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2020年12月03日21:28

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『人生劇場(青春篇)』

を読んだ。何度も映画化された、タイトルも作者の尾崎士郎も有名な小説だが、読んだのは初めて。読む気になった直接のきっかけは、最近出た『昭和史の隠れたドン 唐獅子牡丹・飛田東山』で、実在の人物・飛田東山(ひだとうざん)をモデルにしたのが『人生劇場』に登場する吉良常とされていると知ったことだった。

ただし、大長編となった『人生劇場』の少なくとも最初の「青春篇」に出てくる吉良常は、「隠れたドン」にはほど遠い、しがないヤクザくずれである。ただ終盤近くで、三州吉良(現在の愛知県西尾市)を後に上京してかつての子分に会い、そのもてなしぶりなど一切が気に入らず機嫌を損ねてやけになる心理描写には、作品中で一番リアルな迫力ある筆力を感じた。

描かれる時代は、主人公・青成瓢吉の吉良での少年時代、日露戦争前後の明治後期から、東京早稲田で学生生活を送る大正前期。この小説で初めて知ったが、大正6(1917)年には「早稲田騒動」と呼ばれる事件があった。新学長選出を巡る大学幹部や教授間の派閥争いが学生らにも飛び火した。騒動に飛び込んだ瓢吉は早稲田の政治学科を退学するに至るが、これは作者の伝記的事実に一致している。

この時代、大隈老侯こと、早稲田の創設者・大隈重信は既に総理大臣をはじめ要職を歴任しした大立者で、学生らには雲の上の存在だが、「うちのおやじ」とも呼ばれていた。

瓢吉と友人らの恋愛事件・女性事情を含む学生生活・青春模様のグダグダに飽きたあたりで、終盤には瓢吉と友人が一挙にコミンテルンのスパイ事件に巻き込まれ、大河小説の予兆となる。

書かれた内容が明治末から大正で都新聞への連載が昭和8(1933)年、本になったのが昭和10(1935)年だから、知らなかった風物風俗も少なくない。その中で印象に残ったのが(古典落語などのネタにあるかもしれないが)、「馬」なるものだった。
 登場人物の一人が吉原で泊まった翌朝、「馬が付いてきた」のだ。辞書を引いて確認すると、「遊郭で遊んだ客が帰る際に払う金がないと、払うまで付きまとう取り立て係」のことである。それが吉原(あるいは他の遊郭なども)のしきたりで珍しくないから、作者は説明していない。
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