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2017年12月18日18:59

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シアワセな夜のひととき 新ダヴィッド同盟 第5回演奏会

コンサートが始まり、音楽が奏でられると「ああ、何て幸せなんだろう」と思いました。そして、閉演すると、再び、「ああ、とても幸せだった」と思ったのです。この夜のコンサートはほんとうにそのひと言に尽きます。

水戸芸術館での、新ダヴィド同盟の第5回目となるコンサートのことです。

「新ダヴィッド同盟」とは、世界的に活躍するヴァイオリニスト庄司紗矢香の呼びかけで水戸芸術館専属の楽団として2010年に発足した室内楽アンサンブル。当時の同館館長であった吉田秀和氏の命名したその名はシューマンに由来します。メンバーは、庄司を中心とする人気若手たちとベテランという構成で、ここ水戸でしか聴けないアンサンブル。

世界を駆け巡る人気者ということもあって、なかなかスケジュールを合わせるのが大変です。前回のふたつの演奏会は、メンバーのなかでチェロの石坂団十郎が参加できずゲストとしてクライヴ・グリーンスミスが参加。今回は、ヴァイオリンの佐藤俊介が参加できず、一人欠いた四人でのコンサートとなりました。

プログラム最初は、その石坂団十郎とピアノの小菅優。

石坂ってこんなに素敵なチェリストだったかしらと、最初から幸せになったのは、その魅力的なチェロの音色でした。よくよく考えてみれば石坂を聴くのは多分今回が初めてだったのです。とても滑らかで柔らかく暖かい艶のある音色です。深く沈潜する嘆きのような響きも高らかに歌うテノールの甘いハイトーンも、いずれも力みがなく自然な振る舞いです。そして何よりも、音程が安定しています。使用楽器は、ストラディバリウス「フォイアマン」。ほんとうによい音です。

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シューマンの幻想小曲集は、チェロの小品としてよく弾かれる曲です。歌にあふれていてシューマンらしい自由でいてそしていじらしいまでの叙情と憧憬に満ちた曲。

かつてよく聴いていたディスクは、マイスキーとアルゲリッチのデュオ。

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どちらかというとシューベルトのアルペジオソナタばかりを聴いてしまいますが、このシューマンもこのデュオの持ち味がよくでた佳演になっています。マイスキーの孤独とアルゲリッチの影のある情熱がとてもロマンチック。

でも、最近は、こちらばかりを聴いています。

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どうしても一緒になれないすれ違いの男女のようなマイスキーとアルゲリッチに較べて、ガベッタとグリモーのデュオはずっとずっとひとつに融合していて、ガベッタの陽の光のように輝かしい歌と、その陽に照らされて輝く豊穣の金麦の大地のようなグリモーの熱い響きがとても心地よいのですっかり気に入って聴いています。

石坂と小菅のシューマンは、マイスキーらよりもこちらに近くてとても融合的。小菅のピアノは、今回はとても控えめで、石坂のチェロの受けに徹しているようなところがあって、それはグリモーとは違った持ち味ですが、そういう純朴さが石坂の純な情感を引き立てているのです。

二曲目は、前回の演奏会に引き続きコダーイの小品。初めて聴きますが、前回のヴァイオリンとチェロの二重奏と違って、マジャール風の民俗的な土臭さはあってもオーストリー・ハンガリー帝国の経済的に豊かな都会的な洗練味があふれる弦楽トリオ。まさに「間奏曲」というにふさわしいプログラムの位置づけです。弦のハーモニーがほんとうに心地よい。

前半の最後は、ベテランの磯村和英のヴィオラで、再びシューマンの「おとぎの絵本」。

原題「Marchenbilder」で英語では「Fairy Tale Pictures」と訳されています。《メルヘン》も《フェアリーテール》もなかなか日本語にはぴったりした言葉がありませんが、「子供に聞かせる昔話」とか「童話」とかではなく日本神話のような「神話」とか「神々(精霊)の物語」というようなものだと思います。ロマン主義時代に神話や伝説をイメージした夢物語として流行しました。シェークスピアの「真夏の夜の夢」みたいなものを思い描くとよいでしょう。

