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2018年07月23日12:20

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ゼンパーオーパーのカルメン (ドイツ音楽三昧 その9)

前回のドレスデン訪問では、やや不完全燃焼だったゼンパーオーパー(ザクセン州立歌劇場)でのオペラ。ベルリン、ライプツィヒと欲張った旅行だったのでスケジュールがうまく合わなかったことでたった一夜の体験。クリスマスシーズンだったためクリスマス定番の「ヘンゼルとグレーテル」ということで、どちらかといえばドレスデンのクリスマス観光という色合いになってしまいました。

というわけで、今回は、本来のというか、大人のゼンパーオーパー体験というわけです。

二度目の訪問でもやっぱりその意匠の素晴らしさ、音の良さに、感激を新たにしました。

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劇場内もさることながら、ホワイエの贅沢で美しい意匠がほんとうに素晴らしい。客席数こそ1,310と小ぶりですが、音のよさ、内部や外観の歴史的意匠の素晴らしさという点ではウィーンの国立歌劇場を上回るものだと思います。

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ビゼーの「カルメン」は昔からよくなじんでいたオペラです。オペラの生体験を始めた頃は何かというと「カルメン」で、あまり続くのでちょっとマンネリというのか食傷気味。せっかく張り切ってオペラハウスに来たのだから、もうちょっと他の演目を…と思ったこともあります。今でも「カルメン」は一、二を争う人気で、「椿姫」「蝶々夫人」(あるいは「トスカ」)というのは十八番のベストスリーかもしれません。

「カルメン」が人気なのは、ビゼーのメロディメーカーとしての天才が遺憾なく発揮されていることに尽きるのではないでしょうか。

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特に、第一幕の前奏曲からタバコ工場の喧噪のなかからカルメンが登場してハバネラ「恋は野の鳥」を歌う。陶然と立ち尽くす花をドン・ホセに投げつけて純情そのもののこの青年を誘惑するところまではドラマと音楽が一体となって一気呵成に進みます。

第二幕も、間奏曲「アルカラの竜騎兵」から「闘牛士の歌」のクライマックス、そしてドラマの大きな転換と運命の結末を示唆するドン・ホセの「おまえの投げたこの花を」まで、これまた息をつかせぬ展開です。

管弦楽法もシンプルでありながら、ソロ楽器のメロディや色彩の個性を存分に活かした技法がとてもチャーミング。そうした音楽や音色の魅力を遺憾なく発揮してくれるここのオーケストラは本当に素晴らしい。

ワグナーが、かつて“奇跡の竪琴”と賞賛したこともうなずけます。ヨーロッパ一のオーケストラと称えられ、コンサート専門のベルリン・フィルと妍をきそったというのも宜なるかな。けれども、戦争による歌劇場の焼失と東西分断が、このオーケストラの存在を長い間とても地味なものにしてしまいました。それでも、その美質が損なわれず伝統が今日に継承されたことは幸いでした。

そのことは数々の名録音でも確認できます。先に訪れたルーカス教会(ラテン語読みにしたがう日本では“ルカ教会”と表記)について、そのリハーサルを見学した小石忠男氏は『そのホールトーンは形容を絶する美しさ』と形容していますが、練習と録音を通じてその本来の洗練された優美な音色を保ち続けたということなのだと思います。

ライバルのベルリン・フィルは、どちらかといえば機能的で時には機械とも思えるほどの高性能ぶりを身上としますが、ここのSKDは絹のような弦の光沢と魅惑的な管楽器の音色が身上。東独時代、レパートリーがドイツ系に偏っていたことがかえって音楽性を深化させこそしましたが、決してその音楽に対する柔軟性を損なうということはありませんでした。そのことをこの「カルメン」を聴いて痛感しました。

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指揮者のアレホ・ペレスはブエノスアイレス生まれ。ラテン系の音楽にはうってつけですが、地元で学んだ後は渡独しハンブルク北ドイツ放送響でドホナニーのアシスタントを務めるなどドイツ音楽やドイツ流の指揮法にも練達し、このSKDから素晴らしいフランス音楽のエスプリとラテンジプシーの情熱を引き出していました。

