The Wrecking Crew: The Inside Story of Rock and Roll's Best-kept Secret
レッキングクルーとは、スタジオミュージシャンたちのこと。特定のメンバーというものはなく、フィル・スペクターなど名プロデューサーたちに重用され60年代から70年代半ばまでの歴史に残る名曲、ビッグヒットの裏方をつとめた。彼らの名は当時は決してクレジットされることはなかったけれど、単にバックミュージシャンというだけではなく、カントリー、ロックからフォーク・ロックなど新しいサウンドやスタイルに積極的にかかわり創造力を発揮した真のプロフェッショナルたちだった。
本書は、そのメンバーたちの評伝であり、60年代から70年代のポップシーンの裏話集ということでもある。たまらなく面白い。
抜きん出たテクニックを持った腕利きのプロミュージシャンだっただけに、彼らには“影武者”的なイメージもつきまとう。
ビーチボーイズの「ペット・サウンド」は、ツアーから離れてハリウッドのスタジオにこもったブライアン・ウィルソンとレッキングクルーたちが作り上げたアルバムで、バンドの他のメンバーは参加していない。今ではコンセプト・アルバムの嚆矢としてロック/ポップ史上、不朽の名盤と評されるこのアルバムは、これに対抗したビートルズの「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」の影に隠れ商業的に不成功だった。このアルバムに文字通り心血を注いだブライアンは、これを気に病み精神的に不安定になっていく。(11. Good Vibrations)。
こうした、“代演”の暴露話は枚挙にいとまがない。
バーズが世に出ることとなった大ヒットは、ボブ・ディランの「ミスター・タンブリン・マン」のカバーだったが、録音に参加したのはジム・マッギンのみ(7. Mr.Tambourine Man)。オーディション寄せ集めのモンキーズの録音は、ボーカルのみで楽器を持つことは許されなかった(Let's Live for Today)。再起をはかるシナトラの「夜のストレンジャー」の録音では、お付きのピアニストは体よくピアノの前の席を譲らされた。
こうしたエピソードは、確かに当時の商業音楽の舞台裏を暴くものだけれど、バースのデビューは、フォーク・ロックという新しい潮流の出発となり、商業主義の犠牲者でもあったモンキーズは本格的なバンドへと脱皮しようとこの屈辱を晴らしていく。シナトラの「夜のストレンジャー」は、旧態依然たるクルーニーのスタイルを一変させ、スランプ脱出ところか彼の生涯最大のヒット曲となる(10. Strangers in the Night)。レッキングクルーとはまさにプロの流儀を貫くミュージシャンとしてアメリカのロック・ポップを支えてきた。
そのことは、本書に満載のメーキング○○的なエピソードからも伝わってくる。
サイモン&ガーファンクルの「明日にかける橋」は、まさにレッキングクルーのひとり、ラリー・ネクテルによるピアノとの共演とさえ言える。サイモンは彼に突然のように告げる。「ゴスペルにしたいんが」と。そして一瞬ためらった後に「ホワイトのゴスペルじゃなくて、ブラック・ゴスペルにね」と続ける。
白人主体のフォーク・ロックの音楽に黒人のゴスペルを持ち込むという斬新な音楽発想にネクテルはピアノの前で煩悶し格闘するが、ついにふたりのOKを勝ち取る(17. Bridge Over Troubled Water)。もしかしたらこのメガヒット誕生の秘話はよく知られた話しなのかもしれない。個人的に衝撃的だったのは、この話しに続く録音セッションの最後の場面のエピソードだ。
アート・ガーファンクルとネクテルの見事なデュオが完成し、そのプレイバックを聴いていたドラムスのハル・ブレインがサイモンに話しかける。「もう少し何かが欲しい。妙かもしれないけど、でもいまくいくと思うよ。」そこで持ち込まれたのがビブラフォン。伏線となったのは「ボクサー」収録時のパーカッションのサウンドだという。
これを読んで、この曲にバイブなんて入っていたかしらと古いレコードを引っ張り出してターンテーブルに乗せて聴いてみた。確かに入っている!それは意識しないと聞こえないが、確かにバイブの音でそのサウンドの得もしれぬ祈りの雰囲気は絶妙。曲が終わり余韻のようにかすかに後を引く音がそのバイブだと気がついて二度驚いた。サウンドの重層的な効果とはそういうものだったのか。
まさに、音楽の裏に隠されていたプロフェッショナルたちの流儀。
60年代から70年代のポップ・ロックのコアなファンばかりでなく、音楽が好きな人々に広く一読をお勧めしたい。
本書を紹介してくれたのは、池袋のジャズ・バー「モンゴメリーランド」で月一度の持ち寄り音楽鑑賞会を楽しんでいるお仲間のIさん。安上がりにしようと原書のペーパーバックに手を出してしまって読むのに時間がかかりましたが、もちろん邦訳があります。
レッキング・クルーのいい仕事
ロック・アンド・ロール黄金時代を支えた職人たち
ケント・ハートマン (著)、加瀬俊 (訳)
スペースシャワーネットワーク \2,940
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