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2018年07月24日13:53

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ゼンパーオーパーのドン・ジョヴァンニ (ドイツ音楽三昧 その11)

日中は、歩き続けていたので疲れているはずですが、それがかえって時差ぼけ解消に役立つというのが音楽旅行のノウハウです。夜になると天候は雨模様に。時折、激しい降りになりますが降ったりやんだりの驟雨。幸い、劇場への行き帰りには傘も差さずに歩けましたが、休憩時の激しい雨にはちょっとたじろいでしまったほど。

二日目のゼンパーオーパーは、モーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」。

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座席は中央バルコニー席。いわゆるロイヤルシートです。

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とはいえ、外観はともかく実際のところはリファービッシュされていてごく一般的なバルコニー席になっています。恐らく再建時にそういう風にリデザインされたのだと思います。しかもこういう席にはつきものの天蓋がないので音響的にもとても良い。左右のバルコニー席も天蓋がとても高いので、他の古い劇場のような響きに乏しい窮屈なサウンドは避けられているようです。

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私たちの席は、最後列の3列目でしたが1階席と同じような固定席で階段状になっているためビューもとても良い。一階席が取れなかったために仕方なく選んだ席でしたが、座席表だけではわからない、経験してみて初めてわかるこの劇場の特等席でした。


演出はモダン。

前日のやや中途半端だった「カルメン」の演出や舞台と違って、かなり大胆なシチュエーションの置き換えが行われています。

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亡霊が登場する不気味な響きと恋が交錯する軽快なアレグロが交替する序曲が終わると、そこにはマンハッタンかシカゴを思わせる高層ビルの一室。名うての色男ドン・ジョヴァンニはさながら貪欲金融資本主義の薄情なカリスマ投資家。そばに侍っているのは、いささかそういう貪欲にいやいや従っている秘書のレポレッロ。ドン・ジョヴァンニは、さっそくドンナ・アンナを手籠めにしようとしますが、そこに押しかけた父親ともみ合いになって手にかけてしまいます…という具合。

そういう大胆な置き換えがされているのですが、観ていてあまり違和感を感じないのは音楽がとてもしっかりしているからでしょう。

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第二幕の前半は、そういう拝金主義にまみれた乱交パーティのような場面。いやいやとは言いながら結局は金の誘惑でドン・ジョバンニの片棒を担ぐことになるレポレッロですが、ドン・ジョヴァンニになりすましてドンナ・エルヴィーラを相手にしているうちに変なことに。ドン・ジョヴァンニのほうは、そういう乱交の果ての疲れ果てたような荒廃の室内に現れた白百合のような女が奏でるマンドリンに合わせてセレナーデを唄う…という風に、実に流れが良いのです。

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先ずはタイトルロールのルーカス・ミーチャムが、そういうカネがあって実のない色男ぶりを好演。アメリカ人だけにこういう役作りはお得意というわけではないでしょうが、単なる成金だとかチャラ男というわけではない男の魅力を上手く演じるのはその見映えと歌唱力、演技力のなせる技でしょうか。

同じくアメリカ人のエヴァン・ヒューズも、そういう実のない権力に引きずられるようについていく三下ぶりを好演しています。

ドンナ・アンナ役のマンディ・フレドリヒも素晴らしい。復讐心には燃えているがどこか天然ボケ的な美女を演じて、ここかしこで男女の恋の機微とか矛盾を歌っている。

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女性陣の充実ぶりを示したのがドンナ・エルヴィーラ役のアガ・ミコライ。ドン・ジョヴァンニを執拗に追いかけ回し過去の不実を責めまくる女心が突然のように心変わりするアリアは、モーツァルトの音楽と人間観察の天才とも思わせる歌唱で、さすがの貫禄を示していた。

ドン・オッターヴィオ役のパオロ・ファナーレも、ドンナ・アンナのマンディ・フレドリヒと素晴らしい絡みでモーツァルトの軽快な恋の駆け引きで魅せてくれます。

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好調な歌手陣を引き立て、さらにはモーツァルトの音の厚みを聴かせてくれたピットのオーケストラもさすがというしかない。このオペラは、モーツァルトの歌劇のなかでも特にオーケストラが交響曲のように立派に響く。ストーリーのハチャメチャさにもかかわらず音楽の展開が変化に富んでいてしかも構造がしっかりしていて重厚なサウンドと集結部への方向感、運命の疾走感が素晴らしい。

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指揮者のジョナサン・ダーリントンは、そういえば私がハイレゾ音源としてよくリファレンスにしている「シンフォニック・リング」の指揮者。デュイスブルクフィルハーモニー管弦楽団を振ってワグナーの「指輪」からの抜粋をひとつの交響曲のように仕上げたものですが、この人はオペラを得意としながらそれをさながら交響楽的に鳴らすのが得意なのかもしれません。

それにしてもこれだけ充実したモーツァルトのサウンドを歌劇場で聴くことは滅多にないと思いました。



*上演写真はザクセン州立歌劇場のHPから拝借しました。


(続く)




ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト 歌劇「ドン・ジョヴァンニ」
ザクセン州立歌劇場ドレスデン
2018年6月23日(土) 19:00
ドレスデン ザクセン州立歌劇場(ゼンパー・オーパー)
(中央バルコニー 3列17番)

指揮:ジョナサン・ダーリントン
管弦楽:スターツカペレ・ドレスデン管弦楽団

ドン・ジョヴァンニ:ルーカス・ミーチャム
レポレッロ:エヴァン・ヒューズ
ドンナ・アンナ:マンディ・フレドリヒ
騎士団管区長:ティルマン・レーネベック
ドン・オッターヴィオ:パオロ・ファナーレ
ドンナ・エルヴィーラ:アガ・ミコライ
ツェルリーナ:アンケ・ヴォンドゥング
マゼット:マルティン=ヤン・ネイホフ




Musikalische Leitung Jonathan Darlington
Inszenierung Andreas Kriegenburg
Buhnenbild Harald Thor
Kostume Tanja Hofmann
Licht Stefan Bolliger
Chor Cornelius Volke
Dramaturgie Anne Gerber

Don Giovanni Lucas Meachem
Donna Anna Mandy Fredrich
Don Ottavio Paolo Fanale
Donna Elvira Aga Mikolaj
Leporello Evan Hughes
Masetto Martin-Jan Nijhof
Zerlina Anke Vondung
TIl Commendatore Tilmann Ronnebeck
Sachsischer Staatsopernchor Dresden
Sachsische Staatskapelle Dresden

Mit freundlicher Unterstutzung der Stiftung
Semperoper - Forderstiftung
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