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2015年10月08日08:27

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ヤナーチェク弦楽四重奏団

ロンドン響やシカゴ響などのメジャー、イヴラギモヴァ、ピーター・ゼルキンなどの大物、人気者の来日が引きも切らず、おかげさまでまわりまわって頂戴したチケットで、とてもよい音楽体験ができました。

ヤナーチェク弦楽四重奏団は、1947年の結成と歴史も古く世界的な名四重奏団として活躍するが、一方で、チェコを代表する四重奏団として民族性と伝統継承を重んじ、また、62年以来数十回に及ぶ来日を重ねる親日的な音楽家としてローカルな味わいの深い四重奏団です。

そういう本領を遺憾なく発揮した公演でした。

ヤナーチェク、マルティヌー、スメタナというチェコの作曲家の代表作で固めた鉄壁のプログラム。

第1曲の「クロイツェル・ソナタ」の始まりを告げるアダージョの響きに、ほっとする思いがしました。純朴、表情が豊かで、暖かみのある響き。少し古色を帯びた渋い音色は、とても懐かしくて、まさに80年代までのチェコ・フィルの弦セクションはこういう音だったと記憶しています。

チェコという国の成り立ちはかなり複雑で、プラハを中心とする北西部のボヘミアに対して東部のモラヴィアに大きく2分されますが、ヤナーチェクはモラヴィアの出身。団員はすでに世代交代していますが4人はいずれもモラヴィアの中心であるブルノの音楽院出身です。チェコを代表するもうひとつの弦楽四重奏団であるスメタナ弦楽四重奏団のボヘミアの西欧的な雰囲気に対してスラブ色の強い純朴さがあるように思えるのです。

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文豪トルストイの「クロイツェル・ソナタ」は不倫をテーマにした小編で、ヤナーチェクの親ロシア的な文学嗜好が現れているけれど、ヤナーチェク弦楽四重奏団の演奏はとても「言語的」で4人の対話・会話を強く感じさせます。特に第2Vnのクルゼックさんがとても雄弁で第1Vnのミローシュ・ヴァチェックさんと丁々発止の対話を繰り広げます。第2楽章の一節からは「ダメー、ダメー、ダメなの」という『空耳』が聞こえたほど。第3楽章の弱音器をつけた他の3人のくすんだ響きに浮かぶ第1Vnの切々とした哀願の音楽。第4楽章は、情熱が何かを成就したような劇的な終結でした。

マルティヌーは、ボヘミアとモラヴィアの境界の小さな村で生まれ育ち、やがて印象派にあこがれてパリで学び、その後、戦争でアメリカに亡命するなど祖国を離れて活躍したボヘミアン。第2番の四重奏曲は、そういう印象派的な響きが充溢する若い覇気あふれる曲。随所に工夫と複雑な意匠が凝らされていて面白い。リズムに少なからず野性味があってそれががつんと来ます。どこか新旧の建築が混在するプラハの街を連想させるようなモダニズムが、ヤナーチェク弦楽四重奏団そのものの気質だと思わせる演奏です。

晩年に聴力を失ったスメタナが自らの半生を回想するかのような「わが生涯より」も、とても叙事的、叙述的に響きました。スメタナはもっとも民族主義的で国民楽派の祖ともされる音楽家でしたが、ドイツ音楽の影響がもっとも強い音楽家でもありました。ドイツといってもハプスブルク王朝のウィーンというよりも、地域的文化的にボヘミア東部とは渾然となっていた南ドイツへの親近感ではないでしょうか。

曲冒頭に、聴覚障害による耳鳴りを象徴する鋭い音色など、ヴィオラのレズニチェクさんがとても活躍します。さらに印象的だったのは、第2楽章のポルカ。「ダンス狂だった青春時代」を回想するものだそうですが、ここでのチェロのヴィビラルさんのリズムがすごい。ここはチェロが完全に主導権をとっていて揺れ動く青春、あるいはそれを回想するような老境とが微妙な陰影のリズムとなって夢幻の音楽でした。この四重奏団の熟成したアンサンブルの極致を見るような思いがしたのです。

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今回は2列目のど真ん中といういわゆるかぶりつき。とても音のよいホールですが、ステージ真上の天井が高く反射板も無いためにここまで前ですと響きが不足気味。間接音よりも直接音に寄ったバランス。そこが渋い音色のこの四重奏団をとてもよく体感できていたような気がします。

どちらかと言えば控えめに思えた第1Vnのヴァチェックさんですが、その輝かしく色艶のある音色を俄然として発揮したのは、むしろ、アンコールの3曲。特に「赤とんぼ」では思わずうるうると来てしまいました。来日演奏家の震災復興の思いをこめてこの曲もアンコールピースとしてとてもポピュラーになりました。その後の「ユモレスク」もほとんどヴァチェックさんのソロですが、音色は一変しました。ひしひしとローカルな郷愁を味わい尽くすような見事なアンコールピースでした。









ヤナーチェク弦楽四重奏団
2015年10月5日(月) 19:00
東京・武蔵野市 武蔵野市民文化会館 小ホール

ヤナーチェク:弦楽四重奏曲第1番「クロイツェル・ソナタ」
マルティヌー:弦楽四重奏曲第2番

スメタナ:弦楽四重奏曲第1番「わが生涯より」

(アンコール)
ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲第12番「アメリカ」より第4楽章
山田耕筰:赤とんぼ
ドヴォルザーク:ユモレスク

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