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2016年12月03日16:21

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「二〇世紀日本レコード産業史」(生明 俊雄 著)読了

著者は、ビクターエンタテイメントで、音楽や音楽映像の制作、宣伝、営業などに携わり洋楽部長などを歴任したひと。定年後、東大人文社会系研究科の修士・博士課程に学び、ポピュラー音楽やメディアビジネスをテーマに教鞭をとり、著作も少なくない。

本書は、2001年に東芝EMIから発売されたCD『日本吹き込み事始』を聴いたことがきっかけだという。『日本吹き込み事始』とは、明治末期に英国グラモフォン社のエンジニアたちが出張レコード録音のために来日して作られたもの。それはまだ日本にレコード会社が生まれる以前のことだった。著者は、ここから説き起こして、日本のレコード音楽産業史を丁寧に概観していく。

世界の音楽市場は、EMI、コロンビア、ビクター、ポリグラム、ワーナー、MCAという英米メジャーがほぼ占有している。世界第二の音楽市場である日本も例外ではない。日本の産業史という点でも、日本を源流とする企業グループがほとんど存在しないという点でも他産業と比較して異例である。なぜそうなのか?というのが著者の視点となっている。

明治末期の黎明期、あるいは大正から昭和初期にかけての勃興期には、欧米が技術的にも音源制作という点でも圧倒的に先進国だったから当たり前だが、戦後の高度成長期と外資制約があった時代から資本自由化が段階的に進む過程でも日本の民族資本がメジャーへと飛躍しなかったことは、あきらかに他産業と違う。本書はそれをじゅんじゅんに解き明かしていく。

個人的には、何と言ってもソニーの劇的な参入が記憶に強く残っている。ソニーというハードウェアメーカーがソフトウェアに参入したことも劇的だったが、それまでCBSコロンビアの提携先だった日本コロンビアはそれまでのレーベルやミュージシャンを失い文字通り路頭に迷う結果になったという印象だった。

しかし、本書によると本当の事情は違っていて、実は、日本コロンビアがCBSを袖にしたのだそうだ。あの事件は、日本の資本自由化が50%まで開放され一気に欧米メジャーとの合弁が進む過程で起こった。CBSは、当然、それまでの提携先であった日本コロンビアに話しを持ち込んだ。それを日本コロンビアが断ったのだという。それは外資による支配を恐れたからで、一方で、日本コロンビアは邦楽市場にある程度の自信を持っていたということになる。当時、洋楽と邦楽はほぼ半々で邦楽のほうがはるかに高収益だった。親会社の日立グループは、高収益を上げていた邦楽部門を手放すことを惜しんだし、音響メーカーである日本電気音響(デンオン/デノン)との車の両輪にこだわった。

その一方で、代替先として話しを受けたソニーは、もともとソフトへの進出という構想を抱いていたこともあって無条件でCBSの提案に飛びついた。経験豊富な米人経営者を受け入れるとともに、経営資源を惜しげもなくつぎこんで邦楽部門を立ち上げあっという間に大手へとのし上がっていく。見事な経営戦略だというべきだろう。

このことは資本自由化100%の最終段階でも繰り返される。他社が次々と外資メジャーの軍門に降る中で、ソニーは、逆に外資を喰ってしまう。ソニーミュージックの誕生である。世界の統括拠点こそ米国にあるが、それはまさしくソニーの米国法人の100%子会社であり、すなわち日本のソニーの孫会社である。音楽メジャーとなること、それはすなわちソニーの創業者たちの夢でもあった。

本書によれば、他の会社にもそのチャンスはあったのだという。ひとつはBMGが1986年にRCAを取得したとき。RCAの戦前からのライセンシーであった日本ビクターにも意思表示さえすればRCA獲得と世界メジャーへの躍進のチャンスはあったという。当時、日本ビクターはVHS戦争の勝利者として収益も資金も潤沢だった。それが実現しなかったのは、ソニーと、日本ビクターあるいはその親会社の松下電器との企業風土の違いだったのだろうという。松下電器は、その後、MCAを買収するがわずか5年でカナダのシーグラムに売却している。

その他、高度成長期におけるナベプロに代表される音楽制作のプロたちのレコード産業への参画、独立系録音スタジオの誕生、映画やTVとの連動など、音楽産業をめぐる興味深い歴史が満載。

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レーベルの変遷、レコード会社の合従連衡、大型買収の軌跡は、レコード音楽ファンにとっては興味津々、基礎教養のひとつであるとさえ思うが、これがなかなか複雑で頭に入りにくい。本書はあくまでも日本のレコード産業史だが、こうした歴史と経緯を俯瞰するのにはとてもまとまりがよい。

レコード音楽ファンには、ぜひ一読をお勧めしたい。ただし、もともとは著者の博士論文であるので中味は少々お堅い。とはいえ、産業論、マーケティング戦略、あるいはデジタル時代の音楽業界の将来という点でも考えさせられることが多い。







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二〇世紀日本レコード産業史: グローバル企業の進攻と市場の発展
生明 俊雄 (著)
勁草書房

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