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2016年11月19日02:39

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河村尚子 ショパン・プロジェクト第4回「晩年のショパン―幻想」

全4回にわたる河村尚子のショパン・プロジェクトもいよいよ最終回となりました。

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トークでもご本人が言っていましたが、2年前の第1回の時は、2ヶ月前に女の子を初出産し母親となったばかりのコンサート。身体が弱っていてつらい面もあったそうですが、むしろ充実した思い出深いコンサートでもあったとか。「子守歌」というのは赤ん坊を寝かせるというよりな、寝ついた赤ん坊を起こさないようにするということを知りましたと言って聴衆を笑わせた河村の弱音のタッチが、以前とは比べものにならないくらいに優しくなったことがうれしかったことを思い出します。このプロジェクトは、ショパンの生涯をたどるということともに、河村自身の成長や変化を投影するようなところがあると私は思い続けてきました。

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さて最終回はいよいよショパンの晩年の幻想の世界。

人生の終焉ということには、衰えとともに孤独や諦念、哀切のようなものを連想させます。ショパンの晩年は、恋人ジョルジュ・サンドとの破局と別居、健康の悪化という事実もあって、よけいにそのようなものを強く連想させるのだと思います。ところが、河村のプログラムを聴くと、晩年のショパンの創作はそういう陰りや月が欠けていくような弱さどころか、ロ短調のソナタなどたいへん充実した堂々たる大作をものにしていて創造力としてはむしろとても充実したものだったと強く感じさせてくれました。

強くそう感じさせてくれたのは、まず、河村の奏法の充実なんだと思いました。

最初のマズルカの冒頭を聴いてはっとしました。とても左手が充実している。単に強いというだけでなく低域の音色に深みが増し沈み込み、そしてとても持続性が増していると感じるのです。そのことで響きが充実し、長く和声の基音が持続できることでオルガンのような効果も含めて音楽表現の自由度とか幅が大きくなったと感じるのです。

もうひとつは、そのこととも関連があるのですが、表現力や自由で鮮度の高い即興性が増したこと。

今回、河村は驚くほどに音楽を動かし揺さぶり、とても感情表現が豊かで大きいステージを作っていました。あっと思うような長いブレスを入れたり、テンポのシフトの前後の加速減速やクレッシェンドの息がとてつもなく長い。それがバラバラになったりとってつけたようにならないのは左手がしっかりしてきて響きが持続できるので右手が自在に動けるようになったのだと思いました。

目をつぶって聴いていると、何だかステージいっぱいに駆け回り、位置を変え、向きを変え、手を翼のように拡げ、足で軽やかにステップを踏んで、歌い踊るように雄弁にセリフを語る女優としての河村の姿を思い浮かべてしまったのです。ピアノを演奏しているというよりはモノローグの演技を観ているよう。しかも、それは棒立ちの朗読のようなものとは対極的にステージをいっぱいに使っての活発で動的なひとり芝居なのです。それはとてもスリリング。

後になって、プログラムを読み返して驚きました。掲載されたインタビューのなかで、まさに河村はそのことを語っているのです。

「初めての楽譜を見た時の新鮮な発見や驚き、喜び、そして閃きをコンサートで出せるようにしなければいけません。お芝居をする人が、ずっとずっとセリフの練習をしてきて、本番では今ここで起こったかのように芝居をしなければならないのと同じように。」

最後は、構成力。

最後の第3番のソナタは、ショパンがそれまで苦手としてきた形式感とか堅固な構造性といった構成力を、枠にとらわれない自由さで克服し、曲全体にかえって統一感というべきものを獲得しています。死が迫るショパンの充実とはそういうことなのです。河村は、前から自分は構成力が苦手意識がある、それが課題だと口にしていました。その河村が素晴らしいショパンのソナタを聴かせてくれた。ステージをいっぱいに使ったお芝居として。その構成力はもはや誰にも劣らない、そう思いました。

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アンコールの曲を告げる前に、河村の不敵なまでの宣言がありました。

次のシーズンにはベートーヴェンに挑戦します。みなさん、楽しみにしていてください、と。

閃きの連鎖と情熱的なトランス状態が得意な河村にとっては、ベートーヴェンは元来苦手意識があったに違いないと思うのです。その河村が、退路を断つような宣戦布告を聴衆に告げたのです。やっぱり、ショパンは河村の成長の投影を映し出すスクリーンだったのだと、思わずニンマリしてしまいました。






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河村尚子 ショパン・プロジェクト(全4回)
第4回「晩年のショパン―幻想」

2016年11月12日(土) 16:00
茨城県水戸市 水戸芸術館コンサートホールATM
(座席: I列35番)

3つのマズルカ 作品59
即興曲 第4番 嬰ハ短調 作品66〈幻想即興曲〉
ポロネーズ 第7番 変イ長調 作品61〈幻想ポロネーズ〉

ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 作品58

(アンコール)
ワルツ 嬰ハ短調 作品64-2
子犬のワルツ 変ニ長調 作品64-1

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