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2018年01月17日18:46

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ニューイヤー・ガラ・コンチェルト2018

今年のコンサート始めは、久しぶりのフィリアホール。

フィリアホールは、中規模なリサイタルホールで音の響きもよく、コンテンツもよいのでよく来ていましたが、私の家からはちょうど東京を北東から西へと横断する形で遠くて通うのがちょっとしんどい。そういうこともあって、この2年ほどはご無沙汰だったのです。

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ところが何がどうだったのかよく覚えていないのですが、年末にふと新年の日程を確認していたらこのチケットが手元にあったのです。年始に華やかな顔ぶれをそろえてのコンチェルトばかりのガラコンサートというのも楽しそうということもあったし、よい席が空いていたので久しぶりに行ってみるかと思っての衝動買いだったのでしょう。土曜日の女流演奏家のシリーズも、今年は私の好きなメンバーが目白押しで、この流れでシリーズ券の復活となりました。

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最初は、若手ヴァイオリニストの毛利文香さんの登場。2012年ソウル国際音楽コンクールで日本人初・最年少で優勝するなど錚々たるキャリアですが、現役の慶大生とまだとてもお若い。

それだけにちょっと緊張気味の面持ちで登場。少し硬かったかもしれません。緊張がほぐれてきたかなと感じたのは、一曲目を終え拍手を受けて少しほっとした表情を見せてあたりから。優雅で純白のウェディングドレスに包まれた花嫁のようなベートーヴェンのロマンス。

オーケストラは、指揮者なし。こういう時は、誰がどういう風にリーダーシップを取るのだろうかと見ていました。コンマスの山口さんは超ベテランですが、ステージ上で積極的にリーダーシップを取る人ではないようです。楽員の皆さんは、コンマスの様子をうかがったり、ソリストを気遣ったりといささか目が泳ぎ気味。

この日は、これまた久々の最前列中央というかぶりつきの席。

フィリアホールのステージは低めなので、ほんとうに演奏者との距離が近い。それだけに、音が近いというだけでなく、ステージ上の演奏者の細かな表情や視線、あるいは息づかいといった空気感までつぶさに感じられてしまいます。

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これが功を奏したのは、二人目の宮田大さんのチェロ。

なにしろ、私と完全に向き合うように原田さん真っ正面に座ってチェロを構えるので、思わず目のやり場に困ったほど。けれどもその音楽は、まさにこの日の圧巻でした。

一曲目のヴィヴァルディから、原田さんはオーケストラをぐいぐい引っ張っていきます。こうなってくるとオーケストラもがぜん活気づいてぐいぐいと鳴ります。不思議ですが、メンバーの視線は確信をもってリーダーの山口さんに集まってきます。原曲はヴァイオリンですが、原田は精気満々な闊達な演奏。新春の希望に満ちあふれています。

この曲は、バッハが一連のイタリアの協奏曲をクラヴィール独奏用に編曲したもののひとつにあります。

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私の持っているCDは、北谷直樹のものでチェロとテオルボが参加したちょっとばかり変則版でうまく鳴らすのには苦労したもの。それが久しぶりに取り出して聴いてみると鮮やかに鳴ってくれてうれしい。

2曲目は、おなじみの「コル・ニドライ」。ピアノ伴奏でもなく管弦楽伴奏でもなく、ちょっと珍しい弦楽合奏伴奏に編曲されたもの。それが、ホールの暖かい親密な響きに包まれてしみじみとユダヤの哀感に満ちた旋律を歌う。ソリストとは相対するようにわずか2メートルほどの距離なので、チェロが深々と胸に響き、自分自身がストリングスオーケストラに包まれているかのような錯覚さえあります。

原田さんの楽器は、1968年製ストラディヴァリウス「シャモニー」と1710年製M.ゴフリラーのふたつがクレジットされていて、どちらの楽器なのかわかりませんが、私にはストラディヴァリウスのようには思えませんでした。少しくぐもったような愁いを含んだ音色と瞑想的な低弦の沈み込みが、このユダヤの祈りにはとてもよく似合います。素晴らしい体験でした。

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三人目は、田部京子さんのモーツァルト。

端正で穏やかな落ち着いたモーツァルトで、きびきびと家事に立ち働く凜とした新妻のようでもあり、床に飾る花を生ける美しい仕草も感じさせる。そんなモーツァルト。この日は、楽器が調子があまり好ましいとは思えず少しタッチが重めに感じ、音色も濁っていたところがあったのは残念です。一方でオーケストラはとても佳演で特に木管群が素晴らしかった。さすがN響メンバーです。

