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2019年07月04日16:39

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ライト建築とベートーヴェン (アーニマ四重奏団)

先日、たまたまTVのスイッチを入れたら、池袋の自由学園明日館のことを特集していて、久しぶりに行ってみたいと思っていました。そんな時に、コンサートで配られるチラシにここでミニコンサートがあることを知りました。

明日館は、アメリカの巨匠フランク・ロイド・ライトの設計による建築として愛されてきました。羽仁吉一、もと子夫妻が創立した自由学園の校舎として1921年(大正10)に建てられました。旧帝国ホテルの建設に際してライトの助手を務めた遠藤新が羽仁夫妻の親しい友人で、ライトに引き合わせたのです。

自由学園が1934年に移転後も、自由学園の所有として卒業生が利用する施設として使用され、1997年に重要文化財に指定された後も結婚式場や会議室や集会室として一般にも公開されて文化財建築物を利用しながら保全されています。

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遠藤新の設計による講堂は、しばしばコンサート会場として使われていて、私も何度か訪れていますが、今回は、明日館のシンボルとも言える前庭を望む大窓のあるラウンジホールでの演奏会とのことで、建築好きの妻を誘っていそいそとバスに乗って出かけたのです。

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アーニマ四重奏団は、2006年に東京芸大出身者で結成されました。そうそうたるメンバーで母校で准教授として後進の指導に当たったり、紀尾井ホール室内管弦のメンバーだったりと各々に活躍されていますが、楽団としてもその後も息長く活動を続けていて、これまでもバルトークやメンデルスゾーン、シューマン、ブラームスの全曲演奏に挑んできました。昨年から、ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会を開催中で、今回はその第5回にあたるというわけです。

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各公演50名限定ということで、会場は並べられた椅子で満席。ラウンジホールは思ったよりも小さく感じました。幾何学的なライト独特の簡素なデザインは、質実な装いと生活のなかに豊かな内面を育むという羽仁夫妻の教育の理念にふさわしいもので、美しい緑の前庭から差し込む柔らかい光を浴びながらおだやかに開演を待つのは至福のひとときです。

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ほんの数メートルの距離で聴く、ヴァイオリンなどの弦楽器の音は想像以上に音量が大きく、鮮烈です。ラウンジホールの天井は二階の部屋と吹き抜けになっていて、さらに、続く部屋にも開放されているので、決して大きくない空間の容量のわりには音がこもらず、直接音主体のサウンドになります。オーディオやコンサートホールで聴く室内楽とはまったく違う響きです。

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音が安易に融け合うことはなく、四人の個性がアンサンブルの中からそのまま浮かび上がり、その気持ちの一瞬一瞬のゆらぎがこちらにも伝わってきます。古くからの閑静な住宅街なのですが、平成になってから急激に膨張した池袋の繁華街の喧噪はどうしても聞こえてきます。演奏途中で救急車の執拗なサイレンが部屋のなかにも漏れてきて苦笑させられる場面もありましたが、独特の親密な空間で聴くハイドンのロシア四重奏曲の6番目の曲の端正でなお諧謔を含んだ表情豊かな表情を真摯に伝えてくれます。続くモーツァルトのある種の確信を胎んだニ短調の四重奏はとても鮮烈です。ロシア四重奏曲に感激したモーツァルトは、このハイドン・セットと呼ばれる知性的な意匠に満ちた曲集をパパ・ハイドンに献呈したのでしたね。

休憩時間には、食堂のほうでお茶とケーキが振る舞われました。

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かつての調度が復元され、そのままに並べられたテーブルで小さな菓子を食べながら紅茶をいただいていると、ふと、小さな生徒たちの食事時間のにぎやかなおしゃべりが頭のなかでふと響いてくるような錯覚さえ覚えます。

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開演中は、吹き抜けのテラスから父親といっしょにじっと下を見下ろしていた男の子が、周りのご婦人たちから歳を聞かれて、はにかむように手の五本指をいっぱいに広げて見せてくれたのが可愛らしい。

今回の演奏会は、前回とは違う配置レイアウトだったそうです。前回を知らないのでわかりませんが、オーディオファンがよく迷う、部屋のヨコづかい、タテづかい、のようなことでしょうか。ラウンジの奥の暖炉側は二階の下なので天井が低くてスペースとしては使えないと思います。おそらく前回までは大窓側をステージにしてそれを囲むように席が置かれていたのではないでしょうか。この大きさの会場になると、そんなレイアウトを工夫する迷いも楽しめるのだなと、ひそかにうれしくなってしまいました。

後半のベートーヴェンは、さすがにコンサートの主眼だけに、よく練られたアンサンブルになっていました。第一Vnの山崎さんは、活発に動き回り、時折浮かべる笑みのなかに快心の気持ちが伝わります。ベートーヴェンの弦楽四重奏というと、どうしても中期のラズモフスキーの充実や後期の晩年の内面的な世界を思い浮かべてしまいますが、こうして初期作品を聴くと、ハイドンやモーツァルトの確立した古典的世界を踏まえつつ、若々しい野心がここかしこに意匠となって現れて魅力的です。その「誉めてもらいたい」というようなベートーヴェンの若気が、私たちをどこか楽しくさせ、若さということを愛おしく思わせるところがありました。





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アーニマ四重奏団
ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会 第5回
〜初期弦楽四重奏曲集と先達の作品をめぐって〜

2019年6月26日(水) 18:30
東京・池袋 自由学園明日館 ラウンジホール

ヨーゼフ・ハイドン:弦楽四重奏曲 ニ長調 Op.33-6
ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト:弦楽四重奏曲 ニ短調 KV421

ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第5番 イ長調 Op.18-5

1st Vn 山崎貴子 2nd Vn 松原勝也 Va 吉田 篤 Vc くぼた りょう

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