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2018年03月28日12:20

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ベンジャミン・ブリテンの世界 (東京春祭)

桜の開花とともに東京春祭が始まりました。

年々、内容が充実している東京春祭ですが、その特色は東京・上野という日本最大の文教地区という地の利を活かして東京文化会館を中心に東京芸大奏楽道、各博物館、美術館などヴェニューが多様で、多彩なジャンルに特化してそれぞれに独自の企画とテーマの深化を追究しているところなのだと思います。

この石橋メモリアルホールもそういう会場のひとつ。

昨年からスタートした「ベンジャミン・ブリテンの世界」。ブリテンは20世紀の大作曲家であり英国を代表する数少ない大作曲家です。とは言っても必ずしも演奏される機会に恵まれているとは言えず、近年、オペラ「ピーター・グライムズ」や「戦争レクイエム」などが盛んに取り上げられるようになったとは言え、幅広いジャンルに渡るその作品に触れる機会はまだまだ少ないと言えると思います。

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作曲家・ピアニストである加藤昌則さんの企画構成とトークで、ブリテンを徹底的に深掘りするというのがこのシリーズ。この日は、もうひとりのブリテンフリークであるテノールの鈴木崇さんも参加してのディープなブリテン・ワールド。何しろ鈴木さんはブリテンをテーマに博士号をとったそうでいわばブリテン博士なのです。

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テノールがブリテンにとって格別の位置づけであることは、生涯のパートナーであったピーター・ビアーズの存在があったからです。ブリテンは特定の演奏家のために作曲しています。それは自身が『私は間違いなく人間のために音楽を書いています――まっすぐに、そして慎重に。…(略)…(私の作品は)間違いなく、常に「人間的」なものなのです』と述べている通りで徹底しています。

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そういう『特定の演奏家』のひとりにホルン奏者のデニス・ブレインがいました。ブレインは大好きだったトライアンフを運転中に事故死。夭折の天才は、今日に至るも卓越したホルン奏者としてくり返し語られてきたレジェンド。それだけにブリテンを取り上げるには卓抜したホルン奏者が欠かせません。そこでこの日のもうひとりのキーマンであるホルン奏者の福川伸陽さんのご登場というわけです。役者はそろいました。

最初は、弦楽四重奏曲第2番。

ヘンリー・パーセル没後250年を記念して1945年に作曲された作品。ピアーズがこの頃からパーセルに取り組んでいて、ブリテンもパーセルにちなんだ音楽に盛んに取り組みます。その成果は、よく知られる「青少年のための管弦楽入門」があり、弦楽合奏に編曲した「シャコンヌ・ト短調」があります。

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最初に加藤さんのトークにより、この曲がこの曲の構造や特色を解説してそれを川田知子さんらのクァルテットが実際に弾いてくれます。音型モチーフを順行、逆行、反行、逆反行に変形させるヴィヴァーチェなどは聴いてみて初めてなるほどと思います。そういう形式的、構造的な擬古典的なものとブリテン独特の青い炎のような静かな情念が素晴らしくマッチする四重奏曲。最後の第3楽章はパーセル様式に献呈するかのような21の変奏からなる長大なシャコンヌでした。

カンティクル第3番《なお雨は降る》も、テノールとホルンのための曲。ピアノは加藤さん自身が弾かれます。まさに、ブリテン、ビアーズ、ブレインの三人のための曲。ブリテンと交流があったイギリスの反戦詩人イーディス・シットウェルの詩によるもの。1954年に書かれましたが、キリストの受難を歌った詩ではあるのですが、「1940年の空襲、夜と夜明け」との副題の示すとおり、ここでいう《雨》とは空襲により人間の上に降り注ぐ爆弾のこと。その第一節は、

なお静かに雨は降る
暗きは人の世界のよう、黒きは私たちの喪失のよう
目に見えぬは千九百と四十本の釘のように
十字架の上に。

とあります。各節ごとに先ず音楽が情景を示し続いて詩が語ります。闇の遠くで爆弾が炸裂するような不気味さに思わず身がすくむ思いがします。日本人の民族的記憶は、空襲といえば降り注ぐ無数の焼夷弾であり原爆であり火の海の地獄絵図ですが、イギリスは降り注ぐのは可算の「釘」であり十字架の受難だというのは歴史事実と宗教観の見事なまでの一致で偶然とは思えませんでした。

休憩後は、「セレナード」。

この曲では、最初の「プロローグ」と最後の「エピローグ」で《自然倍音》ホルンのソロ演奏になっています。最初に《自然倍音》ホルンとは何かということで、福川さんがわざわざバルブ無しの楽器を持参されて実際に吹いていただきました。

ナチュラルホルンというのは、単にバルブを使わず唇の調整だけで音階を吹くということだけではなく、自然な倍音なので、音階が私たちの聴き慣れた十二均等分割の平均律音階と違って聞こえます。私たち現代日本人には時にそれが調子を外したような独特の音程に聞こえるわけですが、西欧人にとってはそれは古代へのノスタルジーを感じさせるそうです。特にこの曲最後の「エピローグ」では、ソロのホルンは舞台裏で演奏されるので、何代もの世代を超えた遙か遠くからの呼び声のように聞こえます。

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この石橋メモリアルホールは、どちらかといえば宗教曲などの合唱や古楽に向いた長く美しい残響が特色となったアコースティックです。福川さんのホルンは、ステージ背面一杯に拡がって響き、まったく点音源ではありません。ホルンの朝顔がなぜ後ろ向きなのか、その響きがトランペットやトロンボーンなどとは全く違った様相と効果をもたらすことを実感させる素晴らしい体験でした。







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ベンジャミン・ブリテンの世界��
〜20世紀英国を生きた、才知溢れる作曲家の肖像
2018年3月19日(月) 19:00
東京・上野 上野学園 石橋メモリアルホール
(1階 G列20番)

■出演
ホルン: 福川伸陽
テノール: 鈴木 准
弦楽合奏:BRT弦楽アンサンブル
 ヴァイオリン: 川田知子、 吉村知子、 会田莉凡、 大倉礼加、 木ノ村茉衣、
         後藤沙祈子、 原田亮子、 堀内星良
 ヴィオラ: 須田祥子、 小中澤基道、 羽藤尚子、 平野真生
 チェロ: 辻本 玲、 小畠幸法、 中条誠一、 福井 綾
 コントラバス: 吉田 秀、 岡本 潤
ピアノ・企画構成・お話:加藤昌則

■曲目
ブリテン:
 弦楽四重奏曲 第2番 ハ長調 op.36 [試聴]
  (1stVn.川田知子、2ndVn.吉村知子、Va.須田祥子、Vc.辻本 玲)
  I. Allegro calmo senza rigore
  II. Vivace
  III. Chacony:Sostenuto
 カンティクル 第3番 op.55 《なお雨は降る》 [試聴]
  (Ten.鈴木 准、Hr.福川伸陽、Pf.加藤昌則)
 セレナード op.31 [試聴]
  (Ten.鈴木 准、Hr.福川伸陽、弦楽合奏.BRT弦楽アンサンブル)
  I. Prologue (プロローグ)
  II. Pastoral (牧歌)
  III. Nocturne (夜想曲)
  IV. Elegy (悲歌)
  V. Dirge (哀歌)
  VI. Hymn (讃歌)
  VII. Sonnet (ソネット)
  VIII. Epilogue (エピローグ)

[アンコール]
ブリテン(加藤昌則編):リンカーンシャー・ポーチャー

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