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2019年12月15日13:35

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青春の旅立ち (田部京子ピアノ・リサイタル)

田部京子さんが、浜離宮朝日ホールで続けているドイツ・ロマン派のリサイタルシリーズ。『シューベルト・プラス」の第6回。

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1曲目は、晩年のシューベルトの小品。とても切ない愛惜に満ちたアレグレット。シューベルトは直前にベートーヴェンの葬列に松明を手にして参列しています。自身もその翌年に大作曲家を追うかのように夭折しています。晩年のソナタは較べるほどもないほど長大で深いのですが、このアレグレットも同じくらいに心を打ちます。

田部さんは、プログラム劈頭はこういう小さな作品を置いて、開演に間に合わないファンにさりげない配慮をされているのですが、この夜は誰ひとり遅刻するひとがいなかったのか、ステージから退出することなく、そのまま次のシューマンが演奏されました。

続けて演奏されたせいなのか、シューベルトの影を色濃く反映したかのような「子供の情景」。シューベルトの《別離》ではないのですが、何かを限りなく愛おしく思う切々とした愛惜の音楽。テンポもはっとさせられるほどにゆっくりと感じます。少年が、青年へと脱皮していく、そういう青春の旅立ちに自分の子供の思い出を限りなく懐かしく夢想しているような音楽。女性の田部さんらしい、ゆっくりとした時間軸が感じられて、ほんとうにうっとりとさせられます。

続いての「ペール・ギュント」も、そういう《青春の旅立ち》の音楽。

田部さんは、昨年リリースされたグリークの協奏曲とともに、この組曲を再録しています。青年の故郷からの出奔と冒険の物語ですから、まさにそういう曲なのですが、特に第一組曲は劇前半から集められているので、余計にそういう性格が強い。ここでも田部さんは遅めのテンポで、冒険を回顧し何かを愛おしむように弾いていきます。雄弁であっても饒舌ではなく、音色がとてもきれいなのは田部さんの最大の美質なんだと感じます。

この日の中心は、若きブラームスの大作のソナタ。

田部さんは、いつだったか、ベルリンの壁崩壊に立ち会った経験を語ったことがありましたが、そのベルリン留学の第一日目、到着したその日の晩に、アバド/ベルリン・フィルの演奏会に行ってブラームスの交響曲第3番を聴いて、以来、ブラームスの虜になったそうです。93年に帰国してデビューリサイタルで取り上げたのが、このブラームスのソナタだったとか。

前半とは一変して、青春のただ中にあるような、新鮮で力強いタッチでがんがんと弾き進めていく。その若々しい演奏に驚嘆させられました。つい前日のブランチコンサートでのピアノ五重奏では、ブラームスの旋律と音のテクスチュアを絡ませ、隣り合わせ、何層にも交差させながら塗り重ねていく…そんな手法に感銘を受けたばかりでしたが、ここではそういう手法が、もっとずっとずっとあからさまに押し出されています。それが、若さであり、青春の旅立ちの気概というものなのでしょう。低音がどかんとあって、中音域の内声が厚みを加え、高域が燦然と輝く。田部さんもそういうことにまったく躊躇がない。

素晴らしいブラームスでした。


(蛇足)

この日はNHKのカメラが入っていました。

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マイクセッティングは、ステージ中央上方に左右+センターのツリーが下げられ、ステージ上にはピアノに近接したステレオマイクのスタンドが立てられています。

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近年のNHKは映像だけでなく、こうしたマイクセッティングにも音声への本気度が感じられます。いずれFMでも放送されるのでしょうか。楽しみです。
 
 
 
 
 
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田部京子シューベルト・プラス第6回
田部京子ピアノ・リサイタル
2019年12月12日(木) 19:00
東京・築地 浜離宮朝日ホール
(1階 5列20番)


シューベルト:アレグレット ハ短調 D915
シューマン:子供の情景 Op.15
グリーグ:ペール・ギュント 第1組曲 Op.46

ブラームス:ピアノ・ソナタ第3番 へ短調 Op.5

(アンコール)
ブラームス:6つの小品より 間奏曲 op.118-2 イ長調
シューベルト:アヴェ・マリア(吉松隆 編)

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