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2016年11月01日14:58

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プレイエルで聴くショパン 〜横山幸雄・趙静デュオリサイタル

北区王子の北とぴあ国際音楽祭は、バロック・ヴァイオリン奏者の寺神戸亮さんが中心となって、こうしたバロック時代やモーツァルトの歌劇や音楽をピリオド楽器を使用した古楽アンサンブルで上演するというユニークな催しです。

今年は、ピアノの銘器ともいうべきプレイエルで聴くショパンというコンサートに足を運んでみました。

フォト

このプレイエルは、上野学園所蔵の1910年製のヴィンテージ・ピアノ。このピアノとの鮮烈な出会いは昨年のアレクサンドル・メルニコフによるドビュッシーでした。
(写真はその時、石橋メモリアルホールで撮影したもの)

プレイエルは、タッチも軽くストロークも浅い。その分、遊びが少なく、音に影響を与える可動領域が狭いので音色のコントロールの自由度が増す一方で、その分、神経質なまでに繊細な技巧を要する。はるかに高性能なはずの現代ピアノの音のほうがかえって単調に聞こえてしまう。あの時は、そういうヴィンテージ楽器にことのほかこだわりのあるメルニコフの音色のサプライズに酔い、改めてドビュッシーの音色や和声の前衛性に肌に粟立つ思いがしたのです。

これに較べて、やはりこの楽器をこよなく愛したショパンはどうなのか。

ショパンコンクールの入賞者でありショパンの連続演奏でギネスブックの世界記録を持つほどショパンの権威である横山幸雄がプレイエルで弾くショパンはどうなのか、あるいは気鋭の若手・趙靜(チョウ・チン)のチェロとのアンサンブルはどうなのか。興味が尽きないデュオ・リサイタルなのです。

聴いてみると、この1910年製のプレイエルはこの大きな公会堂ホールであっても十分な音量と響きを持っていることにあらためて納得がいきます。独特の音色感と雅なソノリティは感じますが、メルニコフの時のようにいきなりのサプライズはありませんでした。かえって1900年前後のNYスタインウェイのほうが音色の個性が豊かです。こうしたことは調律での音色チューニングでも変わってくることかもしれません。

横山のショパンはちょっと弾き急ぐようなところがあります。

やはりギネスブックの記録保持者なのでしょうか。さらさらと流れるように速めのテンポで弾いていきます。曲間であっても拍手への答礼が済むと、客席のざわめきが収まっていなくてもほんの一瞬の呼吸だけで次の曲を弾き出す。ショパンの陰影に満ちたロマンチシズムが感じにくい。バラードの持つ情感が激しく揺れ動くような独白のような物語性に不足を感じてしまうのです。

伴奏の立場はとてもよくわきまえていて、趙靜の情熱的なロマンチシズムを前面に押し出しピアノはあくまでも寄り添うように一歩下がった位置を保ちます。プレイエルの気品のある響きが趙靜の濃いめの音色をよく際立たせている。でも、それだけに丁々発止のデュオへの期待は裏切られてしまうところがあります。

ところが後半になると、プレイエルの詩的な音色、夢想するような、それでいてとても都会的でまさにパリのベルエポックの洗練された口語体の詩文のような叙情性があふれてきます。メルニコフの前衛のような峻烈さとは、むしろ対極的と言えるほどのプレイエルの美しさの別の側面を聴く思いがします。

最後のソナタはほんとうに見事でした。

趙靜が「チェリストにとって大事なレパートリーのひとつ」と言っていましたが、「ピアノの詩人」というショパンの数々のピアノの名曲に埋もれていまひとつ聴かれていないのですが、こうして聴いてみると、ショパンが晩年期に入る直前、パリのサロンの洗練された晴れ晴れしさとと忍び寄る死の憂鬱に満ちた影が交錯する起伏と色彩に富んだ名曲です。それがプレイエルと趙のモンターニャの濃艶な音色とよくマッチして一段と情感の深さを奏でてくれました。

ホールはほぼ満員です。王子のローカルな雰囲気もありながらこれだけの人々が集まったのは、横山や趙の人気ばかりではなく、やはり高度成長期に急速に普及していったピアノとその学習者にとってのショパンの人気の高さなんだろうと思いました。それが、親子二代、三代と受け継がれつつある日本の音楽文化の裾野の広さを、その賑わいのなかに感じさせるリサイタルでした。







フォト

北とぴあ国際音楽祭2016
プレイエルで聴くショパン 〜横山幸雄・趙静デュオリサイタル
2016年10月28日(金) 19:00
東京・王子 北とぴあ/さくらホール

ショパン:
序奏と華麗なるポロネーズ ハ長調 作品3
ノクターン第1番 変ロ短調 作品9-1
バラード第1番 ト短調 作品23
幻想即興曲 嬰ハ短調 作品66
スケルツォ第2番 変ロ短調 作品31
   休 憩
バラード第4番 ヘ短調 作品52
チェロ・ソナタ ト短調 作品65
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