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2016年06月29日11:37

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GRFさんへのメール

GRF様

先日は、H氏邸でのT-80 + WF試聴の機会をいただきありがとうございました。私にとってはなかなか実機を聴く機会がないばかりか、実験機から試作、改良という過程も追って聴くことは極めて稀な体験でしたのでほんとうに貴重な機会をいただいたと感謝しております。

まずH氏の隠れ家的リスニングルームに驚きを禁じ得ません。都会の喧噪のただなかでありながらマンションの地下の隔離されたスペースということで心おきなくオーディオを楽しめるというぜいたくで広大な空間にまず驚きました。部屋には38オープンデッキなどテープデッキが十数台、マグネパンやアポジーの平面型大型のスピーカーが置かれ、棚にはぎっしりと38マスターコピーテープやLPレコードが詰まっていますが、それらを片隅に追いやってのスペースなのですが、それでもリスニングルームとして十分すぎるほどの空間容量です。それらはH氏の大変なハイエンダーぶりを示すもので、そのことに圧倒される気分でした。

そのベテラン・ハイエンダーのH氏が、この新スピーカーの音に、満面の笑みをたたえて聴き入っておられるのです。CDP+DACはemm、アンプはSD05というGRFさんの名刺代わりのようなラインナップでしたね。部屋の横に重ねられたスペクトラルのアンプを見て、つい、ため息混じりに「こちらのアンプを何故使わないんですか」と聞いてしまいました。

お部屋はもともとは事務室を想定していたスペースなのですね。ユーティリティなどが加えられて居住スペースへと衣替えされてはいますが基本的にはすっぴんで、かなりライブな難しいルームアコースティックだと思いました。最初のマーラーを私が無言で聴いていたら、さっそくGRFさんが動かれましたね。いつものトントンです。するとどうでしょう。たちまち歪んでいた音場定位が整理されました。金管群が右に寄ってダンゴになり左にあるはずのホルン群が聞こえなかったのです。私自身は、その場の雰囲気に呑まれて言い出しかねていたのですがたちまち修正されました。その後、ウーファーの締め増しもされて微妙な低域ボケも解消されました。いつもながらとはいえ感心してしまいます。梅雨どきという季節もあるかもしれませんが、特に新しい機器はいくら正しくセッティングしたつもりでも、数日で動いてしまうのですね。

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聴き始めの印象はもっぱら低音の音質でした。やはりどうしても関心がそちらに行ってしまいます。低域がボトムエンドまでよく伸びていると感じました。最初は暗騒音と思った低域エンドのノイズが後になって建物の外の往来からかすかに混入してくる自動車の走行音だとわかりました。システムの優秀さを示す尺度のひとつが、《本当の現実音と区別がつかなくなる》リアリティだと思っているのですが、これは究極のリアリティでした。

実験機以来の関心は、やはり、DDDユニットと通常コーン型のウーファとのつながりということでしたが、この最終型は飛躍的に完成度が上がりましたね。上下のスピード感の違いとか、クロスオーバー部分の位相合成の違いなどがほぼ解消したということでしょう。フィンランドバーチの実験機では、チリチリというのでしょうかホワイトノイズ的な微小な附帯音が感じられましたが、それはキャビネット材質を本来のシナアピトンにしてさらに突き板や塗装などの仕上げで完全に無くなりました。

クラシックのオーケストラばかりではなく、ジャズも含めていろいろなジャンルをかけていくうちに何となく音の傾向が呑み込めていきます。《オーディオ》を聞かせるという次元をはるかに超えています。何といってもその音楽の実在感が素晴らしいと思いました。まさに実物大のピアノ、あるいは大編成の管弦楽でいっぱいのステージを目の前にする感覚です。時間とともに音もこなれてきてよく鳴るようになったのでしょうか。

ピレシュのモーツァルト/ファンタジーがかかった時には、体中が一瞬で目覚めるような気がしました。K397もこのK475も、「幻想曲」というものはちょっとモーツァルトらしさを超えたところがありますが、この音はいつものピレシュの飾り気のない素直な透明感に、シューベルトを連想させるようなよりシリアスさとか深みのあるどっしりとした音の重みがあって驚いたのです。DGのピアノ録音では聴いた憶えのないピアノの金属フレームが共振するキーンという微かな残音まで聞こえてこれまた驚きでした。Hさんが「実際にピアノを弾く音大生や愛好家に聴かせたら感激していた」と話されていましたが、さもありなんと思いました。

その後、GRFさんのお宅に連れていっていただき、まったく同じ構成で聴かせていただきましたが、これまたとても考え深いものがありました。事前には「装置は同じ機器だから同じ音がする筈なんだけど」と仰っていましたが、「やっぱり違う」と感じました。「うちのほうがちょっと地味なんだよなぁ」と漏らしたお言葉のほうが本当のお気持ちだったのですね。

私の率直な印象は、H氏邸とGRF邸とのちょうど真ん中あたりがいいなぁという感覚です。無責任な言い分ですが、H氏邸は低域の定在波でしょうかやや低域過剰でダブルベースの音域あたりに特定周波数の共鳴があります。フロアを這うような低音と言えば聞こえはいいのですが、低音が全てフロアに澱んでしまうのです。

GRF邸でショスタコーヴィチの15番を聴き直すと、コンセルトヘボウのステージひな壇のとおりコントラバスが上段にあってそこから低音が段伝いに下りてきます。低音は、コントラバスであれオルガンのペダルであれ、ふわりと柔らかくしかも定位が自然で芯がある。でも、その「正しい」ところが、ちょっと地味に映るというのかよそよそしいんですよね。これはやはり部屋のアコースティックの問題なのでしょう。あえて失礼を承知で単純化してしまうとH氏邸はブーミーで、GRF邸は吸音し過ぎということでしょうか。本当にすごいスピーカーというのは、どんなに一級のリスニングルームであってもその部屋の本質までもさらけ出してしまうのですね。このことを体感できたことだけでも大変貴重な体験をさせていただきました。

ワインまでご馳走になってしまいました。本格的なブルゴーニュの赤ワインをいただくのは久しぶりできれいな明るいクラレットとピノのすっとした立ち姿のよい味わいがとても美味しかったです。H氏邸の音が、ボルドー左岸のカベルネなら、やっぱりGRFさんの音はブルゴーニュ中域ボーヌあたりのピノが似合いますね。

ベルウッド 拝
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