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2024年11月29日09:18

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ロッシーニ「ウィリアム・テル」(新国立劇場)

最初から最後まで、ロッシーニの音楽に圧倒されました。

音楽は実に濃密で多彩、音響の厚みと繊細の極み、その雄弁さは、もはや後期ロマン派に足を踏み入れているとさえ思えました。

あの有名な序曲はもうそれだけでも素晴らしいのですが、その先はまったくの未知の世界。欧米ですら上演の少ない演目で、日本でイタリア語オリジナル版が上演されるのは初とのこと。

しかも、およそ4時間の長丁場。大変な大作で、その内容の充実と多様性はまさに「グランド・オペラ」にふさわしい。

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ソロとごく楽器数を限った室内楽のように緻密な部分は、レシタティフ、エールの内面に迫る聴かせどころ。二重唱、三重唱、さらには合唱も加わると対位法技術の粋をこらした音楽が感情や心理的な交錯とせめぎ合い描き出す。合唱は、国民と軍政の集団的なせめぎ合いで圧倒的な壮大さで迫ってくる。バレエのシーンは、ドラマに一段と彩りを添えるとともに、深刻な音楽劇なのに、華やかで豪華な見せ場を与える。四幕の長丁場ですが、少しも緩むところがなく、一幕ごとに起承転結があって、最後はピットとステージがどんどんと音量を増していくロッシーニクレッシェンドが天を突くように駆け上がっていく。

サル・ル・ペルティエは、その後、今のガルニエ宮にその座を譲りますが、1800席を誇るヨーロッパ最大級の壮大な歌劇場。最高のベルカント歌手が一同に介するがごとく集められ、座付のバレエ団もあって、「王の作曲家」であるロッシーニに期待されたのが「グランド・オペラ」。「ギヨーム・テル」は、まさにロッシーニの頂点を成す傑作だと納得させられます。

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こんな大作を新制作で上演したのは、音楽監督としての大野和士の手腕そのもの。指揮者以上の大きな責務を見事なまでに果たしきった大野を真っ先に称賛したい。

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歌手陣も大がかり。タイトルロールのゲジム・ミシュケタは、歌唱の立派さに加えて容姿も演技も堂々としている。アルノルドのルネ・バルベラは突き抜けるような高音で第4幕の「先祖伝来の住処よ」で悲愴な決意を歌い上げた。マティルドのオルガ・ペレチャッコは、声量は大きくないが、ここぞという場面では実によく聴かせる。第2幕でのアルノルドとの二重唱、第4幕での三重唱などのアンサンブルも素晴らしい。

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ロッシーニのグランド・オペラは、ひとりやふたりのスターでは成り立たない。脇を固めた日本人歌手の層の厚さがあってこそ。なかでも、ジェミの安井陽子の活躍は特筆もの。主役陣をも食って仕舞いかねないほどの存在感。ズボン役というのか少年役としては貴重な存在の安井にとっても、このオペラはやりがいがあったに違いない。もちろん、妻屋秀和、齊藤純子、村上敏明ら、ベテランの安定感も欠かせない。これだけ大がかりなのに歌手陣に不足を感じさせない。

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バレエも素晴らしい。新国立劇場の誇るものは合唱団のみならず、このバレエ団。大活躍だったのは「グランド・オペラ」なればこそ。振付も、軍政の民衆に対する残虐、陵辱の蛮行を表現しながらも、決してグロテスクなものにはぜず、ドラマとして洗練されたもの。大いに称賛したい。

演出と舞台も、前半はどこか出し惜しみという印象があったが、後半は素晴らしかった。群衆の動かし方も、後半になってよく音楽と同調し雄弁だった。シンプルで動きの少なかった舞台展開も、プロジェクタ効果も駆使した後半に見所があった。多少とも不満が残ったのは、色彩感に乏しいこと。前半の群衆場面が煩瑣な印象を与えたのも、衣装面で民衆と軍警察の区別がつけにくかったことがある。大団円で、戦禍に晒された都市をモノクロで背景に映し出すのは、その気持ちもわからないではないが、やはり、最後は晴れ晴れとした青と緑にあふれるアルプスの山々が見たかった。

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東フィルも、ロッシーニの音楽の多彩さと厚みを出し切って大健闘。チェロ、フルート、ハープなどのソロもよく映えた。一番誉めたいのは、やはり、ロッシーニクレッシェンド。あそこまで息長く音量を上げ続けられるのは、欧米の歌劇場のオーケストラであってもそうそうはないと思う。最後の最後のフォルテッシモは、演奏会形式も超えていたかも知れないとさえ思いました。




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新国立劇場
ロッシーニ「ウィリアム・テル」
2024年11月20日 16:00
東京・初台 新国立劇場 オペラハウス
(2階1列13番)
(11/26 3階2列32番)

【指 揮】大野和士
【演出・美術・衣裳】ヤニス・コッコス
【アーティスティック・コラボレーター】アンヌ・ブランカール
【照 明】ヴィニチオ・ケリ
【映 像】エリック・デュラント
【振 付】ナタリー・ヴァン・パリス
【舞台監督】�盒蕎飴�

【ギヨーム・テル(ウィリアム・テル)】ゲジム・ミシュケタ
【アルノルド・メルクタール】ルネ・バルベラ
【ヴァルテル・フュルスト】須藤慎吾
【メルクタール】田中大揮
【ジェミ】安井陽子
【ジェスレル】妻屋秀和
【ロドルフ】村上敏明
【リュオディ】山本康寛
【ルートルド】成田博之
【マティルド】オルガ・ペレチャッコ
【エドヴィージュ】齊藤純子
【狩人】佐藤勝司

【合唱指揮】冨平恭平
【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

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