トリノでの第2日目。
午前中だけの滞在でしたが、ゆっくりと市内散策を楽しみました。
最初に目指したのは、市内のランドマーク、モーレ・アントネリアーナ。地上121メートルの高さで、20世紀以前の建築としてはエッフェル塔、ワシントン記念塔に次いで3番目の高さだそうです。1863年に建設が始まったときはユダヤ教のシナゴーグの予定だったそうですが、建築家の野心でどんどんと高くなってしまい完成したのは26年後の1889年。ユダヤ人社会から解雇された建築家もとっくに死んでしまった後だったとか。現在は国立映画博物館となっています。てっぺんのドーム展望台までは建物の中心を貫く高速エレベーターもあって、内部はなかなかシュール。
展望台からは、トリノ市街が一望できる。こうやって眺望すると、なるほどアルプスの山々がすぐ近くで、ここが冬季オリンピックの開催都市になったことがようやく納得できます。
ぶらぶら緑地を抜けながら王宮の方向へと歩いていくと、ローマ遺跡の壁や大門、円形劇場があります。ローマは偉大だなぁと感心することしきりですが、こんなところも観光にはまだまだ素っ気ないトリノの気質がうかがえます。
いよいよ王宮見学です。美術史的な価値はフィレンツェやヴェンツィアには一歩も二歩も及びませんが、それでも、やはりそのスケールや物量には圧倒されてしまいます。ゆっくり見ていたらキリがないほど。
昼食を、やはり昨日の広場の別のカフェでフォカッチャのサンドイッチで軽くすませます。
最後にポー川河畔を散歩してトリノに別れを告げると、さあ、いよいよミラノへ戻ります。
この日のスカラ座は、ムソルグスキーの未完のオペラ。今回の旅行で唯一のイタリアものではないオペラ。
ところが、身が震えるほどの感動を覚えたのは、やはりムソルグスキーの音楽の強烈なまでの魅力であり、それを引き出したゲルギエフのタクトの力なのでしょう。
物語は、ムソルグスキーがこだわったロシアの歴史。
17世紀後半のロシア正教会の改革とロマノフ朝の後継争いという一連の史実に基づいたもので、政争の道具となったのが政府に不満を持ち、改革に抵抗した古儀式派の宗徒の支持を得ていた銃兵隊で、これを扇動し反乱を起こしいったんは権力を握ったのがホヴァーンスキー公で、この銃兵隊反乱と、それに続く政情不安をロシア史では「ホヴァーンシチナ」と呼んでいるそうです。その後、クリミア遠征の失敗など対外政策のつまづきで、権力は揺らぎ再び反乱蜂起して巻き返しを図るものの制圧されます。最後には、銃兵隊は謀反人として粛清・処刑され、一方、同じように敗北した古儀式派主導者は火刑に処されるというドロドロの暗闘の史実がもとになっています。
正直言って、そういう複雑な物語の脈絡を追うのは難しく、劇構成もいささかいびつでいかにも未完の大作というシロモノなのですが、その音楽の魅力には底知れない情念と土俗的なパワーに満ちています。
歌手は何気にとてもぜいたく。おそらくゲルギエフがマリインスキー劇場から連れてきたのでしょう。大地を揺るがすかのようなロシア歌唱を力演、マルファ役のエカテリーナ・セメンチュクなど女性歌手もすごい。アンドレイにつきまとわれるルター派教徒エンマ役のエフゲニア・ムラーヴェワなどとても若くて魅力的なのに、いささか女性役の扱いに素っ気ない作曲者のせいで、あっという間に舞台から姿を消してしまいます。
何と言っても素晴らしいのはオーケストラ。まさに地の底から湧き上がるような土の香りが濃厚なサウンドは、いくらゲルギエフの力量もあるとはいえ、これがイタリアのオケから出てくるということは驚きです。その驚きさえいつの間にか忘れて音楽に魂を持って行かれてしまうかのように耽溺しました。改めてスカラ座の底力と柔軟な対応力に感服しました。オーケストラとしても、世界トップテンのシンフォニーオーケストラに匹敵するし、歌劇場のオーケストラとしてはその多様性という点でドレスデンのそれをはるかに引き離してしまっているかもしれません。
後半に至って、もはや息をもつかせぬ激白と緊迫、情念の吐露といった場面の連続で、文字通り息をするのも忘れるほど。最終幕、修道院に火を放ち、全体が真紅に染まって燃え上がる中での信徒たちの合唱には腰が抜けて席から立ち上がれないほどの感動でした。
ムソルグスキー「コヴァンシチーナ」
ミラノ スカラ座
2019年3月29日 19:00
指揮:ヴァレリー・ゲルギエフ
演出:マリオ・マルトーネ
イヴァン・ホヴァーンスキー公:ミカイリ・ペトレンコ
アンドレイ・ホヴァーンスキー公:セルゲイ・スコロフォドフ
ヴァシーリー・ゴリーツィン公:エフゲニー・アキモフ
ほか
Modest Petrovich Mussorgsky
Teatro alla Scala
Conductor: Valery Gergiev
Staging: Mario Martone
Sets: Margherita Palli
Costumes: Ursula Patzak
Lights: Pasquale Mari
Video designer: Umberto Saraceni for Italvideo Service
Choreography: Daniela Schiavone
CAST
Ivan Chovanskij: Mikhail Petrenko
Andrej Chovanskij: Sergey Skorokhodov
Vasilij Golicyn: Evgeny Akimov
Saklovityj: Alexey Markov
Dosifej: Stanislav Trofimov
Marfa: Ekaterina Semenchuk
Susanna: Irina Vashchenko
Scrivener: Maxim Paster
Emma: Evgenia Muraveva
Pastor: Maharram Huseynov
Varsonof'ev: Lasha Sesitashvili
Kuz'ka: Sergej Ababkin
Stresnev: Sergej Ababkin
First strelec: Eugenio Di Lieto
Second strelec: Giorgi Lomiseli
Man of trust of Prince Golitsynli: Chuan Wang
Teatro alla Scala Chorus and Orchestra
ログインしてコメントを確認・投稿する