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2016年10月31日18:44

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P席の音

P席というのは、コンサートホールでステージ後側の特別な席のこと。そこにはパイプオルガンがあるので一般にP席と呼ばれ、実際に座席の番号やブロック区分にPが振られることが多いようです。

決して上席とは言えず、実際、値段も手頃になっているのですが、あえてこの席を好むファンも少なくありません。

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故佐治敬三氏は、サントリーホールのPブロックの中ほどにオーナー席を設けるほどP席が好きでした。いつもオーケストラの向こう側に氏の顔を見つけると微笑ましく思ったものです。P席が好まれるのは、比較的安価なのにステージに近くて臨場感があるとか、人気指揮者の顔、指揮ぶりが目の当たりに出来るというちょっとミーハー的なところもあるのでしょう。

確かにお徳用感はありますが、当然、一階の正面中央や2階正面最前列のような特上席に較べるとそのサウンドや視界にはずいぶんいびつで聴きづらいことが多いことは否めません。

私のサントリーホールP席体験の例を挙げれば、N響定期でデュトワが振ったフォーレのレクイエム。フォーレではオルガンのストップ音が雑音として耳障りだったものの、オルガンの前に立ったソプラノの天羽明恵の声がちょうど頭上から振ってくるようで昇天の響きがより強調され、あるいはヴィオラの響きが正面よりもかえってたっぷりとしてこの曲の音色構成の本質がよく感じられました。けれどもプログラム前半のメシアンなどはオンド・マルトノのスピーカーが向こう向きだし、歌手の言葉があいまいで最悪に近いものでした。

オペラシティ(タケミツメモリアル)での体験となると、ひとつもよい思い出がありません。

バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)の「マタイ受難曲」では、あのアリア「憐れみ給え、わが神よ」で、すっくと立ち上がったアルトとヴァイオリンがオーケストラ群のはるかかなたに見えてがっかりした。向かって右手のアルトがすこしくぐもった声色でこだまのような間接音ばかりだし、左手の第二群のソロ・ヴァイオリンがずいぶん遠くて薄い。

上岡敏之と読響では、P席そのものではなくそこに一番近いR席の端の席。オーケストラに近くすべてを俯瞰できて、指揮者の指揮振りもよく見える。しかし、それがかえってあだになった。オーケストラのアラが見えすぎるのです。ちょうどチューバの朝顔の真上でバランスが悪いうえに、演奏中でもツバ抜きをやたらにやるのでプヒュっという音が耳障り。

水戸芸術館のP席で聴いたブリテン「セレナーデ」ではポストリッジの歌唱はこちらに背を向け反射音たっぷりで、バボラークのホルンは逆に間接音が少なめの少しあからさまな音色になってしまい「セレナーデ」の気分がやや殺がれてしまいます。むしろ鮮烈だったのは眼下手前に俯瞰するようなステージに冴え冴えと鳴り渡ったオーケストラのモダンな響きと、準・メルクルの精緻で颯爽とした棒さばきでした。

ここまで書くと、私がP席嫌いのように見えるかもしれません。

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そういう私も、アムステルダムではあえてP席を選びました。コンセルトヘボウでの連夜のコンサートを楽しんだので、ひとつだけあえてステージ後方の席にしてみたのです。バロック・オーケストラのコンサートでしたが、ここでは不思議なことに「逆相」の音にはならず、あくまでも演奏者に近いという臨場感が満点。むしろ1階正面席の最前列よりは良好なくらい。コントラバスは後ろ向きですが近いだけに量感・質感ともに十分でしたし、一番遠くなってしまうヴァイオリンもとてもよく聞こえます。演奏ステージと半ば一体となった構造はふつうのP席とは若干違うということもあると思いますが、これはコンセルトヘボウのステージ床の鳴りがいかに素晴らしいかということの証左と確信しました。ホール全体がよく鳴り、しかも直接音がよく通るという、このホール最大の特徴が後方席だけによくわかるのです。でも、こんなホールは世界にも滅多にないでしょう。体験はしていませんが、ウィーンの楽友協会ホールのステージ後方席もたぶんこういう素晴らしい音だという気がします。

日本でもミューザ川崎の後方席は特等席のような気がします。
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ここではP席ではありませんでしたが、後方ステージ横の2階バルコニー(2LAブロック)で聴いたバイエルン放送響とツィメルマンの印象が心地よく残っています。ステージに近い分だけ音が精密で明晰に分解します。各楽器の位置や編成もある意味で見たとおりでそのまま音楽が融和して聞こえました。ピアノも実に鮮やか。一体となったハーモニーや音色の色彩を楽しむことも、スコアを俯瞰するような分析的な聴き方も同時に可能で、ほんとうに音楽を聴くことに夢中になりました。

よいホールは、前も後もよい音なのです。

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