紀尾井シンフォニエッタ東京は、4月から《年度制》で再スタートします。これまでの秋からスタートするシーズンとの空白に、メンバーによる小アンサンブルでのコンサートが演奏されています。いわば「つなぎ」の演奏会なのですが、これがすごいことになってきました。
今回は、コンマスの千々岩さん(パリ管副コンサートマスター)を中心に、パリ管のゲスト奏者との混成でのアンサンブル。プログラムはいずれももともとはフルオーケストラの曲ですが、これを室内楽用に編曲されたものが演奏されました。これがほんとうに面白かったのです。
編成は、弦5部に鍵盤楽器、管楽器、打楽器が加わったもので、いずれも完全なソロとしてそれぞれのパートを担います。それだけに演奏は極めて鮮明で、それぞれのソロの音色と、ハーモニー、リズムが際立つ。名手ぞろいであるだけにその音楽性が際立つ一方で、一歩間違えばその瑕疵はすぐにあからさまになってしまう実に際どい一面がありますからとてもスリリング。
ハーモニウムとはリードオルガンのことで、パイプオルガンの代用として近代音楽では盛んに使われた楽器ですが、ここでは主にホルンのパートなどを請け負い中音域のハーモニーを補っています。最初の「牧神」もそうですが、マーラーなどではホルンの不在がちょっと寂しい気もしましたが、これだけの精緻なアンサンブルで不安定なホルンを聴かされるのはとても耐えられないという気がしましたし、他の木管楽器のようにホルンだけは縦横に他の楽器を代行できないと気がついて、最後はとても納得が行きました。
最初の「牧神」が一番原曲に近い響きがしましたが、それでもフルートのソロが際立つ演奏です。フルート二本分をひとりでやってのける部分などまさにヴィルティオーゾ的な要素があり、オーボエ、クラリネットの負担も大きくて、木管三人の素晴らしい音色と妙技に酔いしれます。
曲の最後に現れる、澄んだチーンという音も鮮明。これをトライアングルと誤解しているひとが多いのですが、これはアンティークシンバルという楽器。その古代ギリシャやチベットを連想させるピュアでアンティークな音色がよく聴き取れました。まずLP時代にはとうてい聴けなかった聴感です。(上記写真は関西フィルのブログから拝借しました。この日の演奏とは無関係です。)
次の、ヨハン・シュトラウス�鏡い裡俺覆發箸討睫滅鬚�った。シェーンベルクの編曲は、亡命者のウィーンへの郷愁をハリウッド的な編成で再現するという感覚で、下卑た曲想を極めて洗練された響きにするという相反を同時にやってのけるところに凄味を感じます。それを千々岩たちが実にフランス的な音調で洗練味を極限的に高めていて、これにはちょっと舌を巻いてしまいます。
メインとも言うべきマーラー「交響曲第4番」はいったいどんなことになるのかと思いましたが、もはや編曲がどうのこうのということは忘れて、名手たちの妙技、精緻なアンサンブルとひとりひとりの音楽性が呼応し交錯するセッションのミラクルに終始興奮状態でした。
この日は、NHKのカメラが入っていたのですが、そこで思わぬ事故がありました。
第二楽章のスケルツォで、千々岩さんが弾く一音上げて調律する持ち替えのヴァイオリンの弦が弾けるように切れてしまったのです。練習番号6の147小節目のffで強く鋭く高くキッと鳴らすところ。動揺は明らかに他のメンバーの緊張を呼びクラリネットのドゥヴォーさんまで直後に音を外してしまいます。いったいどうするのかと見ていると、そのまま最高弦を欠いた変則調弦の楽器と通常楽器とを巧みに持ち替えながら弾ききってしまったのです。終演後、アンコールと思いきや「NHKさんが入っているので、このままというわけにはいきませんので」という短いアナウンスで、この第二楽章が通して再演されました。
その再演を見ていると、原曲での持ち替えの指定とは違っているところがあることがわかって二度びっくり。ひとりで原曲のコンマス役と第一Vn役と二役も三役もこなすので、とても複雑。ということは、弦が切れた本番では、さらに持ち替えを臨機応変にやっていたわけで、二度も三度も驚いてしまいました。いったい楽譜はどう記譜されているのでしょうか。それを一瞬で判断したり読み替えての演奏だったのです。
このマーラーで本当に素晴らしいと感服してしまったのが、ピカールさんのチェロ。
23歳の若さでいきなりパリ管の首席に抜擢されたそうですからただ者ではなかった。その音色のフランス的な高貴さと、千変万化の表情の豊かさ、ボーイングの自在さ、左手の敏捷さと正確さは驚くばかり。そこから弾き出される豊かな音楽は、まさにマーラーの神髄でした。
終楽章に登場した小林沙羅さんも素敵。
第3楽章のコーダ、いわば第4楽章へのブリッジのような部分でしずしずとステージ中央に歩んでくるところは、歌う以前にすでに確かな存在感があります。清潔な美人で声が天国的に美しく、そのチャーミングな歌唱には魅了されます。この夜は、そこにスターとしての貫禄のようなものも出てきたような気がしました。
実は、席についてみると、偶然、そのお隣はマイミクの NEXTNEXTさんご夫妻。NEXTNEXTさんもこの夜は終始上機嫌で大満足のご様子。最後はヴラヴォーを何度も連発されていました。
終演後は、例によってGRFさんとイタリアンで感想戦。やはり話題の中心は、チェロのピカールさんでした。
紀尾井シンフォニエッタ東京メンバーによるアンサンブル ��
パリ管弦楽団と紀尾井シンフォニエッタ東京の名手たちによる
室内楽版 マーラー 交響曲第4番
2016年11月29日(火) 19:00
東京・四ッ谷 紀尾井ホール
千々岩英一(Vn)、井上静香(Vn)、篠��友美(Va)、エリック・ピカール(Vc)、池松 宏(Cb)、ヴィセンス・プラッツ(Fl)、蠣崎耕三(Ob)、フィリップ=オリヴィエ・ドゥヴォー(Cl)、綱川淳美、前田啓太(Perc)、高橋博子(Harm)、長尾洋史(Pf)、小林沙羅(Sop)
ドビュッシー/B.ザックス編:牧神の午後への前奏曲
J.シュトラウス�鏡ぁ�A.シェーンベルク編:南国のバラ
J.シュトラウス�鏡ぁ�A.シェーンベルク編:皇帝円舞曲
マーラー/E.シュタイン編:交響曲第4番ト長調
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