とても楽しみました。
このプロダクションは、2011年のもの。当時、新進気鋭のダミアーノ・ミキエレットの斬新な演出が話題となりました。いわゆる読み換えもので舞台はナポリではなく、キャンプ場。
当時は、せっかくモーツァルトなのにキャンプ場のキャピキャビの男女の火遊びにされちゃうのはイヤだなと思ったものですが、観てみるとなかなか面白かった。久々の再演ということで、観てみたくなったというわけです。
観てみると、やはり良い。こんなに良かったかなと思うほど。
恋人の男女を入れ換えてしまうという荒唐無稽なオペラ・ブッファですが、それが現代のキャンプ場という設定が実に見事に包み込んでくれるのです。キャンプ場というのは、誰にとっても、自由だった若い頃の男女の出会いの場を彷彿とさせるシーンなのではないでしょうか。ちょっと死語の世界かもしれないけど、フォークダンスで異性の手に触れるような、そんなウブなときめきを思い起こさせます。
物語全体としてみれば荒唐無稽で不道徳なおふざけですが、諧謔や皮肉を逆手にとってモーツァルトがこれでもかとばかりに腕をふるってお得意の音楽を繰り広げる。からかいのような人を食った美辞麗句の愛のたぶらかしや恋歌を織り込むのはもちろんのこと、名誉を傷つけられた怒りや、優劣を競う争い、裏切りへの悲嘆、挫折感など人間の本質的な感情を豊かに歌上げていく。そういう不真面目な真面目さとでもいうべき、モーツァルトの音楽に翻弄されてしまう快感があります。
今回は思い立って3階正面席にしました。これが大当たりで、回転舞台全体を俯瞰するパースペクティブは、この演出の立体的な構成と舞台転換の巧みさが満喫できました。しかも声を通るし、ピットも見えて音も良い。しかも、大学以来の友人とそこでばったり出会うというおまけまでつきました。
いつもながらの外国人歌手をメインにして日本人歌手を配するというキャスティングですが、グリエルモの大西宇宙も堂々たるもの。声量の違いでバランスを壊すなどということは皆無で、モーツァルトの素晴らしい重唱の連続でも見事なアンサンブル。互いが互いに溶け込んでまったく違和感を感じさせません。デスビーナの九嶋香奈枝の小悪魔ぶりも上出来でコケティッシュさを演じるだけでなくドン・アルフォンソのフィリッポ・モラーチェと小気味よく絡んで妙にエッチな関係を好演。
フェルディナンドのホエル・プリエトも単に甘いだけでなくて感情豊かで、終盤では、すっかり傷ついてしまう陰りを醸し出していて魅力的。フィオルディリージ、ドラベッラの姉妹を演じる、セレーナ・ガンベローニとダニエラ・ピーニも文句をつけようがない。とにかく歌が上手いし、容姿も良い。キャンプ場の池で水しぶきを上げながらの品定めの場面(私は黒髪のほう/じゃあ私は金髪ね)でのデュエットは最高にチャーミング。
飯盛範親の指揮はとても期待していたけど、その期待をも上回る運びの巧さがうれしい。東フィルも終始、バランスの良い響きと音色でモーツァルトの魅力がいっぱい。第二幕になっていよいよフェルランドとグリエルモが本気になってドラベッラとデスビーナを陥落させる場面など、クラリネットの女性お二人が大活躍。これにはニンマリしてしまいました。
堪能しました。
新国立劇場
モーツァルト 「コジ・ファン・トゥッテ」
2024年6月2日 14:00
東京・初台 新国立劇場 オペラハウス
(3階2列25番)
【指 揮】飯森範親
【演 出】ダミアーノ・ミキエレット
【美術・衣裳】パオロ・ファンティン
【照 明】アレッサンドロ・カルレッティ
【再演演出】三浦安浩
【舞台監督】村田健輔
【フィオルディリージ】セレーナ・ガンベローニ
【ドラベッラ】ダニエラ・ピーニ
【デスピーナ】九嶋香奈枝
【フェルランド】ホエル・プリエト
【グリエルモ】大西宇宙
【ドン・アルフォンソ】フィリッポ・モラーチェ
【合 唱】新国立劇場合唱団
【合唱指揮】水戸博之
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
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