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2016年01月31日23:49

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小山実稚恵「シューベルトの想い」 フィリアホール

もともと行くかどうか迷いがあったのです。

というのも、正直、前回がっかりさせられたからです。このフィリアホールのシリーズは、シーズンセット券で買うとよい席が確保できます。そういうことでお目当てでは決してなかったのですが、どうしてもセットということで選り好みはできません。半分、捨てるつもりでいるのですが、そういうなかでも仲道郁代さんや三浦友理枝さんなど素敵な出会いもあったりします。前回のことがあったとはいえ、一度聴いただけで決めつけるのも早計です。演奏家の好不調もありますし、楽器のコンディションもあったりします。

そう思って、迷いを断ち切ってフィリアホールまで遠征したのですが…

小山は、「作曲家への想い」シリーズをこのフィリアホールで続けています。ひとりの大作曲家の作品だけを取り上げて演奏するリサイタルシリーズ。前回はバッハであり今回はシューベルトというわけです。

前半は、シューベルト晩年の2つの即興曲。プログラムは、D935のほうの第2番から始めて、次にD899の1番と2番というように曲集の順番通りではありません。

そのD935の2は優雅なメヌエット風の曲。それが途中に鳴り響く重い和声のほかはさしたるドラマもなく終わって次の曲の開始を待つと、すっと立って拍手を受けていったんステージから下がりました。なるほど遅刻者の途中入場に配慮したのかと思いつつも、何となくはぐらかされた気がしてしまいました。

さすがにピアノ学習者にとってなじみのあるこの曲集では、前回のようなひどいミスタッチの繰り返しはありませんが、とても音が汚い。プログラム2曲目のD899の第1曲ハ短調の最初のG音オクターブのユニゾンからして濁ります。この即興曲集では、特にオクターヴ奏法が多いのですが、その深みのある歌の旋律線とどこか寂しげでうつろな響きがシューベルトらしさ。それが音で汚れてしまう。

続くD899−2は、続けて演奏されました。その始まりの際(きわ)の美しさがありましたが、早めのクレッシェンドなど表情づけが少し粗い。さらにD935の1へと引き継がれるあたりの劇的な面持ちから、プログラムの構成に少し納得がいきました。おそらくこの半ばあたりでひとつの劇的な情感のヤマを作り、後半の長調2曲で音楽の喜びへと解放・解決していくということでしょうか。そういう構成を描いたせいなのか、曲集の2曲ほどが演奏から欠落してしまっています。

最後のD935の3は、いわゆる「ロザムンデ変奏曲」。独立性の高い大きな変奏曲。でも小山は、いっさい繰り返しなしで演奏しました。ついこの間に水戸で聴いたツィマーマンは『シューベルトの繰り返しは意味がある』と忠実に繰り返しを行うのですが、それとは真逆の姿勢です。

ここまで聴いてみて、このピアニストは音色よりも音の強弱(ダイナミックスの変化)だけで音楽を作るひとなのだなと思いました。ソノリティが立つ…というのでしょうか、そういうものが皆無ですし、微妙なニュアンスといったものが欠落しています。だから、強音ではやたらに叩くことにもなって音が汚い。確かにそういうピアニストにとっては変奏曲の繰り返しは、一度やったフレーズをもう一度そのまま繰り返すことになってしまいます。それは省略したほうがよい…ということでしょう。

ここまで来ると、後半のハ短調のソナタもおおよそ見当がついてしまいます。

プログラムノーツでは、「ベートーヴェンの影響も感じられますが、しかしやはり、シューベルトならではの個性が息づいています。」と小山は語っています。そうなら、そのように演奏して欲しかった…。

アンコールで、何と弾き残した即興曲の2曲を弾いてくれました。せっかく弾き残しの曲をちゃんとやってくれたのだから喜ぶべきことかもしれませんが、私にとってD899の3は特に好きな曲なので、こんな扱いに対してかえって無慚な気分がぬぐえなかったのです。

これでは「シューベルトへの想い」が伝わってきません。

次回は、いよいよシリーズ最大のお目当てである神尾真由子&河村尚子です。そう気持ちを奮い立たせて帰途についたのでした。




土曜ソワレシリーズ《女神(ミューズ)との出逢い》 第254回
小山実稚恵「作曲家への想い」シリーズ:「シューベルトの想い」

2016年1月30日(土)17:00
横浜市青葉区民文化センター フィリアホール

小山実稚恵(ピアノ独奏)

シューベルト:
即興曲より
Op.142-2変イ長調
Op.90-1ハ短調
Op.90-2変ホ長調
Op.142-1ヘ短調
Op.90-4変イ長調
Op.142-3変ロ長調

ピアノ・ソナタ第19番ハ短調D958

(アンコール)
シューベルト:
即興曲変ト長調Op.90-3(D899-3)
即興曲へ短調Op.142-4(D935-4)
楽興の時 第3番へ短調Op.94-3(D.780-3)

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