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2015年03月17日23:27

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河村尚子 「思い出のショパン 〜 師・クライネフに捧ぐ」

3月11日は、常磐自動車道を高速バスでひた走って水戸に向かった。先日1日に工事が中断していた福島県内が開通し、この夏には半世紀かけたこの自動車道も全線開通予定というところまでこぎつけた。開通が遅れたのはもちろん震災と原発事故のせいで、開通した路線の一部には高線量区間があるという。

河村尚子は、あの震災の時には彼女の本拠地ドイツ・ハノーファーに居たという。震災の惨状と原発事故の報に接してパニック状態に陥った。3月下旬には日本でのツアーを控えていて周囲は放射線汚染を心配してキャンセルを薦めたという。そんな河村を励ましたのが師・クライネフだった。ウクライナのハリコフ音楽学校で学んだ経験のある師は、チェルノブイリ事故直後に、そのウクライナのキエフでのコンサートを敢行した自らの体験を語って日本の人々の心に寄り添いキャンセルには慎重であれとのアドバイスを授けたともいう。

ウラジミール・クライネフは、第4回チャイコフスキー・コンクールの覇者。モスクワ音楽院で、ネイガウス父子の教えを受けたロシアピアニズム本流のピアニスト。比較的早くに演奏者としての現役から退き、しかも、あの震災の年に60台半ばで急死したこともあって知名度は低いが優れた教育者であった。河村は、まさに、ギレリスやリヒテルの系譜に連なるということになるが、もともとショパンが好きだったという河村にはクライネフから受けた文字通り全人格的な薫陶をベースに彼女自身の思い入れが強い独特のショパンの世界がある。

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このシリーズはレクチャーコンサートの形をとっているが、前回にも増して河村のそういうプライバシーの思いが強いリサイタル。

プログラムの構成は、プログラムに寄せた広瀬大介氏の読み応えのある解説にもあるようにショパンの作曲年代を俯瞰するような形になっている。第二部のショパンのコンチェルトを予感させるかのように若き日の《華麗なる変奏曲》を劈頭に置き、孤独と憂愁に満ちた《マズルカ》《ノクターン》《舟歌》を前半の中心に据えて、《ワルツ》と《英雄ポロネーズ》の華やかで英雄的な2作品で締めくくるというもの。

《華麗なる変奏曲 作品12》は、歌謡的な旋律が浮かび上がるようなアルペジオの活発な音色が河村らしい右手の技巧が活きた。

師クライネフの思い出を熱く語った感情の高ぶりそのままに演奏されたイ短調の《マズルカ》、変ニ長調の《ノクターン》の沈潜していく追憶の内向性は河村らしいロマンチシズムに満ちていて、特に、このブロック最後に奏されたあの嬰ヘ長調の《バッカローレ(舟歌》はほんとうに愁いに満ちたもの。執拗に、静かに、たゆたうように、しかもくっきりと刻まれる左手の舟歌のリズムは、河村のショパンが独自の世界へと入りつつあることを示していて見事だった。

変イ長調の《ワルツ》と、さらにひと息入れてから奏された《英雄ポロネーズ》に込められた河村の気迫も見事だが、こういう強い打鍵と幅の大きな飛躍には硬質なものがつきまといがちで単品の小曲に凝縮されたドラマチックな表現に少々不満が残るのは河村の今後の課題か。

後半の室内楽版ショパンは、華麗で、若い憂愁もあって美しかった。

今年は、河村にとって日本デビュー10周年の大きな節目だそうだ。そのデビューは、小林研一郎が指揮する東フィルとの共演でこのショパンの協奏曲。ここでも河村の私的な思い入れが強い。小林の指揮はフェデセーエフの急病による代演だったとのエピソードも披瀝してくれた。

さて…

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室内楽版の際立つ美しさを教えてくれたのは、このCD。録音も極めてなまめかしく寂しげな色彩感があでやかで見事。ショパンというのは日本人演奏家にとってもとても私的なものなのだろうか。河村が子供の頃から愛していてクライネフの思い出に捧げる気持ちもよくわかる。

特別に出演したクァルテット・エクセルシオの演奏も、そういうショパンのピアノに寄り添う淡麗な響きが素晴らしかった。配置は弦楽四重奏としては珍しい、Vn�機■孱瓠■孱磧■孱遶兇畔造屬い錣罎詢祥秣亳�型。エクセルシオは普段は一般的な配置のようなので、この日はコンチェルトの室内楽版ということを意識した配置だったのだろう。アンサンブルにもよい結果を生んでいたと思う。

あくまでも四重奏は、ピアノの華麗なヴィルトゥオーゾ性をひきたてる「伴奏」であり、音色やフレーズの補完という役割となる。そのことで、打弦楽器のピアノの技巧とソノリティがいっそう美しく際立ってくる。室内楽版というの後年の編曲ではなく、ショパンがそのように演奏も可能なように書いていたもの。それが、当時、一世を風靡したフンメルやカルグブレンナーら作曲家兼ピアニストらの「ヴィルトゥオーゾ風の協奏曲」に学んだ様式で古典派やロマン派の大協奏曲とは別のものであることは、プログラムで広瀬氏が指摘している。そのことを如実に示したのは、ツィメルマンのプロジェクトとその成果としてのCDだったが、室内楽版というのはそのことをより直截に示している。

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さて、河村のショパン・プロジェクトも来シーズンはいよいよ後半。ふたつのソナタを中心に絶対音楽作曲家としてのショパン像をどう示すのか。さらに期待が高まる。第3回は、祝日にあたる2月11日の予定だそうだ。東京からの遠征組としては平日ではなく休日の開催はありがたい。







河村尚子 ショパン・プロジェクト第2回
「思い出のショパン 〜 師・クライネフに捧ぐ」

河村尚子(ピアノ)
クァルテット・エクセルシオ

フリデリック・フランチシェク・ショパン

華麗なる変奏曲 変ロ長調 作品12
マズルカ イ短調 作品17の4
ノクターン 変ニ長調 作品27の2
舟歌 嬰ヘ長調 作品60
ワルツ 変イ長調 作品42
ポロネーズ 第6番 変イ長調 作品53 〈英雄〉

ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 作品21(ピアノ五重奏版)

(アンコール)
ピアノ協奏曲第2番「第3楽章」より
ノクターン 嬰ハ短調 遺作 〈レント・コン・グラン・エスプレッシオーネ〉

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