すっかり間が空いてしまいましたが、台湾旅行記の続きです。
あわただしい私たちの旅行ですが、そこかしこで台湾人の優しさ、上品で慎み深く、礼儀正しい振る舞いに出会い、心が和みました。
新幹線(高鐵)に乗った時のことです。
台北駅で乗車すると、通路を隔てた反対側に父子の二人がやってきました。手には台湾人が好きなタピオカミルクティーの大きなカップ。それを引き出した小さなテーブルに乗せます。ああ、危なっかしいなぁと思って見ていると、荷物を網棚に乗せようとしたとたんに引っ掛けで盛大に床にぶちまけてしまいました。
床にこぼれ出たミルクティーはみるみるうちに床に広がっていきます。このお父さんは、周囲の席に床に置いた荷物を取り上げたり、足を上げたりするように注意して回ります。それから何とか手持ちの紙を取り出しますが、床にこぼれたミルクティーは量が多くてどうにもなりません。
慌ててどこかへ行ってしまったと思う間もなく、清掃のおばさんを連れてきました。おばさんはどっさりと紙タオルのロールを抱えていて、手際よく床を拭いていきます。なにしろ特大のカップなのでこぼれた量は半端ではありません。それでもおばさんはせっせと拭き上げていきます。
ともかく、ようやく一段落。ほっとひと息ついたお父さんは、改めて周囲の席を回って頭を下げて謝罪。ぺこぺことお辞儀して迷惑をかけたとひとりひとり謝っていました。
実は、この間、誰も大声を出したり、ましてや、声を荒げるようなことは一切ありませんでした。車内は喧噪とは無縁の静かさ。最後に謝られた人々も静かに微笑んでいるだけ。
おそらく大陸では、こんなことでは済まないでしょう。様子を眺めていた私も初めは大騒ぎになるものと覚悟していたのです。ところが台湾は同じ中国人なのにまったく違います。
台湾人は、本当に上品で礼儀正しく律儀です。そのことは駅や街を歩いていてもよくわかります。通りで鉢合わせになると、人々は律儀に必ず右によけます。もはや右側歩行の原則が崩れてしまった日本とは大違い。ましてや、各種の行列や順番待ちでも静かで秩序があって割り込みなどの不正はまったく見かけたことがありません。
阿里山の御来光見物は、早朝、まだ暗いうちから森林鉄道に乗って祝山の展望台に行きます。あらかじめホテルに頼んで切符は前日のうちに入手しているのですが、電車は満員です。まるで東京の通勤電車なみの混雑でよほど早いうちに並んでいないと席にはすわれません。
ところが座っていた若いカップルが、目の前の子供に声をかけて、席を替わってあげるから座りなさいと促します。親は礼を言って子供に話しかけると、子供は「だいじょうぶ」とかぶりをふる。親は、再び丁重に礼を言って辞退します。こういうやり取りにも感心させられました。実際、子供のしつけもよく、席をねだることなどは一切ありません。ましてや泣いたり騒いだりすることもなく、こんな押し合いへし合いのなかでもじっと耐えて立ち続けているのです。まだ暗い早朝から観光地での満員電車ですが不思議とすがすがしい気分です。
山頂近くの祝山駅に到着。でもまだ御来光までには1時間以上あります。御来光を拝む場所取りでごったがえするのではと思いましたが、これもまた意外にのんびりしています。最初こそ、展望台最前列の場所に押し寄せて手すりに取り付いていましたが、時間がまだまだあるので付近を散歩したり、屋台で買い食いしたり、三々五々に人それぞれ。
そのうち立って演説のようなことをするおじさんが現れて、そこに人々が群がって時折どっと笑ったりはやし立てたりしています。そういうおじさんが何人かいて、人だかりもいくつか出来上がっています。何を言っているのかはわかりませんが、案内半分、漫談半分で人々を沸かせて御来光までの適当な時間つぶし。ボランティアのようです。これもまた、何とも台湾ならではの風景だと思いました。
雲海から顔を出している山々の端が次第に明るくなってきました。
いよいよ御来光です。
180度全開のパノラマに神々しいまでの日の出の光が満ちていきます。たくさんの人々が集まっていて、最前列の手すりはもちろん満員ですが、みんながみんなそこに先を争うように殺到するというわけではないのは、そういう御来光の瞬間も同じです。みんな和気藹々、一緒にそういうすがすがしい朝陽を浴びてともに幸せな時間を分かち合う。そういう優しい台湾人の気質を日の出の光を浴びながら爽やかに感じてしまいました。
再び元の阿里山駅に戻ってきた時は、すっかり日は昇っていました。
山頂はけっこう寒かったのでそれなりに着込んでいますが、誰もがほんのりとした暖かい笑顔を浮かべているのがとても印象的でした。
(続く)
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