ピアニストのアリス・紗良・オットが難病の多発性硬化症と診断されたことを明らかにしたという。
水泳の池江璃花子の白血病と相次ぐショッキングなニュースだ。
実は、つい最近、オットのコンサートのライブ録音を聴いて、改めてこのピアニストをもっとフォローしてみればよかった、もっと聴いてみたいと思ったやさきに飛び込んできたニュースだった。
オットは、ちょうど10年前に井上道義指揮アンサンブル金沢の全国ツアーが横浜のみなとみらいにやって来た時に聴いた。華やかな「皇帝」はいかにも若い美人ピアニストらしい演奏だった。アンコールに弾いたのが、当時の彼女の得意のアンコールピースだった「ラ・カンパネラ」。少し指がさらさらと流れるなぁ…と思っていたら、後ろの席のおばさんがひそひそ話が耳に入った。「ずいぶんと音を飛ばすわねぇ」ピアニストというのは怖い。会場にはこういうかつてのピアノ学習者がわんさと押しかけるのだろう。容赦ない言葉が行き交う。大曲の後のアンコールは、どうしても演奏が粗くなる。
それで気分が削がれた。井上の長口舌もちょっと心象を害した。その後のオットの活躍を見ても美人だからちやほやされるだけ、ほんとうの実力はどれほどのものだろう…と、冷やかだった。その後、多少はTVなどで見かけることはあっても、やはり、アンコールに疲れから来るような粗さが気になる。そのことがずっと引きずっていた。ひょっとして、このピアニストは演奏面でどうしてもスタミナ切れするようなひとなのではないかと感じていたのだ。
ところが、久しぶりにFM放送のエアチェック音源を、ずっと通して聴いていて心から敬服もし感動した。この録音は、昨年9月に東京オペラシティコンサートホールで収録されたもの。
ドビュッシーとショパン、そしてサティとフランスものの小曲をいくつも紡いでいく。そしてその最後のラヴェルの「夜のガスパール」が見事だった。ずっと、いつかスタミナが切れるのではないかとハラハラしながら聴いているところがあったのだけれど、それは「スカルボ」で完全に払拭された。アンコールの「亡き王女のためのパヴァーヌ」こそ、疲れのようなものを感じたけれど、それはアンニュイな楽想とさして違和感はなかった。
これで、がぜん、今さらながらのオットへの敬愛が戻ってきた。
…その矢先に…
ぜひ病を克服して乗り越えていって欲しいと願うばかりで、ずっと静かに見守っていくしかない。
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