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2015年12月09日18:23

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吉野直子&オーヴェルニュ室内オーケストラ

本当に楽しかったですね。こんなコンサートは久しぶり。

まるで一流のパティシエたちが腕を振るってのスイーツ・パラダイスのようなハープとオーケストラの饗宴。耳に心地よいハープの名曲ばかりなのですが、いずれもがとても気品があって《過剰》とは無縁な楚々とした気高い美しさと誠実さに満ちていました。

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最初は吉野直子さんのソロ。

ヘンデルのパッサカリアは、とても優雅で時に情熱的。フィリアホールの響きのよさに言いようもない感謝の気持ち湧き上がってきました。吉野直子さんのハープは幾度となく聴いてきましたが、いままでで最高。それはフィリアホールの残響の美しさとほどよいスペースがハープにぴったりだったからだと確信します。

二曲目は、天国的なヘンデルのハープ協奏曲。たぶんこの曲の実演を聴くのは初めてだと思います。しばしば生演奏というものは、その曲に対して抱いていた夢とか憧れを壊されてしまうことがありますが、ひときわ壊れやすいように思えたこの曲の実演がこんな幸せなかたちで実現するとは思いもしませんでした。

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オーヴェルニュ室内オーケストラの美しく華麗な響きにも目を瞠る思いがしました。フランスの真ん中にあるオーヴェルニュ地方は水資源に恵まれているとはいえ山がちの、どちらかといえば開発の遅れた地域。吉野さんとの運命の出会いは最近のことだそうですが、村々の教会を巡るツアーを重ねながらすっかり心を通じ合うようになったとか。素朴さを残しながら甘さを控えたその洗練された響きは、超一級のフランスの焼き菓子のよう。

神童メンデルスゾーンの交響曲は、そういう弦楽オーケストラをたっぷり楽しんでもらおうという吉野さんのサービス。楽屋に控えている吉野さんにとっては、何よりもこのオーケストラへの信頼と友情の証しなのだと思いました。

編成は、6−5−4−4−2と低域寄りのバランス。間近で聴くハープの低域と胴の共鳴がよく聞こえることと相まってビターチョコレートのように響きに深みを感じさせてくれます。


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休憩をはさんで、再び吉野さんのソロ。

「3つのグノシェンヌ」は、1曲目だけがよく聴かれますが、3曲とも弾かれることは意外に珍しいかもしれません。「グノシェンヌ」というのはサティの造語だそうですが、古代クレタ島にあった古都「グノーソス宮」にもちなんだとのこと。その古代ギリシャのアーカイックな雰囲気はハープにぴったり。ピアノですと、ともすれば聴いているうちに眠くなりそうですが、ほんとうに夢心地ですが自分でも呆れるほどに吉野さんの演奏する姿を魅入られました。

ドビュッシーの「神聖な舞曲と世俗的な舞曲」も、ヘンデルと同じように大好きであってもほんとうに実演で接するのは怖いほどの曲。吉野さんとロベルト・フォレス・ヴェセスさんの指揮するストリングスとの饗宴は、ほんとうに見事で楽しい。そういう陳腐な誉め言葉以外に思いつきません。世俗的な舞曲での、何とも優雅なステップの楽しいワルツは、最後にもう一度アンコールで聴かせていただきました。

マーラーの「アダージェット」では、吉野さんがオーケストラの一員として演奏したいという希望によって実現しました。けれども私のような聴き手にとっても大変な贈り物。大編成のマーラーの交響曲第5番の白眉ともいうべき楽章ですが、こんな小さなホールで間近で聴ける機会はまずないでしょう。濃潤なストリングスの響きに楚々として漂うハープの分散和音がほんとうに清らかで、まさに愛に耽溺するような心地でした。

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最後はトゥリーナという20世紀前半に活躍したスペイン人作曲家の作品。指揮者のヴェセスさんがぜひやろうと吉野さんに持ちかけて実現した新しいレパートリーだそうです。ここではこのオーケストラの現代音楽への適性ととてつもない合奏能力に再び瞠目しました。そしてコンミスの見事なまでの美色のソロには驚嘆です。

鳴りやまぬ拍手にアンコールがふたつ。吉野さんのソロによるアンコールは予定内だったと思いますが、ふたつめのドビュッシーは熱い会場の拍手にうながされたうれしい想定外だったのではないでしょうか。

ハーピストとしてソロ活動を続けることは大変だと思いますが、吉野さんはまた新境地を拓いたのではないでしょうか。このオーケストラとの出会いはとても幸せなものだったに違いありません。それは私たち聴衆にとっても僥倖といえるものでした。






土曜ソワレシリーズ 第253回
吉野直子&オーヴェルニュ室内オーケストラ
  冬のはじまりを彩る、ハープとオーケストラの華やかな響き。

2015年12月5日(土) 17:00
横浜市青葉台 フィリアホール

ハープ=吉野直子
指揮=ロベルト・フォレス・ヴェセス
管弦楽=オーヴェルニュ室内オーケストラ


ヘンデル(T. ベオン編曲):パッサカリア ◎ハープ・ソロ
ヘンデル:ハープ協奏曲変ロ長調Op.4-6
メンデルスゾーン:弦楽のための交響曲第6番変ホ長調 ◎オーケストラのみ

サティ:3つのグノシェンヌ ◎ハープ・ソロ
ドビュッシー:神聖な舞曲と世俗的な舞曲
マーラー:交響曲第5番嬰ハ短調より第4楽章:アダージェット
トゥリーナ:主題と変奏Op.100

(アンコール)
ルミエ:「黙想」
ドビュッシー:神聖な舞曲と世俗的な舞曲より第2楽章
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