この曲の美しい場面は、やはり第2楽章のシチリアーノ風のアダージョ。田部さんのリリシズムが存分に発揮された美しい時間でした。

この第二楽章の終わりのほうで、弦楽器群のピッチカートにのってピアノの音がポツン、ポツンと明滅するところがあります。残燭の焔がいまわの果てに揺らぐような、情が燃焼し尽くす美しいシーンです。ここにはふた通りの演奏があることに気がつきました。

手元のスコアでは、弦五部全てにピッチカートがついているのですが、ここではヴァイオリンパートだけはアルコの十六分音符で後拍を刻むというやり方が多いようです。現に田部さんたちもそうしている。

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いろいろ聴いてみると、アルコで刻むやり方が圧倒的に多数のようです。こういうことはピアニストが決めるのでしょうか、内田光子さんは新旧どちらもそうしていますし、グルダもそう。

ヴァイオリンもピッチカートで演奏するのは少数派ですが、メジャーなところではポリーニ/ベームがいます。新しい録音では、エレーヌ・グリモーがピッチカート派。

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話しはどんどん本題からずれていきますが、このグリモーのモーツァルトは、アバドと仲違いした曰く付きのもの。

それはカデンツァをめぐってのこと。

当初DGが企画したのは、アバドとその手兵モーツァルト管弦楽団とボローニャで録音セッションをもった。グリモーが弾いたカデンツァは、ブゾーニ版。あのホロヴィッツが「恋に落ちた」とまで言ったカデンツァ。グリモーは、12か13歳の頃、そのホロヴィッツのレコードを聴いてこれまた「恋に落ちた」。以来、ブゾーニ版以外を弾いたことがなかった。

アバドは、グリモーに試しにモーツァルトも弾いてごらんと言った。それが別テイクで収録されたが、その後、アバドがモーツァルト版のテイクを採用するように要求。これに対して、グリモーは「カデンツァはソリストの専権事項」と譲らない。そして、ただちにドイツグラモフォン(DG)に対してレコーディングをブロック。二人の決裂が決定的になった。

もちろんこのCDでは、そのブゾーニ版のカデンツァが聴ける。もし23番のコンチェルトがお好きで、あれこれ同曲異演のCDを聴くことをいとわないのならば、もしグリモーのモーツァルトがお好きでなくとも、このCDはお薦めです。第2楽章のアダージョもとびきりの名演のひとつだと思います。

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この日は、新春のガラコンということで、シャンペンのサービスつき。無料サービスとあって思わず白だけでなくロゼまでお代わりしてしまいました(笑)。

郊外住宅地のコンサートホールなので、皆さんは普段着の方ばかり。装いは地味ですが音楽好きの人々が集う新春特別公演の華やいだ雰囲気が素敵な土曜日でした。





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ニューイヤー・ガラ・コンチェルト2018
2018年1月13日(土) 15:00
横浜市青葉区 青葉区民文化センター フィリアホール
(1階1列12番)

ピアノ◎田部京子 KYOKO TABE
チェロ◎宮田大 DAI MIYATA
ヴァイオリン◎毛利文香 FUMIKA MOHRI
管弦楽◎N響メンバーによる室内オーケストラ*(コンサートマスター:山口裕之)


ベートーヴェン:ヴァイオリンと管弦楽のためのロマンス第1番ト長調op.40
                          第2番ヘ長調op.50
(アンコール/毛利文香)
バッハ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第2番より第3楽章アンダンテ

ヴィヴァルディ:チェロ協奏曲 ニ長調op.3-9 / RV.230 (原曲:ヴァイオリン協奏曲)
ブルッフ(P.ウッド編曲):コル・ニドライ(チェロと弦楽合奏のための)
(アンコール/宮田大)
バッハ:無伴奏チェロ組曲より第1番プレリュード

モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番 イ長調 K.488
(アンコール/田部京子)
メンデルスゾーン:「無言歌集」よりヴェネツィアの舟歌




*N響メンバーによる室内オーケストラ
コンサートマスター◎山口裕之 1stヴァイオリン◎大林修子 宇根京子 高田知恵
2ndヴァイオリン◎木全利行 俣野賢仁 丹羽道子
ヴィオラ◎佐々木亮 松井直之
チェロ◎向山佳絵子 宮坂拡司   コントラバス◎志賀信雄
フルート◎中村淳二   オーボエ◎荒絵里子 中山亜津沙
クラリネット◎三界秀実 芹沢美帆 ファゴット◎水谷上総 田邊綾乃
ホルン◎西条貴人 村中美菜

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