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2024年11月18日12:34

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狂気のチェロ (中木健二 無伴奏チェロ・リサイタル)

とても刺激的なソロリサイタルでした。

中木が最近リリースしたCDのいわばキャンペーンツアー。「狂気のチェロ」というのはそのCDのタイトルそのまま。プログラムやポスターの写真も、CDジャケットがそのまま使われています。

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無伴奏というのは、バッハの無伴奏ヴァイオリンを始め様々な楽器のために作曲されていて、楽器の音色や演奏技巧などがむき出しに聴き手に迫ってきます。その中でも、チェロは、帯域が広く音量もあって弓も長く多彩な技巧もあるので、無伴奏の王様という気さえします。意外に多くの作曲家が楽曲を提供している。

そこに大胆に踏み込んできたというべきプログラム。それを目の当たりにすることで、ほんとうにどきどきするほど刺激的なリサイタルだったのです。凄い!

「狂気」というのは、「フォリア(Folia)」のこと。

"虚しい、気が狂った、無分別な、頭が空っぽな"という意味のトスカーナ地方の言葉"folle"から生まれた。英語の"folly"と語源は同じ。

低音のコード進行が執拗に繰り返され、その反復がもたらす高揚感のなかで即興と変奏が繰り返される舞曲。フォリアは最も有名で、ポルトガルに起源を持ち、スパニッシュ・ギターのためのタブラチュア譜が広く流布し17世紀のヨーロッパを席巻する。スペイン、イタリア、オランダなど、それこそ狂気のように流行し、コレッリ、ヴィヴァルディなど、名だたる作曲家が取り上げています。

リサイタル・プログラム最初のバッハの無伴奏は、CDには含まれていません。ある意味で、リサイタルに足を運んでくれた人々へのプレゼントのようなもの。

けれども、中木のバッハは、歴史への深い敬意とともに、このプログラムへの前口上のような役割も果たしています。冒頭のプレリュードは、モダンチェロによるバッハとして実に正統・中庸で久々に聴き応えのある演奏。そこからスタートしながら続くアルマンドからどんどんと舞曲的性格と開放感を露わにしていきます。そういうバッハの舞踏的俗性に改めて気づかされていきます。

ガスパールは、スペイン・カタルーニャ出身の20世紀のチェリスト。バッハと同じくプレリュードで同じ拍節の連続から無我の幻想世界に誘われ、そこからスペインの地方色が紛々と薫り立つ伝統舞曲との交錯により理性を失っていく。終曲のフラメンコは、夜を徹して踊り狂う狂気のクライマックス。

黛敏郎の曲で、個人的に一番好きなのは「BUGAKU(舞楽)」ですが、無伴奏チェロのための「BUNRAKI(文楽)」は、初めて聴きました。どちらも和楽器の色彩や和声、音律を巧みに西洋楽器に移し替えたものですが、この「BUNRAKU」も太棹三味線と義太夫節の肉声を無伴奏チェロの技巧で聴かせるもの。義太夫節の狂乱とその横で顔色ひとつ変えない三味線方の冷徹な拍節との対比を見事に聴かせてくれました。

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休憩後は、いよいよ「フォリア」。マラン・マレーの二曲だけ。

それだけで後半が成立するのかとさえ思いましたが、あに図らんや、実に内容の濃いものとなりました。マラン・マレーはフランスのヴィオールの名手。「スペインのフォリア」は、一連のフォリアものでも有名な曲のひとつで、フルート独奏などがよく聴かれますが、もともとがヴィオールと通奏低音のために作曲されていますのでむしろチェロで弾かれるのがぴったり。それをまったくの無伴奏チェロでやってのける――凄い、凄すぎる!…という以外に言葉が出ません。

アンコールで弾いたリゲティも、CDに収納された楽曲ですが、これもちょっとした聴きものでした。

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会場のリサイタルホールは、ほんとうに久しぶり。

確か松尾葉子さんの指揮による室内オーケストラでプーランクを聴きました。もう20年以上も前、オペラシティがオープンして間もない頃。なかなか気づきにくい場所にありますが、改めて聴いてみると、とてもよい。パイプ椅子を並べても300席に満たない小さな平土間のホールですが、天井も高く壁面がしっかりしていて、響きが心地よく残響反射がとてもクリーン。室内楽には持ってこいのホール。これはめっけもんだと思いました。

中木健二の新境地ともいうべき世界で、無伴奏チェロの魅力を存分に味わえた素晴らしいリサイタルでした。






狂気のチェロ
無伴奏チェロ・リサイタル
中木健二

2024年11月15日(金)19:00
東京オペラシティ リサイタルホール
(自由席/3列目中央左手 )

J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番 ト長調 BWV1007
ガスパール・カサド: 無伴奏チェロ組曲
黛 敏郎: BUNRAKU 〜独奏チェロのための〜(1960)
マラン・マレ:ラ・フォリア(中木健二 編曲)
人々の声「ヴィオール曲集 第2巻」より

(アンコール)
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第5番 より「サラバンド」
リゲティ:無伴奏チェロ・ソナタより「第2楽章」



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J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調 BWV1007
カサド:無伴奏チェロ組曲
黛敏郎:BUNRAKU 〜独奏チェロのための〜(1960)
マラン・マレ:
ラ・フォリア(中木健二 編曲)
人々の声「ヴィオール曲集 第2巻」より
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