再入門とあるが、決して科学的でも技術的な実用書ではない。
著者は、元コンピューターエンジニアだそうでアナログを中心としたオーディオに長い経験があり、インターネットの音楽配信に関わってきてデジタルオーディオにも造詣が深く、LPやカセット、オープンリールなどアナログ音源のデジタル化やオーディオ相談を行う《ウインドラボ》を主宰する。
だから、こちらもついテクニカルな内容を期待したが、いきなり「オーディオは哲学です」(パート1)ときた。
実際のところ『無意識は極めてアナログ的』だとか『音楽を聴くというのは無意識的行為』だとか、言っていることは多分に哲学というより情緒的。そもそも哲学というのは、自然科学を包含していて文学ではない。博士号の“PhD”というのは、“Doctor of Philosophy”(=哲学博士)というのであって自然科学系全般の学位である。ニュートンもライプニッツも、物理学者や数学者である前に哲学者だった。
デジタルオーディオやPCオーディオにも多くの紙数をさいているが、残念ながら内容やその問題意識はやや古い。巻末には「実践!オーディオPC構築術」というオーディオPCの製作について具体的な記事があるが、この世界は日進月歩。本著は10年前であり、その後、再生ソフトは著しく進化しておりネットワーク技術抜きにはオーディオは語れなくなっている。
とはいえ、アマチュアオーディオにとっての様々な疑問や興味はかなり網羅していて、その主張や解説そのものの是非はともかく、いろいろなテーマの頭出しとしてはよい。以下はそのほんの一部だけれど、なるほどこういうことだったのだなといろいろ気づかせてくれる。
■ハイエンドノートPCは、ノイズ対策(EMC対策)が徹底しておりデスクトップより音がよい
■再生にはレーテンシーはあまり関係がない(ノイズやCPUの使用可能度のほうがよく効く)
■オーディオPCでは電源が要注意(電源容量は常時使用W数の倍以上は必要)
■人によって聴いているところが違う
・位相に敏感な人
・音数=情報量に敏感な人
・特定の音だけを聴いている人
・音圧に敏感な人
・ステージとしての広がりに重きを置く人
■オーディオコンポーネントの最初は「人」
最初のコンポーネントは「人」。実は、この影響が一番大きい。
・空気感(プレゼンス)を体感したい人
・モノフォニックな音色を好む人
・二次元的な空間を好む人
・ホログラフィックな音響空間を好む人
・重箱の隅が気になる人
(音楽ジャンル別分類)
・クラシックのフルオーケストラが好きな人
・JAZZを聴く人
・フュージョンな人
■オーディオは「楽器を巧みに操ることのできないことへの代償行為」
・オーディオとは、楽器を繰れる人にはあまり必要ない
・オーディオ機器を作るとは、楽器がうまく繰れないことの代償行為
・オーディオ機器を買って聴き入るとは、演奏できない自分への代償行為
■狭い部屋では残響時間は短い(1秒前後)ほうが有利。大きな部屋は長い(1.5秒〜2秒)ほうが有利
■できればさけたいACタップ
タップというのは次善の策。壁コンセントを無メッキのホスピタルグレードのものに換えて、そこから直接取るほうが良いに決まっている
■家庭でのリスニング用に向くセッティング
大型のスピーカーをそれえるのは勧めない
危険をわかって冬山に挑む人は少ないが、趣味(オーディオ)に限って言えばその無茶な山登りをしたがる人は少なくない
■3点設置・4点設置
3点支持は機器が複雑な微振動をしやすく、CDプレーヤーなどの可動部分がある機器やスピーカーなどには向かない
などなど。
「ホログラフィックな音響空間」については、『ホログラフィックな音場が、ミキシングエンジニアが意図したものであるかどうかは何ともいえないのがご愛嬌』『あくまでのその人のその場限りのホログラフィックな音場なのです』といささか辛辣。これはちょっと心当たりのあることがあったので思わず苦笑してしまいました。
ということで、「原点回帰」「再入門」と題するものの、オーディオにまつわる神学論争のタネは尽きまじというところで、本書はそのタネまきに事欠かない。それもまたオーディオの楽しみということだと思う。
原点回帰 オーディオセッティング再入門
〜アナログからオーディオPCまで、あなたの常識は通用しない?〜
著・佐藤浩義
技術評論社
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