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2016年06月23日17:59

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千変万化の弦の響きを聴く 紀尾井シンフォニエッタ東京定期演奏会

紀尾井シンフォニエッタ東京は、来シーズンから新たなスタートを切ります。従来は、9月−6月という年をまたがるシーズンとなっていましたが、来期は4月スタートの「年度」に沿ったシーズン制に移行するとともに、名称も「紀尾井ホールホール室内管弦楽団」に改称されることになります。今回の定期演奏会は、紀尾井シンフォニエッタ東京(KST)としては最後の演奏会というわけです。

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そういう最後を飾る演奏会なのに、その装いはとても地味。何しろ指揮者を置かず、しかも編成は弦楽器メンバーのみの弦楽オーケストラ。けれどもその内容はとても濃密で、今後の新たな展開への期待がいよいよ高まるような大変な名演でした。

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オーケストラの響きとか性格は、コンサートマスターによって千変万化するもの。この夜のコンサートマスターは、アントン・バラホフスキーさん。名門バイエルン放送響のコンサートマスターを勤めるロシア生まれのひとですが、指揮者がいないということもあってか、この夜のKSTの音楽はまさに全面的にバラホフスキーさんがリードしたもの。まさにバラホフスキー色に染め上げられたプログラムであり、演奏だったのだと思います。

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というのもの二曲目に演奏されたアルヴォ・ペルト「タブラ・ラサ」では、ゲストとして招かれたリュドミラ・ミンニバエヴァさんと二人でソロを弾いたのですが、実はこのお二人はご夫婦。しかも、2013年にハンブルク州立歌劇場バレエでこの曲をソリストとして共演、今年も再演されたとか。ミンニエヴァさんは、他の曲では第二ヴァイオリンの首席に座っていてバラホフスキーさんのリードを直接サポートされてもいたのです。

その「タブラ・ラサ」が圧巻とも言える演奏でした。

恐らくKSTの20年の歴史のなかでもアルヴォ・ペルトを取り上げるのは初めて。待望ともいえるプログラムなのです。エストニア出身のペルトは、ごく短い音素やフレーズの果てしない反復によるミニマル風の独特の書法で知られ、作曲者自身がそれを“ティンナブリ様式(鈴ならし様式)と呼んでいます。「タブラ・ラサ」は、その典型的な“ティンナブリ様式”の作品で、同じような小さな断片を微妙に変化させながら延々と続けていくというもの。時おりプリペアド・ピアノが鐘のような響きで闖入するだけで、ともすれば集中力を失ってしまいかねない音楽ですが、驚くほどの集中力である種の緊張を持続し続け見事でした。演奏が終わると客席からは驚きの声ともつかぬため息があがり、休憩時間も小声でささやかられる感想はいずれも絶賛の言葉ばかりでした。

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お二人のソロももちろん見事でしたが、背景となる弦楽オーケストラから聞こえてくるチェロの音色にもつくづく聴き惚れてしまいました。そのチェロのソリスト中木健二さんは、昨年のアナ・チュマチェンコさんとの室内アンサンブルで初めて注目したチェリストですが、その1760年製ヨーゼフ・グァルネリからほんとうに優美で美しい音色を引き出しています。

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そのことは一曲目のブリッジ「弦楽のための組曲」でも同じ。この曲を聴くのは初めてでしたが、ブリッジは弦楽オーケストラ曲の宝庫であるイギリス20世紀音楽の始祖のようなひとでブリテンの師としても広く知られています。とても繊細でありながら、古典的な様式感と良識に満ちた響きと佇まいの曲。その第3曲「夜想曲」は、瞑想のなかで彷徨う意識を映すような内面的な楽想ですが、そのなかでのヴィオラと奏でるチェロのソロが本当に美しかったのです。

こうして弦楽アンサンブルだけで聴いてみると、KSTの美質がよくわかります。同じ名人集団ですが仲良しクラブ的になりがちな水戸室内管に較べると、KSTはおそらくリハーサルの厳しさと充実で一日の長があって、細部にまで行き渡った統一感と緻密な音楽表現で優ります。この日は、指揮者なしということもあってコンサートマスターのリーダーシップによるトレーニングと意識統一がその分徹底し、フレーズのアーク状の強弱とか、フレーズの頭の入り方や、末尾の消え入り方などのディーテールが実によく磨き込めれていたと感じるのです。

そのことは、最後のドヴォルザークで痛感しました。

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今まで聴いたなかで最高の「弦楽セレナーデ」。演奏が始まってすぐに頭のなかを去来したのは、一昨年、川崎ミューザで聴いたバイエルン放送響の演奏。「展覧会の絵」やツィメルマンとのショパンよりも印象深かったのがアンコールの「スラブ舞曲」でした。ほんとうにスラブ音楽が巧いと舌を巻くほどの歌にあふれた演奏。記録がないのではっきりしませんが、あの時のコンサートマスターはバラホフスキーさんに間違いない。そう思えてきました。バラホフスキー色に染め上げられた…というのはまさにそういうことなのです。

それはアンコールのマスカーニでも同じ。いかにもイタリアらしい歌心に満ちた美しい「間奏曲」に思わず涙がこみ上げてきましたが、その時に思ったのはトスカニーニが弦楽パートにくり返し叫んだという「もっと細かく、速いヴィヴラートを!」です。それが、このアンコールピースではほんとうに見事に実現していました。

紀尾井ホール室内管弦楽団としての新体制は、やはりウィーン・フィルのコンサートマスターであるライナー・ホーネックさんを首席指揮者に迎えます。この夜の演奏でこのオーケストラの弦楽アンサンブルは、日本一のものだと確信しました。もともとが澤和樹さんら澤カルテットのメンバーが中心となって発足した団体です。その日本一の弦パートは、新体制でもさらなる充実をはかるということなのでしょう。一方で、懸案と思えるのが、管楽器パート、リズムセクションの革新と飛躍です。ホーネックさんの人脈などで、素晴らしいゲストプレーヤーやヨーロッパ本場で活躍する若手を呼び込んでいただければと願うばかりです。





紀尾井シンフォニエッタ東京第105回定期演奏会
    ときめき・愁い・神秘… 千変万化の弦の響きを聴く

2016年6月17日(金) 19:00

リーダー(指揮者なし) アントン・バラホフスキー(ヴァイオリン)

ブリッジ 「弦楽のための組曲」
ペルト タブラ・ラサ
ドヴォルザーク 「弦楽セレナーデ」ホ長調Op.22

(アンコール)
マスカーニ:歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より間奏曲

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