ハーゲン・クァルテットが、トッパンホールでハイドンとバルトークだけで構成した3夜連続の演奏会。その第�渓襪鯆阿い討�ました。
今は、弦楽四重奏団の百花繚乱で、次々と若手の魅力あふれる四重奏団が登場しています。アルバン・ベルク四重奏団に代表されるひと世代前の名門団体が解散したことで生じた、その空白を埋めるカンブリア爆発のような様相を呈しています。
ところが、いざ、現役の四重奏団でベートーヴェンを聴きたい団体はどこだろうか?と自問してみるとなかなか答えが浮かんでこない。
その答えが聞こえてきたような演奏会でした。
実際、1980年に結成され、来年は40周年の節目を迎えようとしているたハーゲン・クァルテットは、現役で活躍する老舗クァルテットのなかでも抜きん出た存在だと思います。
現代の新世代クァルテットは、時代を反映して、様々なバックグラウンドを持った音楽家が集う、言ってみれば多国籍グループ。とても多様でハイブリッド的な魅力をたたえ、その一方で、団体名に個人名を名乗るなどリーダーシップも明確で、そのリーダーのカラーと他のメンバーそれぞれのカラーとの対比、“ユナイッテッド・カラー”とでも呼ぶべき無国籍的な鮮度の高い色彩感が隠れた魅力になっているような気がします。
ところが、ハーゲンは違う。
もともとは、ザルツブルクの音楽一家の兄弟4人で結成されたクァルテット。“ハーゲン”とは彼らのファミリー・ネームです。第2ヴァイオリンのアンゲリカがソロ活動に専念するために脱退したため、現在では、ライナー・シュミットに交代しましたが、彼が新メンバーとなった最初の1年間は、ハーゲン家に寄宿したとか。
そういう彼らのハイドンとバルトークを聴くと、その親密で自由な雰囲気がアンサンブルとして見事に薫りたってきます。同じ自然と文化で育ち、まったく共通の言語で語り合い、そこに遠慮もない自由な会話があって、それが少しも理解の齟齬を生まず、喧噪や不和を生じない。誰がリーダーというわけでもなく、四人がまったく対等に闊達に渡り合い、協調する。その会話が織りなす色彩の豊かさと響き合う愉悦は例えようがありません。まさに、弦楽四重奏というのは室内楽の王だと思わせるようなアンサンブル。
そのことは、ハイドンのエステルハージ家の奉公の最終期の作品である連作を聴いているとひしひしと感じさせられ、室内楽の醍醐味というのか、まさに、至福の時を感じます。宮廷楽団の名手たちの親密な会話そのものを聴くかのような楽しみがあります。特に、この夜では、最後の変ホ長調の四重奏がそうで、ハイドンにこれほどの対位法的な遊びがあったのかとうれしい発見を感じてしまいます。そのことが、他の四重奏団で聴き取れるだろうか、と、つい思ってしまうほどの楽しさです。
バルトークの最後の弦楽四重奏曲は、この2月にベルチャ弦楽四重奏団で聴いたばかりですが、まるで違う曲を聴いているのかと思ったほどに違います。もちろん、ベルチャの演奏はマイベストと思えるほどに素晴らしいもので、バルトークの亡命寸前の老母の死の病や、閉塞と凋落の悲哀、逃亡の喧噪、亡滅の絶望が漲り、それが、メンデルスゾーンの破滅的な死の連鎖であるヘ短調の四重奏への強烈な前触れにもなっていたのです。
ハイドンもバルトークもその生涯のほとんどをハンガリーで過ごしています。戦争によって国境は著しく移動しましたが、ハイドンが仕えたエステルハージ家もバルトークの生地もともに二重帝国を成したハンガリー王国にあったわけです。帝国は、多民族国家であり、二人はその現実の中で祖国愛と音楽活動を両立させていました。けれどもその活動は決してローカルなものではなく、その名声はヨーロッパ中を駆け巡り、晩年はともにアングロサクソン国家と深い縁を持ちました。その因縁の《共鳴音》を帝国西方のザルツブルク出身のハーゲンが奏でる。これが、この夜のプログラムに秘められているからくりなのでしょうか。
そのハーゲンのバルトークは、ベルチャのそれが分裂と逃避という外向きの音楽だったとしたら、インバウンド的な内へ向かう音楽でした。音楽の要素が分解していく、拠り所から去って行く【愛惜】の音楽に対して、ハーゲンのバルトークには、様々なハンガリーやルーマニアの民俗音楽の断片、あるいはウィーンの石畳のような都会的洗練のいくつものピースが親しく呼応し懐かしむように語り合うような、【愛着】の音楽。
ベルチャの迫真の演奏を聴いたばかりだっただけに、バルトークにも、こんなにまで対比的なリアリゼーションがあるのだと新鮮な気分とともに、弦楽四重奏の王道を聴いた充実感がありました。
ハーゲン・クァルテット 第�渓�
2019年10月3日(金) 19:00
東京・文京区 トッパンホール
(G列16番)
ハーゲン・クァルテット
ルーカス・ハーゲン(1st ヴァイオリン)
ライナー・シュミット(2nd ヴァイオリン)
ヴェロニカ・ハーゲン(ヴィオラ)
クレメンス・ハーゲン(チェロ)
ハイドン:弦楽四重奏曲第79番 ニ長調 Op.76-5 Hob.III-79《ラルゴ》
バルトーク:弦楽四重奏曲第6番 Sz114
ハイドン:弦楽四重奏曲第80 変ホ長調 Op.76-6 Hob.III-80
(アンコール)
シューベルト:弦楽四重奏曲第13番 イ短調 D.804 《ロザムンデ》より
第3楽章Menuetto
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