライヒャー)
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第14番嬰ハ短調op.27−2「月光」(ヤマハ)

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