残念なのは歌手陣。

タイトルロールのエレーナ・マクシモワもドン・ホセ役のダニエル・ヨハンソンもそれぞれに各地の歌劇場で実績もあり得意としている役柄とのことだったのですが、どうも花がない。わくわくするような蠱惑的な魅力とか、誠実さ純情さが仇となり周りが見えずに逆上していくストーカー青年の狂気などが感じられない。エスカミーリョのヴィトー・プリアンテもこの役としては珍しくカッコよいイケメンなのですが、モテる男の突き抜けるような脳天気さに欠ける。

そのためかドラマとしての緊張感が次第に緩んで行き、最後の凶行の場面でもいまひとつ盛り上がりに欠けていました。そのせいなのか客席も集中力が乏しく、このオペラの大事な魅力である間奏曲が始まっても幕間の弛緩を引きずってざわつきが収まりません。第三幕の「間奏曲」では素晴らしいフルートのソロの演奏があったのですがちょっと残念でした。

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こうなってくるとミカエラに光が当たってくるのがこのオペラの不思議なところ。ゲニア・キューマイアーが、ひたすらにドン・ホセへの純情とその母への誠実さを歌い上げて素晴らしかった。アーノンクールの「ドイツ・レクイエム」にも起用されている実力者。手堅い配役というこの歌劇場の誠実さをそのまま浮かび上がらせた絶唱でした。

ゼンパーオーパーの音楽の魅力は、そのままSKDという管弦楽団の魅力です。財力面で劣るドレスデンはなかなかスーパー歌手を呼ぶことができず、音楽監督であるティーレマンも出稼ぎに忙しく留守がちということなのかもしれません。

(続く)


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ジョルジュ・ビゼー 歌劇「カルメン」
ザクセン州立歌劇場
2018年6月22日(金) 19:00
ドレスデン ザクセン州立歌劇場(ゼンパー・オーパー)
(1階席右 9列28番)

指揮:アレホ・ペレス
管弦楽:スターツカペレ・ドレスデン管弦楽団

カルメン:エレーナ・マクシモワ
ドン・ホセ:ダニエル・ヨハンソン
ミカエラ:ゲニア・キューマイアー
エスカミーリョ(バリトン) 闘牛士:ヴィトー・プリアンテ
ほか

ザクセン州立歌劇場少年合唱団







Ausgewahlte Veranstaltung
Montag 1. Oktober 2018
Beginn 19:00 Uhr
Pause Nach 85 Minuten
Ende 21:50 Uhr
Gesamtdauer 2 Stunden 50 Minuten

Veranstaltungsort Semperoper Dresden
Werkeinfuhrung (kostenlos)
45 Minuten vor Beginn der Vorstellung im Opernkeller
Besetzung
Musikalische Leitung Alejo Perez
Inszenierung Axel Kohler
Buhnenbild Arne Walther
Kostume Henrike Bromber
Licht Fabio Antoci
Choreografie Katrin Wolfram
Chor Jorn Hinnerk Andersen
Kinderchor Claudia Sebastian-Bertsch
Dramaturgie Anne Gerber, Nora Schmid, Anne Gerber

Carmen Elena Maximova
Don Jose Daniel Johansson
Micaela Genia Kuhmeier
Escamillo Vito Priante
Remendado Aaron Pegram
Dancairo Sheldon Baxter
Morales Jiri Rajnis
Frasquita Tania Lorenzo
Mercedes Grace Durham
Lillas Pastia Enrico Schubert

Sachsischer Staatsopernchor Dresden
Kinderchor der Sachsischen Staatsoper Dresden
Komparserie der Sachsischen Staatsoper Dresden
Tanzerinnen und Tanzer


Projekt Partner:
Sparkassen-Finanzgruppe Sachsen
Ostsachsische Sparkasse Dresden
Sparkassen-Versicherung Sachsen
Sachsen Bank

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