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2018年05月05日09:26

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イタリアの洒脱とフランスの昇華 パオロ・カリニャーニ/紀尾井ホール室内管

紀尾井ホール室内管に久々にパオロ・カリニャーニの登場です。

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前回の登場は5年前で、ロッシーニの「スタバト・マーテル」という大曲でした。

カリニャーニさんは、中堅指揮者のなかでイタリアオペラを振らせては右に出るものがいないといってもよい存在です。実は、私は昨年のミュンヘン旅行でヴェルディの「ナブッコ」を聴いています。ヴェルディの劇的でしっかりとした骨太の音楽に、いかにもイタリアらしい歌に満ちた感情の高まりという音楽が、出だしから最後の最後まで充実していました。

紀尾井ホール室内管は、これまでどちらかと言えばドイツ・オーストリアなど中欧音楽を中心としたレパートリーでその音楽性を磨いてきました。このオーケストラに限らず日本の音楽家というのはそういう傾向が強くて、どうもイタリア音楽は苦手だという気がしています。前回の公演でも、オーケストラの自主性がどうも出にくいという傾向がありました。そういうイタリアやフランスなどラテン系の音楽をいかに磨いていくか、そこがこのオーケストラの課題であり、カリニャーニさんの薫陶を受けることに期待するところ大というところです。そして今回はその期待に見事に応えてくれました。

一曲目のケルビーニ・歌劇「アリババ」序曲は、はじけ飛ぶようなキレのよい演奏。ケルビーニはウィーン古典派と同時代の作曲家。イタリア人ですがパリでも活躍した作曲家で、この「アリババ」もパリで初演されています。ケルビーニらしい古典派の構成感やロココ的な様式感というものを吹き飛ばすような、ある意味ではロッシーニ的な元気いっぱいの奔放さを押し出した演奏は、そういうイタリアとフランスの接点を強調するこの日のプログラムの前口上ということのようです。

二曲目のマルトゥッチは初めて聴きました。この作曲家は次のレスピーギの先生でもあって、イタリアでは珍しくオペラを手がけず器楽音楽に専念した作曲家なのだそうです。短い曲ですが、確かに次のレスピーギやドビュッシーを導き入れるかのような音楽。イタリアの歌心と洒脱さが器楽へと凝縮され、それがフランスの器楽へと昇華していくという橋渡しのような音楽です。こういう曲を聴くとこのオーケストラがフランス的なエスプリを見事に演奏するようになったことを実感します。フランスものにも類い希な自発性を発揮するようになったことの立役者はコンマスの千々岩さんなんだと思います。

三曲目はレスピーギ。これが素晴らしかった。

不思議なのですが、レスピーギの演奏というと、私は英国のオーケストラを思い浮かべてしまいます。あの「リュートのための古代舞曲とアリア」でもヘスス・ロペス=コボス/ロンドン・フィルの名演があるし、そのほかにもエドワード・ダウンズ/BBC響、あるいはロペス=コボスにはアメリカのシンシナティ響を振った名演があります。なぜ、イタリアなのにアングロサクソン系のオーケストラが合うのか?その疑問がこの日の演奏でとても得心がいきました。その秘密は金管の音色にあったのです。昨シーズンから若返りが進行している紀尾井ホール室内管ですが、この日は金管楽器群がとても若返っていた。それがドイツ・オーストリア系の和声的な音色ではなくてアングロサクソンの芯のある豊かで厚みのある金属的な響きも出せるようになった。そういう金管の音色が、私にとってレスピーギの管弦楽の魅力になっていたのです。

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後半のドビュッシーも魅力満開。

ラヴェルと違って、ドビュッシーのピアノはピアノで徹底していて、作曲家自身は管弦楽への編曲にはいたって怠惰でした。いつでしたか、アシュケナージ/N響で聴いたそういう編曲バージョンを聴いていたく退屈したのでしたが、この日の「ベルガマスク組曲」はとても素敵なファンタジーになっていました。マルトゥッチの伏線がこうしてレスピーギとなりドビュッシーとなるのはカリニャーニさんのマジックです。

でも圧巻だったのは最後のベルリオーズ「クレオパトラの死」。

ベルリオーズは言うまでもなく「幻想交響曲」でロマン派管弦楽曲の革命をもたらした天才ですが、この曲は若きベルリオーズがローマ賞受賞を目指し作曲した野心曲。「ローマ賞」とはフランス学士院が設けた芸術家の登竜門で副賞としてローマ留学の奨学金が授与されました。ドビュッシーが「牧神の午後への前奏曲」でこの賞を獲得し、一方、ラヴェルはついに受賞できずに恨みを残す。ベルリオーズは、四度の挑戦でようやく一位を獲得したのですが、「クレオパトラの死」は三度目の挑戦。保守的な審査員には受け入れられなかった曲です。

そのベルリオーズ登場の背景にあったのは、ケルビーニとそれに続くロッシーニらのイタリア歌劇がパリを席巻したことでした。フランスの市民革命は、先ずはドラマとしてのイタリアオペラを通じてパリ市民を熱狂させ、やがて劇的なロマン主義のファンタジーとして昇華していくのです。日本でもようやくベルリオーズのオペラや歌曲が浸透し定着しつつありますが、この日の「クレオパトラ」はこれまたちょっとした出来事だったような気がしました。

メソソプラノのリリー・ヨルシュターが素晴らしかった。

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南ロシア・アストラハン生まれだそうですが、2014年にミラノ・スカラ座アカデミーに所属しぐんぐんと頭角を現してきたプリマ。今回が日本デビューとなりますが、独特の美貌とともに、積極的な感情表現でその演技力も魅力です。この曲が、まるでオペラからの1シーンを抜き出してきたかのように劇的に響きます。メソソプラノとソプラノというのは元来さほど音域的には差がなくて、むしろその深みのある声色にこそメソのドラマチックな本性が宿るものですが、そういう意味でもこの若いメソソプラノから強い感銘を受けました。

自ら命を絶つクレオパトラ。それはもう、クレオパトラが死に絶えた後の静寂のなかでオーケストラも沈み込むように死に絶えていく…劇的な終末でした。最後の静寂からようやくブラボーの声が上がったときにカリニャーニさんが握手を求めて真っ先に向かったのは河原泰則(元ケルンWDR放送響首席)と渡邊章成(都響副首席)のコントラバスの二人のところでした。




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紀尾井ホール室内管弦楽団 第111回定期演奏会
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2018年4月28日(土) 14:00
東京・四谷 紀尾井ホール
(2階センター 2列22番)

パオロ・カリニャーニ(指揮、ヴァイオリン)
リリー・ヨルシュター(メゾソプラノ)
紀尾井ホール室内管弦楽団
(コンサートマスター:千々岩英一)

ケルビーニ:歌劇「アリババ」序曲
マルトゥッチ:夜想曲Op.70-1(管弦楽版)
レスピーギ:組曲「鳥」

ドビュッシー:ベルガマスク組曲(クロエ&カプレ編)
ベルリオーズ:クレオパトラの死
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