若いクァルテットの発掘と育成を目的としたクァルテット振興運動《プロジェクトQ》。
音楽大学の学生で結成された6組の若いクァルテットが、モーツァルトのハイドンセットの1曲ずつ演奏して全6曲に挑戦する。本番の演奏会は来春の3月30日。それまで、楽界のベテラン講師による公開マスタークラスを受講し、先立つ2月のトライアルコンサートと場数を踏んでいく。
前回第21章は、シューベルトに挑戦ということで、同様に6組が参加。今年の2月のトライアルコンサートを聴いてとても興味深かったので、今回は公開マスタークラスから参観してみました。
その第3回のクラス。
講師は、ともに桐朋学園の草創期に学び、斉藤秀雄の直接の薫陶を受けた超ベテランのお二人。第1部は、ヴァイオリンの小栗まち絵さん。個人的には水戸室内管でもおなじみでした。第二部は、ヴィオラの第一人者ともいうべき今井信子さん。
お二人の指導スタイルはそれぞれで、好対照。と見えて共通するものが多い。
どちらも曲全体のイメージを大切にする。けれども技術的にとても細かい。演奏を細かく止めて、執拗なまでに技術的な細部を指摘する。1時間はあっという間に過ぎてしまうが、ほとんど第1楽章で終わってしまう。
対照的なのは、小栗さんは全体的なアドバイスからすぐに技術に入る。とても直截的。
ニ短調の四重奏曲では、特に「"点"(スタッカート)」のことを指摘。「短調なので"点"は軽くてはダメ」。スラーとスタッカートが両方ついている部分は、ピアノを始めあらゆる楽器でその矛盾に奏者は悩みますが、小栗さんは「長めに、テヌート寄りにして」との指摘。この曲の出だしの部分。
「不協和音」では、ほとんどがボーイングの指摘に集中する。アップかダウンかの選択。どこまで弾くか、どこで返すか。小さく弾くか、弓を一杯に使うか、先か根元か。弦楽器では、ボーイングはアーティキュレーションに直結する。左手の運指との連携もある。けれども、いざ音楽を造るとなると決まりがあるわけではなくて悩ましい。同じフレーズなのに個々のパートでバラバラでそろっていない。早速、それを指摘されてしまっていたけど、音大生でもそんなレベルなのかとちょっと驚いてしまいます。
今井さんは、同じように全体的なアドバイスから始まるが、技術的な指摘も容赦ない。ボーイングなど、ある意味で小栗さん以上に執拗で徹底的。小栗さんは、ある程度、《解》を与えてくれるが、今井さんはあくまでも奏者に考えさせる。一見、和やかで親しみのある言葉だけれども「あとは、みんなで相談してね」と突き放してしまう。時に自分で「どちらかしらねぇ」とヴィオラを弾いたり、腕をシャドウで動かして自分が考え込んでしまって、学生たちも苦笑してしまう。
今井さんは、先ず通しで第1楽章を弾かせてみて、まずはひと言。「どんなパートだって面白い」「それぞれにキャラクターをつかむことが大事」だと。それから、「どんなイメージを想い抱いているの?」とひとりずつ聞いていく。「蝶蝶が舞うような春の野原」「曲集第一曲の第1楽章らしい前口上、挨拶」「のどかな春」などと4人がそれぞれ。今井さんは、「ひとりひとりが抱いているイメージがとても大事」「ひとつである必要はないけれど、出だしで決まる」とも言う。自分が学生時代にアンサンブルに挑んだ時の経験を紹介して「どうしようかと思うほど合わなくて最初は収拾がつかなかった」と学生たちを苦笑させる。「そのうちに合ってくる」と。4人の最初の着想が次第に統一へと向かっていくという意味でしょうか。そう言われて、学生たちもほっとした表情。
実際、この言葉ですっかりリラックスした様子で、合わせようと萎縮するのではなくて、指摘されたことを先ずはどのように咀嚼して身につけていくかに集中できる。アンサンブルということでは、むしろ第一奏よりもバラバラ。時には出だしがぐちゃぐちゃになっても構わず、言われたことに集中している。今井さんに「ダウンかなあ、アップかなあ。後でみんなで相談して決めてね」と突き放されても、素直にうなずいている。実際、このグループが最もアドバイスによく反応していて、みるみるうちに音楽が変化していく。クァルテットというのは、民主主義的な合議共感であって、権威主義ではないのですね。
こういう公開マスタークラスは、私のような聴くだけのクラシック音楽ファンにとっても、とても面白く勉強になる。今回だけでも、モーツァルトがイタズラのようなものをどれだけ仕掛けたり織り込んでいるかがよくわかりました。そこが流れや響きを作ったり変えたりするきっかけになっていて、必ず演奏のポイントになるからです。
2月のトライアルコンサート、3月末の本番へと、各グループがどのように成長していくのか、とても楽しみです。
プロジェクトQ・第22章
若いクァルテット、モーツァルトに挑戦する
公開マスタークラス��
2024年11月9日(土)15:30開講
東京・池袋 東京音楽大学 池袋キャンパス B館
第1部 講師:小栗まち絵(ヴァイオリン)
クァルテット風雅
[落合真子/小西健太郎(Vn)川邉宗一郎(Va)松谷壮一郎(Vc)]
モーツァルト:弦楽四重奏曲第15番ニ短調 K.421
クァルテット・ルーチェ
[渡辺紗蘭/中嶋美月(Vn)森智明(Va)原田佳也(Vc)]
モーツァルト:弦楽四重奏曲第19番ハ長調 K.465 「不協和音」
第2部 講師:今井信子(ヴィオラ)
クァルテット・ベアトリーチェ
[西岡舞桜/箕浦 彩(Vn)遠藤望名(Va)森 朝美(Vc)]
モーツァルト:弦楽四重奏曲第14番ト長調 K.387 「春」
ログインしてコメントを確認・投稿する