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2017年02月21日10:42

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宮沢明子のLP

先日、新宿のレコード店で、えさ箱をあさっていた。妻との待ち合わせの時間つぶしに過ぎず特になにかを買うつもりはなかったが、ふと「邦人ピアニスト」というコーナーが目にとまった。そこには、あれば買うつもりにしていた宮沢明子のレコードがけっこう箱の中にあった。以前、同じ店で見つけたラモーやクープラン、スカルラッティを集めたバロック曲集のレコードが素晴らしかったからだ。

宮沢明子さんの近況はよく知らないけれど、とても好きな日本人ピアニストのひとり。学生時代に、その頃から付き合っていた今の妻を誘って上野の文化会館小ホールへ一緒にバッハを聴きに行ったことがある。あの頃は、誰もがG.グールドの亜流に聞こえて、実際に何かしらはそうだったのだろうと思うが、それでも実演を聴いてみると実にフレッシュな演奏だった。「イタリア協奏曲」の「アンダンテ」で見事にタッチを弾き分けていることに心底驚いたことを鮮明に覚えている。この曲は明らかに二段鍵盤のために書かれていて、下段にあたるパートをリュートストップを模倣して弾き分けたのだ。

宮沢さんの録音というと、それはとりもなおさず菅野沖彦氏の録音ということにもなる。

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評論家の嶋護氏の「菅野レコーディングバイブル」のなかの一節を借りると『菅野録音といえば、けっきょくはピアノ録音である』ということなのだ。菅野氏の録音は、クラシックばかりではなく武満徹などの現代曲や、ジャズまで広範囲にわたり幾多の名録音を残しているが、やはりピアノがよい。あのピエール・ブゾンの「ラ・ビー」「モン・クール」にしろ菅野邦彦にしろピアノ録音にこそ格別の傑作を残している。そして嶋護氏が先の言葉に続けているように、『そして宮沢明子が、なんとたったひとりでこのディスコグラフィーの一割以上を占めていることを考えれば、これこそが菅野録音のコアだと言っても、これまたかまわないはずだ』ということになる。

今回、手に入れたのは、三枚。

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懐かしいバッハのアルバムは、まずは恐ろしく速い「イギリス組曲」にたじろいだ。このディスクが一番コンディションが悪かったが、丁寧にクリーニングしたらまるで別物になった。速いがけっして異端でも異形でもない。緩急のめりはりがあってとても舞曲的で楽しい。

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ショパン・アルバムは、やはりワルツやポロネーズ、スケルツォなど舞曲のリズムの小曲を集めたもので、ショパンの叙情的な情緒を綺麗に洗い上げた清澄なアーティキュレーションが宮沢さんの独自のショパンになっている。バッハと同じスタインウェイだが、楽器が違う。会場もバッハの都市センターホールよりもこの入間市市民会館ホールのほうがよりクリーンな響きがする。

三枚のなかでもっとも印象深かったのがモーツァルト。

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菅野氏とのモーツァルト・ソナタ全曲録音の余勢をかって録音された「モーツァルト・アンコール」と称する小曲集。菅野氏のピアノ録音の名声を高めた青山タワーホール、ベーゼンドルファーを使用した録音。燦めくような高域と深々とした低域の響き、歌うような中域と、このピアノの音色と響きが迷彩色で弾き分けられ、しかも整った歯切れの良いアーティキュレーションが一貫していて美しい。他の2枚のスタインウェイもそうなのだけれど、このベーゼンドルファーの録音にはピアノの響きの旨味成分のようなものが特にたっぷりと含まれている。こういう滋味が自分のシステムから染みだしてくるのはうれしい。生演奏とは違ったオーディオの至福の瞬間だ。

試しに、「菅野レコーディングバイブル」に附属していたCDをかけてみた。同じ録音はなかったがバッハやモーツァルトをかけてみたが、CDではアナログLPのようなピアノの旨味が再現できない。やはり磨き上げたアナログLPでなければそれは再現できないのだろうか。必ずしもオリジナルがよいというわけではないが、トリオレコードやオーディオラボのアナログLPには絶対に近い信頼が持てる。

よい買い物をしたと思う。
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