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2015年05月21日07:27

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アンスネス ベートーヴェン・プロジェクト

素晴らしいベートーヴェンのピアノコンチェルトでした。

めずらしく夫婦ふたりで出かけたのは、アンスネスを聴いたことのない妻とマーラー・チェンバー・オーケストラ(MCO)を聴いたことのない私とで意見が一致したからです。

妻は、昨夏のルツェルンでこのオーケストラを聴いています。もともとは五嶋みどり目当てだったらしいのですがオーケストラもよかったとのこと。指揮は、ダニエル・ガッティ。私といえば、もともとアンスネスが好きで、風の便りに彼が近頃ベートーヴェンに取り組んでいて評判のようだからと言ったところ「じゃあ、行こう」ということになったのです。

オーケストラの面々が拍手の中を登場しチューニングを終えると、いよいよアンスネスが登場。ひげを生やしているので2階バルコニーからの遠目ではちょっと面変わりしていますがすらりとした長身はそのまま。立ち上がって手を振り下ろすとベートーヴェン最初のピアノ協奏曲(*)である第2番が始まります。

(*)厳密には、さらに前に番号なしの変ホ長調の協奏曲が書かれている。

何となく抱いていた期待とは違ってとても典雅なベートーヴェン。でも、その優雅で艶やかな音色に最初の違和感はすぐに吹き飛んでしまい、すぐに音楽に身を委ねてしまいました。この心地よいウィーンの宮廷音楽を想わせるモーツァルト的な長いオーケストラだけの第一部を終えると、ようやく90小節目にアンスネスのピアノが入ってきます。そのピアニッシモの美しいこと。特に第2楽章の終結近くに現れる「con gran espressione senza sordino」の美しさは格別。ウィーンの典雅さと北欧の透明な抒情がブレンドして、終始、美しいベートーヴェンでした。

随所で絡むオーボエが素晴らしい音色で、終演後、アンスネスが真っ先に立たせたのはオーボエ首席の吉井瑞穂。私は、彼女のことを宮本文昭引退後の水戸室内管の有力な後継者だと信じていたことがあります。確か2010年頃まで出演していたはずですが、その後は本格的にヨーロッパのほうに行ってしまい残念な思いをしていただけに、このような再会がとてもうれしく感じました。

次の第三番では、フルートがもう1本とトランペット2、ティンパニがさらに加わります。その最初のsfのトゥッティにもう目が醒める思い。古典的な典雅さに満ちた第2番から打って変わってベートヴェン的なハ短調、アレグロ・コンブリオの世界。しかも、その音色は、現代的なピリオド奏法ともいうべき直截なピュアサウンド。自然倍音の長いバルブなしのトランペットやバロックタイプの甲高いティンパニが加わっての様式の突然のような変異が素晴らしく、躍動と活気に満ちたベートーヴェンにほんとうに興奮させられました。しかも、弱音器をつけた弦楽器群の響きに包まれたアンスネスの内省的な抒情はほんとうに見事。第三番の書法におけるベートーヴェンの自我の確立、精神性の発露を示した快演でした。

フォト

MCOは、10−8−6−5−3と、水戸室内管や紀尾井シンフォニエッタ東京よりひとまわり大きい編成で、オペラシティの大ホールでベートーヴェンをやるには十分の音量。もともとは年齢制限つきのトレーニングオーケストラのマーラー・ユーゲント・オーケストラとしてアバドが立ち上げたオケですが、やがて、自発的に常設オーケストラへと発展したもの。各国から集まる音楽家の技量の高さと若いフレッシュな音楽性を併せもったオケ。中央に蓋なしのピアノの前に座るアンスネスとその音楽的解釈が完全に一体となったうえで音楽の息の揺らぎや、駆け引きを存分に楽しんだ上で、ベートーヴェンの書法や様式感の進化を変遷を示しているのは技量の高さがあってこそ、本当に魅力的でした。第二番ではむしろ高域を後ろにずらし中域を厚めに先行して響かせ典雅な響きを強調していたのに対して、第三番では高域が容赦なく頭から入るので輝くような躍動感があります。

ホルンの響きが素晴らしかったのは、休憩をはさんで最後に演奏された第四番。そのファンファーレ的な強奏の響きは胸がすくようで、ベートーヴェンが凝りに凝った書法を駆使したこの協奏曲を盛り上げてくれます。そういう音の厚みというようなものがとても素晴らしく、しかも重く澱まない。正直言って、レベルが高いと思っていた日本の室内オケもまだまだということを痛感させられます。

第二楽章で、厚みのある弦のたたみかけるような呼びかけを無視するかのように、ピアノは静かに美しく歌うのですが、この対話とは言えない応答が不思議なほどに胸を打ちました。アンスネスは、ここを弾き振りするのはとても難しいと言っていましたが、それは指揮者が居ても同じこと。この第二楽章から第三楽章への経過部での息の長い静謐な美しさは、ベームとポリーニの名盤を思わせますし、ここまでソリストとオケが一体となった音楽解釈は、ツィマーマンのショパン協奏曲の名盤を思い起こさせます。まさに「プロジェクト」。

アンスネスのピアノは決して奇をてらうことがない正攻法。第四番の冒頭もふつうに和音で弾いていましたし、カデンツァも最も一般的なものを使用。ところが細部までよく磨かれていて正統で、そのなかに美しく透明なタッチの情感の起伏がこめられています。そうした起伏や揺らぎ、全体的な音楽の流れやバランスがオーケストラと一体となって進行していく。そのことにとてつもない心地よさと感動を覚える演奏でした。








フォト

レイフ・オヴェ・アンスネス(指揮・ピアノ)
マーラー・チェンバー・オーケストラ

ベートーヴェン:
・ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 OP.19
・ピアノ協奏曲第3番 ハ短調 OP.37
・ピアノ協奏曲第4番 ト長調 OP.58

(アンコール)
・ベートーヴェン:11のバガテル OP.119−8
・ベートーヴェン:7つのバガテル OP.33−7
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