１『女中』
２『女と男の時空――日本女性史再考�后£�ぎあう女と男――近代』
３『妾と愛人のフェミニズム』
上記３冊のうち、まず阪本博志編『女中』（皓星社、2022年11月初刷発行）を読んで、思い、考えるところがあった。この本は「シリーズ紙礫」の１６冊目。「失われた職業」である女中として、一般家庭に住み込みで働く若い女性たちを描いた小説群から、社会学的および歴史研究の素材として読み解き得る短中編小説１０篇を選んだアンソロジー。初出が一番古いのが1917年、新しいのが1967年。作者には志賀直哉、太宰治、大岡昇平、三島由紀夫、深沢七郎、水上勉…と、文学史や文学全集に名を連ねる大家が過半数を占める。
ただ僕は、冒頭の由起しげ子「女中ッ子」を読んだだけで半ば満足し、しばらくは続けて読む気がしなかった。作者の名には馴染みがなかったが。初出は1954年12月号で、1955年には話題作となり、左幸子の主演で映画化され、この映画の１シーンが本全体のカバー写真にもなっている。内容は、東北の農村から上京し、女中として働く主人公と親から愛されていない男の子の「心の交流」が軸。カバー写真に映るのは主人公の左幸子と小学校低学年くらいの男の子である。
ストーリーの軸となるのは家庭内の小さな事件（クリーニング屋から届いた奥様のコートの行方が分からなくなる）で、ちょっとした行き違いから主人公は解雇されるが、彼女は敢えて潔白の主張はしないまま、真相は心の底に秘めてその家を去る。その時点では、懐いていた男の子ももう「女中ッ子」を卒業していた。――この事件が取材によるものか、作者の想像力の産物なのかは不明だが、人生のさまざまな経験の襞にしまい込まれていそうな、そんなこともありそうなエピソードである。
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