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2015年03月20日23:05

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南 紫音 ヴァイオリンリサイタル

間近に聴くストラディヴァリウスの音に動悸の高まりを抑えることができませんでした。

町田の小さな音楽サロン、アートスペース・オーでの南紫音さんのリサイタル。それは、あの大震災の直後の出会いでした。あの年の初めにトッパンホールで南さんの無伴奏ヴァイオリンのリサイタルがあって、すっかり魅せられてしまい、もういちど聴いてみたいとネットで検索して、この小さなサロンのことを知ったのです。
予定されていた演奏会の2日前の金曜日、あの大震災が、東日本を襲います。

けれども南さんの意志で演奏会は開催されます。あの日の私は、いったい何が起こったのか本当のことはよくわかっていませんでした。原発事故が深刻な事態だとわかったのはもう少し後のことです。震災直後のどこか森閑とした東京を半信半疑のまま電車を乗り継いで、ここで聴いた南さんのヴァイオリンの音は、その後もずっと私の心の拠り所となったのです。

…もし、中止となっていたら、このアートスペース・オーとの出会いもなかったかもしれません。縁とは不思議なもので、紙一重のところで切れもするし結ばれもするものです。

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ほんの80人にも満たない小さなスペース。音響的に必ずしも優れているとはいえないが、間近に接する一流演奏家の生音にはいつも驚かされます。4年振りに聴く南紫音さんの、目と鼻の先、手を伸ばせば触れてしまうような距離で鳴り響く名器ストラディヴァリウスの音は強烈な体験でした。

当時は、桐朋音大に進学して、学業のかたわらオーケストラへの出演やリサイタルで活躍していましたが、今はドイツのハノーファーに拠点を移してもっぱらレッスン漬けの毎日だそうで、日本ではほとんど公演を聴くことができません。そういう意味でも貴重なリサイタルでした。

最初の曲は、イザイの無伴奏。

席は、最前列の右手。ここの客席はカギ型に配列されていて、能舞台でいえば正面右側の「地裏」のような位置ですが、ちょうど楽器のネックの延長線上の正面になります。ふつうは演奏者を横から眺めるような位置が正面ですが、私はこの位置で聴くほうが好きです。これだけの近距離ですとお顔が正面で、とびきりの美少女である南さんの悩ましい表情が間近にあって、胸の鼓動の高まりが収まりません。

そのイザイは、凛とした強い音色で、その高い集中力には相変わらず凄みがあります。クライスラーに捧げられた曲ですが、あの優雅なクライスラーを連想させるというよりは、その音色は峻厳そのもの。本当に圧倒されます。確かほんの10分ほどの曲のはずですが、大曲を聴いたような充実感がありました。

二曲目はパガニーニ。

やはり無伴奏のカプリースのなかの一曲で、その音色はイザイとは大きく変貌していてまるで別の楽器に持ち替えたのではないかと思ったほど。舟歌風の曲のはずですが、その声音は悪魔的。イザイでもその弓遣いと音色変化の多様性に南さんの著しい進境のようなものを感じたのですが、このパガニーニはむしろ驚き。文楽の首(かしら)にからくりで顔が悪魔に一変する「ガブ」というものがありますが、それをヴァイオリンの音色で見たような気分。

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南さんの使用楽器は、ストラディヴァリウスの名器。

4年前は、ご自身が所有するヴィヴァルディ時代のヴェネツィアで制作されたオールドイタリアンでした。今回は、晴れてサントリー財団から貸与された1727年製のストラド。神尾真由子さんに貸与されていたもので、かつてシゲティが所有していたもの。なるほど、南さんのヴァイオリンは、シゲティ、神尾真由子とどこか通ずるような気がします。ちなみに神尾真由子さんは10年来愛用してきたこの楽器を返却し、今はアメリカの財団から1735年製のグァルネリ・デル・ジェスの貸与を受けて使用しているそうです。

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前半最後は、ピアニストの大須賀恵里さんが加わってのデュオ。イザイの別の側面を見るような思いがする素敵な曲。ここでも南さんのヴァイオリンはどこまでも背筋が伸びています。大須賀さんは、幾多の演奏者と共演し室内楽の主催するなど活発にアンサンブル活動をされているそうです。初めて聴きましたが、この小さなサロンの小さめのグランドピアノをこれほどのウェルバランスと豊かな音楽性でソリストと合わせたひとは、小菅優さんのほかに聴いたことがありません。すっかり感心してしまいました。

後半の、バッハの無伴奏も同じ。4年前にお話しをうかがった時は、尊敬し目標としているのはヒラリー・ハーンと言っていましたが、そういう凛とした清潔で知的なバッハ。音色がハーンよりも少し線が太く強く、情念をあからさまに押し出すように感じるのは、楽器のせいなのか、あるはこれだけ詰めた距離のせいなのか。いずれにせよ、深く胸に浸透してくるようなバッハです。

実は、最後のシューベルトにとても注目していました。ある意味で直線的な厳しさを持ち味としてきた南さんがシューベルトをどう弾くのか。第一楽章の出だしこそ、すこし硬いこわばりがありましたが、展開部から再現部に至るあたりから艶やかさが出てきてくつろぐような優しさが見えてきました。音楽に柔軟さと幅が出てきて、着実な成長を感じてうれしくなりました。バッハまでは目を閉じて眉根をひそめる表情が多かった南さんの美しい眼(まなこ)が、シューベルトになってからはうっすらと開き、時に微笑みを浮かべるように…。

アンコールが、また、ひときわ素晴らしかった。

クライスラーの「美しきロスマリン」には、確かなウィーン風のワルツが律動と揺らぎが心地よく、イザイの「子供の夢」はとても楽しく美しく、あの無伴奏とはまるで別人のようなイザイの優しさに満ちた表情を伝えてくれました。

ご一緒したUNICORNさんは、どうやら南さんをいわゆる《ビジュアル系》と思い込んでいたらしく、その「裏切り」にすっかり興奮してしまい、終始、テンションが上がりっぱなしでした(笑)。









アートスペース・オー 第193回コンサート
南 紫音ヴァイオリンリサイタル(ピアノ:大須賀恵里)

2015年3月15日(日) 16:00
東京・町田 アートスペース・オー


イザイ: 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第4番
パガニーニ:カプリス 第15番ホ短調
イザイ: ポエムエレジアーク

バッハ: 無伴奏ヴァイオリンソナタ 第1番BWV1001
シューベルト: ヴァイオリン・ソナタD.574

(アンコール)
クライスラー:美しきロスマリン
イザイ:子供の夢

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