いま読みかけなのはレヴィ=ストロース『悲しき熱帯』(川田順造訳)(中央公論・世界の名著の1冊。マリノフスキー『西太平洋の遠洋航海者』と合本で、ともに抄訳)。若桑みどり『クアトロ・ラガッツィ』ハードカバーの800グラムほどでないが、600グラムあってやはり読みにくく、まだ序盤なので読了できるか…。
このところ、人類学者の本を読みかじっている。きっかけは松村圭一郎『くらしのアナキズム』。この本で紹介されているデヴィッド・グレーバーというアナキスト人類学者は何冊も大著を著しているが、直接向かう気がせず、その思想の源流とされるマルセル・モースを読む気になった。岩波文庫版『贈与論 他二編』の小論2篇は読んだが、メインの贈与論は序盤で中断。積読だったちくま学芸文庫版も見つかったが。他にもマリノフスキーやマーガレット・ミードをいくつか入手したが、読了したのは、山田吉彦の『モロッコ』ときだみのる『にっぽん部落』のうち前者と、川田順造『マグレブ紀行』で、3冊全て岩波新書。
僕が山田吉彦(1895-1975)は、本や映画の『気違い部落』の作者・原作者である「きだみのる」の本名と知ったのは最近。山田は慶應義塾大学中退後パリに留学し、ソルボンヌ(パリ大学)でマルセル・モースに師事し社会学・人類学を学んだ。『モロッコ』の奥書によると、ホメロス研究家でもあり、モースやデュルケーム、レヴィ・ブリュルはもとよりファーブル『昆虫記』も訳している。
山田がモロッコに旅したのは1939年の春夏の間で、『モロッコ紀行』という本を戦時中の1943年に出し、岩波新書『モロッコ』は1951年に出ている。戦中版は未読だが、今回読んだ岩波新書では、怪しげなシーンも出てくることが文学的でもある。モロッコの街を現地の男に案内されるうちに細い路地に連れていかれ、とある家に入ると女がいたり、道に面した立ち飲みの出窓で女と話すうちに奥の路地だか部屋に誘われて二人きりになる…。
一方、主に黒人アフリカが研究対象の文化人類学者・川田順造(1934〜)の『マグレブ紀行』にそんな怪しげなシーンはない(著者が山田吉彦のような行動をとったか否かは不明だが)。川田がマグレブ(アラビア語で「日の沈む国」。ここでは狭義のチュニジア、アルジェリア、モロッコ)を旅したのは1969年。実際に旅で接した自然、人々、風物習慣等を描くとともに、自分の感想や考察を加える。その考察の根拠として古代から中世、近代の欧文文献が巻末に挙げられている点が学者の紀行文らしい。壁や天井に果てしなく幾何学模様が展開されるイスラム寺院の世界に浸った影響か、巻末ではモロッコ領に囲まれたポルトガル領の街のキリスト教会で、血まみれのキリストを抱くマリアの像を見て「ひどく気味がわるかった」と表白している。
ログインしてコメントを確認・投稿する