ベテランの磯村は、出だしこそ不安定な感じがありましたが、無為夢想の無邪気さや枯淡の滋味をよく醸し出していました。開演直前にプログラム順番の入れ替えがアナウンスされましたが、この曲が瞑想的な静かな楽想のままに終わるので迷いがあったのだと思います。それでもとてもゆったりとした気分にさせる前半の締めくくりでした。磯村は東京クァルテットの創設以来のメンバーで1945年生まれの大ベテランですが、いかにもヴィオラらしい人となりで、この若手集団のよい接合役としてこれからも続けてほしいと願う気持ちでいっぱいになりました。

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この曲も、佳品としてアルバムのなかに埋もれがちですが、定盤はバシュメットのものでしょう。技巧も音色も冴え渡り、シューマンの内向的で沈潜するような情感をよく表現しています。

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でも、私がよく聴くのは今井信子とヴィニョーレスのデュオ。ずっと穏やかで瞑想的な深みもあります。シャンドスの録音は、やや音像が遠目ですが、そのことで遠い夢見るようなメルヘンの尽きない想像の揺らぎが心地よい。磯村のこの演奏とよく通じるものがあります。


そして後半は、50分近い大曲となるブラームス。

最近、ベルリン・フィルの樫本大進がNHKの番組で紹介されてちょっと話題になりましたが、実は樫本が正式にコンサートマスターに就任する直前に、そのことを激励祝賀するかのようなコンサートがこのブラームスのピアノ四重奏曲全曲演奏でした。

http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1510879131&owner_id=26897873

ピアノは、今回と同じ小菅優。そしてヴィオラが水戸でもおなじみの川本嘉子、チェロは趙静という豪華なメンバーでした。

この時に予習のためにと買い求めたのがこの2枚セットのCD。

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第1番は、シェーンベルクによるオーケストラ編曲版ばかりを聴いていて原曲はろくに聴いておらず、レコードもCDも持っていないことに気づいたのです。それで探してみたのですが、やはり地味な演目ということもありあまり入手可能なディスクがありません。それで全3曲を網羅したこのセットにしたのです。日本のレーベルによる日本の演奏家を紹介しようというディスクにしてはちょっと渋くて大がかりですが、弦楽器はすべてウィーン・フィルのメンバーによる弦楽トリオ。聴いてみれば演奏も録音も素晴らしい。

長い大曲で、聴きどころは満載。若いブラームスですが、壮年期、晩年を想起するブラームスらしい要素がちりばめられています。第2楽章のポコ・アダージョの美しい叙情がやはり忘れがたい印象でした。特に、小菅の鬱積した感情をぶつけるような激しい和音が響いた後に、庄司の高域の美音と磯村の滋味あふれる中域が混然と美しいハーモニーとなるところはやはり絶品。水戸の美しい響きのホールで親密な音色を聴ける幸福感に浸りました。

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コンサートの後は、ご一緒したGRFさん、そして、地元のロベルトさんご夫妻、そしてご案内いただいたエビネンコさんと大洗町のお店でアンコウ鍋をいただきました。アンコウというのは、キモ、卵巣、エラ、胃袋、トモ(尾)、ぷりぷりの皮、柳肉(身の部分)まで七つの味があって、それぞれ違った食感と濃厚な旨味を楽しめるのですが、おいしいミソ味の出しの中でそういう多彩な食感と混然とした融合した旨味の楽しみというのは、これもまた味の室内楽とでもいうもの。楽しい音楽談義とともに、この夜のシアワセの第2楽章でした。

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GRFさん、ロベルトさん、エビネンコさん、ありがとうございました。








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新ダヴィッド同盟 第5回演奏会
2017年12月17日(日) 16:00
茨城県水戸市 水戸芸術館コンサートホールATM
(D列19番)

庄司紗矢香(ヴァイオリン)
磯村和英(ヴィオラ)
石坂団十郎(チェロ)
小菅優(ピアノ)

シューマン:幻想小曲集 作品73
(石坂、小菅)
コダーイ:間奏曲
(庄司、磯村、石坂)
シューマン:おとぎの絵本 作品113
(磯村、小菅)

ブラームス:ピアノ四重奏曲 第2番 イ長調 作品26
(庄司、磯村、石坂、小菅)

(アンコール)
シューマン:ピアノ四重奏曲 変ホ長調 作品47より第3楽章


(  )内は各曲の演奏者

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