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2015年09月01日06:40

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ミュンヘンオペラ「マノン・レスコー」(ドイツ音楽三昧 その6)

いよいよ私たちのバイエルン国立歌劇場での観劇も最終夜です。

この日も、日中はミュンヘン市内の美術館や近郊のお城をゆっくりと観光。

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美術館は、前回、休日の関係でノイエではなく、アルテピナテコークのほう。こちらも改装中での部分公開になっていましたが、かえってコンサイスな展示で代表的な美術コレクションを集中的に観ることができました。昼食もこちらでソーセージとビール。美術館のカフェやレストランは、観光客には手軽でしかもお洒落なのでいいですね。

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それからレンバッハハウス美術館。19世紀末に活躍した画家でもありコレクターでもあったレンバッハ侯爵の邸宅・アトリエを改装した美術館。建築としての邸宅そのものも興味深く、19世紀末から20世紀にかけてミュンヘンで活躍した画家の収蔵は超一流で、特に、音楽評論家・吉田秀和さんが愛したカンディンスキーのコレクションはぴかいちです。日本人にとっての観光としては地味な存在かもしれませんが、実は、こちらのほうが訪問者が多かったのです。

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レジデンツやニンフェンブルク城は以前に行ったことがあるので、近郊のシュライスハイム城に行ってみました。Sバーンで北へ20分ほどのオーバーシュライスハイム駅で下りて徒歩15分ほどのところに広大な庭園と新旧3つの宮殿があります。

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こちらも観光としては地味な存在なのか、人はまばらですがそのスケールと静かで豊かな環境は気持ちがよく、小体なルストハイム城内にはマイセン陶器や、それ以前の古伊万里、古九谷、柿右衛門などのコレクションが展示してあって、ドイツやヨーロッパのひとびとが日本の白陶磁器に抱いた憧憬とそれを国産化しようと燃やしたすさまじい執念のようなものに感慨深いものがあります。

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夕食は、ホテルに戻る途中でサンドイッチを買い込んで済ませました。着替えるといざ再びオペラハウスに参上です。

この日は、「マノン・レスコー」。こちらは何といってもデ・グリューのカウフマン。もともとは、ネトレプコとの豪華デュオだったのでチケットはあっという間に売り切れ。ところがネトレプコは演出が自分には合わないと降板。それでもチケットはなかなか手に入らず、私たちはやっと「立ち見席」のチケットを入手したのです。

ウィーンでもロンドンでもヨーロッパのオペラハウスには、必ず「立ち見席」があって、時間と手間さえ惜しまなければ高嶺の花のように敷居の高いオペラであっても何とか安く入手可能です。こちらのバイエルン国立歌劇場でも、先日の「ドン・カルロ」や「ルチア」は170ユーロ、120ユーロでしたが(それでも決して高価ではない)、この立ち見席は何と18ユーロ(約2500円)です。

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どんな席なのかと、行ってみるとこちらではまさに天井桟敷。三通りの席があるようで、中央の最深部の席は高いスツールに半分腰掛けるようになっているもの、左右両側には通路のバーに番号が振ってあるだけの文字通りの立ち見、そして、私たちの席はその「立ち見」のさらに後の椅子席でした。同じ「立ち見席」でもこのようにかなりの格差があって、中央の腰掛け席は、1階席中央の最上席とは別の意味でチケット入手最難関の席のようです。

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さて、私たちの「椅子席」は、座ってしまうと舞台がまったく見えません。立っても前の立ち見のひとの影になってやっぱり見えません。前のバーに足をかけて背伸びすればかろうじて舞台が見えるというシロモノ。ところがこの席だけには、手元を照らすランプがついています。どうも音楽学生や通のファンがリブレットやスコアを読みながらもっぱら音を聴くという席のようでした。私は、半ばあきらめて大半を座っていましたが、家人は周囲のひとに手招きされて裸足で階段上の場所まで出張って行って立ち見を楽しんでいました。まさに女性の特権丸出しですが、この立ち見席はそういう連帯感と親密さもあって独特の雰囲気です。

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こんな場所ですから、立ち上がったり、移動したり、ふてくされたように足を投げ出したりと、それぞれ各様の行儀の悪さですが、ディープで熱い愛好家ばかりのせいか、不思議と邪魔にならないのです。マノンのアリアでは、聴かせどころであってもそのまま劇が進行するために拍手無しが約束事のアリアが多いのですが、そこで場違いな「ブラヴォー」をやった輩には、この天井桟敷から容赦ない失笑のため息と「しーっ」と制する声が、密やかにかつ敢然と響きます。何とも熱い熱い場所でした。

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そういうわけでここからの視角はまさにパーシャルビューでしたが、音響の素晴らしさは天井が間近に迫るこの天井桟敷であっても少しも遜色がありません。何とも不思議でならないのですが、カウフマンの情熱あふれる強く透る歌声は、時にトランペットのように伸びやかに、時にクラリネットのように哀感を含んで、胸に直接突き刺さってくるのです。オーケストラの弱音のソロであっても実に鮮やかなほど明晰に、トゥッティでは劇場空間に充足するような厚い響きに包まれます。1階席の上席であっても、最後列の庇の下であっても、そして、最悪の末席である天井桟敷であっても存分にその音楽が楽しめるという素晴らしいオペラハウスがこの世に存在するということを知っただけでも衝撃の体験でした。

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演出も、極端なまでに切りつめた簡素な舞台。出港する間際の桟橋の場面であっても横組みの足場のようなものがあるだけ。荒野の最終場面は、ほとんどまっさらなステージです。なるほど、どちらかと言えば古典的な舞台演出を好むネトレプコが嫌ったわけですが、それだけにプッチーニの音楽の魅力満載の純音楽的なオペラ。カウフマンの独壇場でした。

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