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2016年10月15日07:00

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イザベル・ファウスト&クリスティアン・ベザイデンホウト

ファウストのバッハを聴きに水戸にでかけた。

ファウストといえば、ストラディバリウスのスリーピング・ビューティ。そのモダン楽器をピリオドに持ち替えての見事なまでの両刀遣い。楽器は古楽器の名器ヤコブ・シュタイナー。これはバッハゆかりの楽器で、ケーテン時代、宮廷楽団のためにバッハがベルリンに赴いて買い求めた楽器のなかに1617年製のシュタイナーが2台あったという。

パートナーのベザイデンホウトのチェンバロは、バッハが愛したミートケのレプリカ。旋律線がくっきりと浮かび上がるので、バッハの対位法がよく見える。ピッチは、公表されていないのでわからないが、おそらく415Hz。

ファウストがピリオドに持ち替えた意図は明らか。

バッハの「ヴァイオリンとオブリガート・チェンバロのためのソナタ」6曲は、ヴァイオリンとチェンバロが全く対等の立場だから。モーツァルトやベートーヴェンに100年近くも先駆けてそういう「ソナタ」を書いたということはほんとうに驚き。

見事なまでにピリオドを弾きこなしていたが、その奏法はモダンに近い。ファウストのヴァイオリンを弾く姿は、まるで弓道の達人のよう。ヴァイオリンの弦に直角に真一文字に弓を交差させ、それが常に真っ直ぐなので弓に矢をつがえて構えるかのように見える。その姿勢が決して乱れることがない。ただひとつの例外は、プログラムの半ばに奏されたビーバーの「描写的なソナタ」だけ。鳥や動物の擬態、擬声に満ちた技巧的なソナタの特殊奏法には自在に羽目を外していた。

プログラムは、バッハのソナタを6曲のうち3つ取り上げた。今回のツアーでは2夜に分けて交互に全6曲を演奏しながら各地を巡る。翌々日の東京公演(王子ホール)だけは2夜連続の演奏会。そのバッハに挟んで、バッハのヴァイオリン、チェンバロの源流ともいえるビーバーとフローベルガーの曲を演奏するという構成。

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ビーバーの「パッサカリア」が感動的だった。あのバッハの「シャコンヌ」へと確かにつながっている。「ロザリオのソナタ」の15の秘跡の番外として掉尾を飾る名曲で、4つの下降音が執拗に繰り返され、そのオスティナート・バスの上に変奏を乗せていくところはまさに「シャコンヌ」と同じ構造で、中間部でオスティナート主題が上声に移されてそれが転調のきっかけとなりさらなる感動の高まりへと頂点を成していくところも酷似する。この作品をバッハが知っていたことは、確かな証拠はないそうだけれど、間違いないだろう。

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ベザイデンホウトのチェンバロではちょっとしたハプニングがあった。

フローベルガーの「パルティータ」の「クーラント」で、弾き直しがあったのだ。レジスターの切り換えを忘れていたのを、ほんのワンフレーズ弾いたところで気がついて、即座に切り換え、また始めから弾き出した。ほんとうに一瞬のことで何事もなかったように泰然として曲の流れが乱れなかったのは見事だった。

バッハは、4番、5番、2番と弾き進められた。その順番にはとても意味合いが込められていたように思う。

最初の4番は、コンチェルト・グロッソ風。あたかもヴァイオリンがソロ(コンチェルティーノ)で、チェンバロがリピエーノの役割で、それが交互に交代しながら奏される。第1楽章は、悲しみに満ちた旋律をヴァイオリンが歌い出す。誰もが頭に浮かべるのは「マタイ」のアリア「神よ、哀れみたまえ」のヴァイオリンのソロだろう。

5番は、対位法がさらに深化して、チェンバロの右手が2声部を受け持ち、左手とヴァイオリンが加わり全部で4声部をつくっている。のっけからチェンバロが主役で、ヴァイオリンはチェンバロの左手のバスのコードに呼応するように、低く長くコラールのように歌う。ファウストの低いロングトーンが人の声のように柔らかく、微妙な強弱の息づかいがあって生々しい。主役のチェンバロに埋もれがちの内声を受け持つ役どころを慎ましく演じながら、内面の奥深くから発する光芒のようなものを感じて心に染みいる。

最後の2番に至って、バッハの対位法の極致であるフーガに到達する。あたかも網代編みの竹細工のように3声部のポリフォニーで編み込まれている。第一楽章では1小節遅れのフガートで密やかに示され、第2・4楽章では5〜6小節の隔たりでフーガが応答し、第3楽章は、ヴァイオリンの上声とチェンバロの左手による内声がカノンを成して進行する。バッハは、フーガで終わる。

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客席は決して満席とはいえず、それが少し寂しかったが、それだけに贅沢な響きと静けさで、飛び切り熟成した聴衆だったように思える。響きの豊かで美しいホールで、ファウストとベザイデンホウトの暖かみのある知性に、間近に親しく触れることができて水戸まで来たことがほんとうに報われる思いがする。アンコールには、第1番のソナタの緩徐楽章をふたつとも弾いてくれた。



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イザベル・ファウスト(ヴァイオリン)&クリスティアン・ベザイデンホウト(チェンバロ)

2016年10月9日(日) 15:00
茨城県水戸市 水戸芸術館コンサートホールATM

バッハ:ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ第4番 ハ短調 BWV1017
フローベルガー: パルティータ第12番 ハ長調 FbWV 612a
バッハ: ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ第5番 ヘ短調 BWV1018

ビーバー: ヴァイオリンと通奏低音のための描写的ソナタ イ長調
ビーバー: 無伴奏ヴァイオリンのためのパッサカリア ト短調
バッハ: ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ第2番 イ長調 BWV1015

(アンコール)
バッハ: ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ第1番 ロ短調 BWV1014より
 第3楽章アンダンテ
 第1楽章アダージオ

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